第九話
八日目の朝。草原の町、最初の町に戻っていた。今すぐにでも3つ目のステージ、廃墟をクリアしたいと思っていたが一つ、思いもしない懸念が生まれていた。
昨日あのパーティから別れた後から、誰かにつけられている。昨日実装させた見た目装備がもう活かされそうだった。十希の店により、素材からバンダナとマスクをもらった。1ステージで作れる防具ももらった。「布の服」「町人の服」「旅人の服」「毛皮の鎧」と1ステージでは4種類の防具が作れた。
スキル画面を見ると、一つくらいスキルにスキルポイントが降られているのに気付いた。これはきっと、この誰とも分からない人との鬼ごっこが影響しているのだろうという事はすぐに分かった。見た目装備はそろったがもう少し鬼ごっこを続け、スキル習得まで続けよう。
お昼前には新しいスキルが生まれていた。『感知F』このスキルが育つと、自分にターゲットしている人やモンスターが分かったり、「隠密行動」している人に気付くことが出来るらしい。まだFなので、ぼんやりとしか分からなかったが、長くターゲットされているようで、どこに「鬼」がいるかは筒抜けだった。逆に、この『感知』を発動させている「隠密行動」のスキルの方が気になった。
この間ずっと町の中をぶらぶらとしていたが、外に出て人目につかない所を探した。問いただすためである。近くの林に入っていく。
チャンスはすぐに訪れた。「鬼」も普段とは違う防具をしていて、誰かまでは分からなかった。
刀を抜刀させる。会話は意味がない。相手を動けなくしてから聞けばよい。
相手からとびかかってきた。鍔迫り合いは短く、すきを見て右斜め上から切りつける。中々反応が早い避けられる。分かっていたというよりも瞬発力で避けていた。天才型のプレイヤーだ。この手のプレイヤーは今までに数人も見たことがない。相手の攻撃は構えから予測し、突きをギリギリでかわす。その瞬間コチラも突く。剣先はあいての右の脇腹に刺さった。
刺さったのが分かった瞬間に敵をひきつけ、地面に倒す。武器を持ち換え短剣で相手の首に剣を向ける。
「誰だ」
素直に頭装備を解除させた。
「E」だった。予想通りといえば予想通りだった。
「Cの命令か?」
「違う。我々の誘いを断ったからどこかに所属しているのかと心配した。」
「そうか…もうこんなことしないでくれ。君たちとは仲良くやっていきたい。」
「承知した。しかしマジで強いな…。」
「ありがとう。修行の成果だよ。それはそうと、鬼ごっこしている時に新しいスキルはつかなかった?」
「『ハイド』といスキルがついていた。どうやら鍛えれば透明人間に慣れるらしい。」
「マジかよ!ありがとう。」
と先ほどまで殺し合いをしていたようには見えないほどほのぼのと会話をした。
次の瞬間、Eが消えた。
死亡したらしい。もちろんそんなつもりは無かった。Eはすぐ復活をして、町に来てほしいといわれた。そのメッセージを了承すると、先ほどスキルの話をしていたのでスキル画面が開かれていたのだが、急にスキルポイントが増えた。前に思っていた一つの不安要素が的中してしまった。
町に戻るとEは手を振って居場所を伝えてくれた。
死なせてしまったことを詫びると、戦いを持ちかけた側だからと許してくれた。「C」には黙っていてくれと苦笑いで言われたので。約束した。
笑いながら死亡時に、スキルポイントを半分失ったといった。
そう、そのスキルポイントは殺した側に入るのだ。
対人戦で、倒す倒されるが発生した場合、倒された側のデスボーナスはキルボーナスとして倒したプレイヤーに入る仕組みになっていた。
Eとはこれからもよろしくと言いその場は別れた。
『ハイド』はすぐに覚えるとして、このキルボーナス…。
しばらくはどのプレイヤーもスキルポイントを代償にするだろう。時がたち、スキルポイントや経験値ではぬぐいきれなくなってきたとき、要するに持ち物が代償になったとき一気にPvPが活性化するのだろう。
不安要素とは言っていたが、不安なのは自分がどの位その行動に出られるかという事に限ってだ。なるべく公にならない方が良い情報であるが、その効率を考えたら実行せずにはいられない。早く強くなって、このゲームを”攻略”しなければならないのである。百音を呼び出し、「ハイド」を覚えようとしたが、逆に呼び出された。
——暇なら来て!――
暇ではない!イライラしながらも百音の位置に向かった。折角なので装備を変え、正体がばれないようにして。
見覚えのあるプレイヤーのクエストの手伝いであった。誰など別に気にする気もなかったがパーティには何故か一楓や万智もいた。知らない人のふりをした。クエスト自体は簡単である。倒し終わると一楓がまたごちゃごちゃ言ってきた。化け物だのオーバースペックだの。プライドの高い女である。こちとらさっさとスキルを覚えたくてうずうずしていたのである。百音にすぐに来てくれと目くばせをしてその場を後にした。
「ハイド」と「感知」スキルについて、「ハイド」は対象にばれていてはいけず、「感知」ターゲットされている事に気付けばスキルの成長になる。ターゲットされている事に気付く神憑っている行動なのだが、ターゲット自体をランダムにし、気づこうとすることで多少の成長になる。だが、「ハイド」はばれてはいけないので、ターゲットしている人物に気付かれてはいけない。「感知」に関しては二人で協力すればつけられそうだが、「ハイド」は二人ではすでにネタがばれているので、申し訳ないが、町の中人を無作為に選んで成長させた。多分もっと先に進んだステージで覚えるためのクエストが用意されているであろうが、情報を集める百音と強さを隠したい自分は今すぐにでも覚えておくべきスキルだった。
こうして用を済まし、3ステージ目「廃墟」に向かう事にした。
この日からはステージの攻略と時間によってはレアボスを倒す事にした。
このゲームでは毎日決まった時間にレアボスが出現する。1ステージや2ステージでは防具や武器、または消耗品の素材がドロップしていたが、3ステージではアクセサリーの素材が落ちる。また、骸骨は武器を持っている事もあり、武器のドロップも期待することが出来そうだった。このステージの特徴は敵モンスターがほぼ幽霊や死体など所謂アンデット系のモンスターだ。中には消えるモンスターもいて、気づかないと後ろから「グサッ」とやられかねない。初期の敵は「村人ゾンビ」や「ヒトダマ」などかわいらしいモンスターが多かった。いつも通り数匹倒しては次の所へ、と一通りマップを一周する事が出来た。
今回は廃墟という事で、建物の中にユニークなモンスターやレアボスが出現するようになっているらしく、建物内は明日回ることにした。まだ苦戦することは無いが、如何せんパーティで進めるようのゲームなので一体一体を倒す時間は長い。この先もスピードを緩めずにやるには、仲間の皆にも同じところに来てもらうか、個人のステータスを上げないといけない。アクセサリー部門の装備は今のところないので、今後装備して底上げできるだろうが、どのくらい上がるかは未知数である。そういえば一楓達の2ステージのボスがまだだったことに気付いた。それも手伝う必要があるだろう。その時の能力次第で今後を考える。手はすでに明日の集合メールを送っていた。
九日目。予定通り、2ステージのボスを攻略することにした。
「バグベアーリーダー」やはり体の大きさはマップにいるモンスターの比ではない。
「あなたはこれにやられたのね。」
一楓はこばかにするように言ってのけた。
最終的には4回戦って3勝1敗である。世の中のスポーツなら完勝といっても過言ではない!言わず飲み込んだ。
実際戦ってみると、彼女たちの動きは洗練されている。命の危機を感じる事は無く、スムーズに攻略することが出来た。ただ、大人数になると気付く事もあった。いくつかの攻撃は遠距離高出来ではないにしろ、範囲攻撃などがある。ボスの後ろにいても当たり判定がある攻撃もあった。パーティ狩りにはそれなりの難易度が備わっているようだった。
ボスを倒し終わった後はここまでの状況を整理する会議をした。基本的に話す順番は決まっている。ずっと変えていない。
「今のところ大きな問題なく進んでいる。私は一度も死ぬ事無くここまでこれているわ!」
なんともトゲがある。
「野良パーティも来るもの拒まずで色々な人と組んではいるけれど、周りを置き去りにするほど秀でてる人はいません。」
一楓には主に監視をしてもらっている。我々の活動に支障が出てきそうなプレイヤーを探してもらっている。監視というと言葉が悪そうだが、生真面目な彼女には一番向いている。「自分」を抜いた他のプレイヤーの中でもトップ層に居てもらわなくてはいけず、スキルを持ち合わせなければいけない点からみても彼女が適任だ。
「内職の方ですが、様々な事がスキルに分かれているわ。武器作成と防具作成で別ですし、防具作成も毛皮と固い物などで分かれてきています。満遍なく上げなければいけないので、戦闘は難しいかもしれません。一応盾スキルと回復スキルは使えるようになっています。リーダーが新しい素材を持ってきてくれるので、新しいレシピはどんどん出来ています。土地の購入ですが、草原の土地は20%買い占めました。草原の土地では基本的にポーションの材料を作るだけです。草原で許されている借金も返し終わり、熱帯雨林のお店も皆様の協力のおかげで建てることが出来ました。」
「十希ねえさんには毎度毎度つらい仕事を頼んで申し訳ないけど今回もお願いします。」
「役に立てて光栄です。消耗品類はもう少しお店が軌道に乗れば皆さんに随時メール便でお届けできるようにします。」
「一応フレンドが1000人超えました。基本的にはメッセージでやり取りしています。色々なスキルの情報は手に入ってますが、基本的には十希さんかリーダーからしか新しいスキル情報は手に入ってません。クランの様子ですが、トップクランとして今のところ4つから5つは興りそう。キルボーナスは…」
一楓の顔を確認すると、
「報告後その件は話し合いましょう。」と一言添えた。
「魔法覚えられました。基本的には万智ちゃんか一楓さんと行動を共にしています。魔法系スキルは詠唱を繰り返さないといけないので、今はまだ弱くて…ごめんなさい。」
千乃はなぜ魔法使いにしたかというと、一つのことを何度も出来るタイプの人間だからだ。上級魔法を覚えるためには下級魔法を何百回と唱えなければいけない。今はまだ成長期間だ。
「十希、MPポーションを千乃に優先的に回すところからお願いね。」
一楓はすぐに指示を出した。
「万智は…いっか。」
「うん。」
笑顔で返事する彼女。実はこの中でも戦闘スキルは一番高い。俗に言うヒーラーという役職だが、戦闘中は周りを見渡し、ヒールをかけバフやデバフを振り分けなければならない。しかもこのゲームにはパリィなるアクション系のスキルもあるので、ステータスだけでなく才能も必要なのだ。しかもヒーラーという事でどこにでも呼ばれる。その場で臨機応変に頑張ってもらわなければならない。
「ではキルボーナスについてだが、基本的には内密にしておこう。今はまだ過剰なスキルポイントだが、ゲームが進むにつれてアイテムや経験値という選択肢も出てくるかもしれない。そうなる前には我々も行動を決めておこう。Bよ、勝手な行動を慎むように。」
確かに、今からPK(ヒューマンキル)をして、ゲーム内の平穏を崩すのは得策ではない。ただ、今後強さが煮詰まりそうならば行動に出なければいけないであろう。
「それに連動しているのだが、今後の進め方はどうする?先に進むのは自分だけなのか、皆も基本は先に進んでいくか」
「いや、リーダーだけ先に進んでもらいたい。まだ始まったばかりで分からないことだらけ。プレイヤーも今後増えていくから下の様子は見ておいた方がいい。強さにステータスが必要になったらアイテム系はリーダーに先送りでいこう。」
一楓以外も納得のようだった。
ここから先の難易度に一抹の不安を感じたが、ゲームの腕前だけは信用してくれているので、その信用に応えられる様、気持ちを引き締めた。
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