第8話
昨日はそのまま寝てしまい、目覚めたら草原だった。ゲームの中でも疲れがあったのだろうか、いつの間にか寝てしまっていたようだ。Dはすでに起きていて、支度を整えていた。出発前に二人で今後について話した。
「今までトップ目指してて、直にそういう人たちとパーティを組んでちょっと気持ちがふわふわしていた。」
「実際俺も、そこまで意識はしていなかったけれど、能力的にも上位だと勝手に思っていたよ。」
Dも同じだったようだ。
「個人の強さだけでどうにかできると思っていた。たしかにまだこのゲームは始まって1日目だ。それなのにこんなに様々な人を見かける。たくさんのプレイヤーがいるんだから、それをまとめるのも強さだ。」
「今気づけて良かった。Aはこれで諦めることはないだろう?君の前向きさは人を引き付けるものがあるんだ。実力も、まとめる力もこれからもっと成長していう。」
そうだ。まだ始まったばかり、下を見てはいられない。自分たちを強くすること。
人をまとめるための力。支えてくれる仲間。それを含めてこのゲームでは強さという。
「とりあえず、鍵というものが手に入る情報は分かった。これはすぐにでもFさんとかCさんに送っておこう。力をつけるという点ではまだ独立するべきではない。今後クランができるならまずはそこで力をつけよう。」
「それと…14日目にまた集まるまでの目標として、あのクエストのボス、倒せるようになろう。」
Cは前向きに今後のことを考えてくれていた。頼れる仲間の力はとてもありがたかった。
それからは二人での修行と仲間集めで日が進んでいく。
どの敵とも何度も戦い、体にしみこませる。頭で考えるのも苦手だし、瞬発力があるわけでもない。出来なかったことを一つ一つできるようにしていく。町での勧誘活動も同じだった。最初の会話はどこか壁を感じていたが、顔を合わせるたびに心を開いてくれていた。自分の考えを伝える機会も増えていった。
九日目は人も集まらず、クエストに挑戦さえ出来なかった。それでも、狩りパーティは組むことができ、難易度の高いモンスターで修行することができた。明確な目的をもって狩りをする姿に一緒にパーティを組んでくれたプレイヤー達は我々の姿を見て「頼りになる」「また組みたい」と言ってくれた。自分たちの姿を見てポジティブな意見を持ってくれた。
十日目も変わらずメンバーを変えながら狩りをする。このゲージにスタミナゲージなんてものは存在しないが、昨日よりも体が軽い。昨日よりもさらに難易度を上げる事が出来た。パーティには必ずヒーラーを入れることも覚えた。すべて避けられるわけではない、敵の攻撃を食らう事を無くすことはできないのでフォローしてもらう環境もしっかりと整えた。死ぬわけにはいかない、死なせるわけにはいかないという気持ちが責任感を生んだ。今日もまた強くなったことを実感する。ゲームの中の事なので、精神的なものだが。
11日目にはコボルトの親玉に挑戦をし、倒すことができた。味方のパーティも役割をしっかり持ったプレイヤーをそろえた。ぎりぎりの戦いだった。何度も死を意識する場面があったが、パーティみんなで支えあいあった。挑戦前の指示が活かせたようだった。一度の挑戦ではない。挑戦したいプレイヤーを入れ替え何度も何度も繰り返し戦った。自分たちが見せてもらったような完勝は一度もない。それでも繰り返していくうちに倒しやすさを少しずつ感じていった。
続く12日目も11日目と同じだった。少しずつの成長…。
13日目。町の門を抜けるところで知らないプレイヤーに声をかけられた。どうやら、難しいクエストを手伝う頼りになるプレイヤーという事で名前が知られていたらしい。
「今日もクエストですか?良かったら俺たちにも教えてください。」
「あ、ごめん。今日はすでにパーティ決まってしまっていて…。後日またお願いします。」
今日は午前中再びコボルトのクエストで修行する。パーティは申し込みから前日に決まっていた。そして、午後は「F」に誘われ、「鍵集め」をするらしい。昨日急に来たメッセージだ。頼ってくれたメンバーとの約束をいくつか取り消して参加する。
Dも今後を考えていったら他のプレイヤーの動向を探る意味でも参加したほうが良いと言ってくれた。あの女剣士と頭巾をつけた剣士には会えるのだろうか。すこしでも追いつけたのだろうか。
指定された場所に行った。すでに大勢のプレイヤーが集まっている。
「おーい。Dくんと…Aくん。」
声を掛けてくれたのは「C」だった。
「久しぶり。攻略方法の鍵のありか。調べてくれたのは君たちらしいね。GJ!」
「人、多いですね。これ全部Fさんが集めたんですか?」
「ほとんどはそうだね。対抗してHさんも急遽仲間を呼んでいる。ただの鍵集めではなくなってしまったね。これはもう権力争いだ。」
「C」が言うには「F」が仕掛けた権力争い…。人数が多い方が当然与えるダメージも多く、攻略の中心にいたことが言える。そうやって攻略のメインである事を表し、トップるという意識を皆につけさせようとしているのだそうだ。
そこに負けじと、「H」は同じ考えの平等論者として権力が集まる事を嫌がって人を集めたようだった。「C」は5~6人仲間がいると言っていた。「C」の仲間には「E」という天才と呼ばれるプレイヤーがいる。さらに、「C」自体も相当な猛者だ。その二人が集めるプレイヤー達だ。相当強いだろう。それと、「D」を仲間にしたいのだろう。今までもパーティに何度も「D」は誘われていたのだ。
「DはCさんの所に行く気はないの?」
ちょっと意地の悪いことを聞いてみた。
「D」は冷静に、
「レベルの高い集団で一緒に戦うのは良い経験になると思うし、入るならCさんの所だろうかな。まぁ、Aの指示に従うよ。」
いたって冷静にDは言った。
「おぉ!A君。今回の鍵のありかを見つけてくれてありがとう。町の評判も聞いているよ。隣にいるのは・・・」
「Dさんですよ・・・!」
「F」の右に控える「G」がこそっと言ったのが聞こえた。
挨拶もほどほどにロビー活動のごとく、声を掛けていく「F」と「G」をしり目に「D」が、
「なるほどこれはもう権力争いだな。」ときょろきょろしながら言う。
どうしたのか聞いてみると、
「もう一人すごいプレイヤーいたよね。その人とも話してみたい。」
そういって周りを探し出す。
すぐに見つけることが出来た。「B」は一人でいた。
誰かとメッセージをやり取りしているのか、手だけが動いていた。以前集まった時も会話をした覚えがなかったので、本当に始めての会話だった。
「お久しぶりです。Bさんはソロですか。」
気さくな感じで話しかけたけれど、彼からしたら急だったようで、驚いていた。
「あ、あぁ、始めまして。パーティのお誘いですか?」
「一週間前一緒に狩りしたAとDです。」
「思い出しました。あの時の!。」
「Bさんはソロですか?」
もう一度聞く。すると少し考えて、
「ソロです。今回はCさんの所にお世話になるかもしれませんが・・・。」
もうちょっと色々聞いてみたかったが、Fから声がかかった。
「残り二日で一旦サーバーが閉じる。皆の協力のおかげでボス攻略手前まで来ることが出来た。折角ならこの二日間で、1ステージをクリアしたい!。そのために今日は鍵集めとボス挑戦のパーティ選考をしたい。何か良い意見はあるか?」
「参加者全員で挑めば良いではないですか?もうここで強いプレイヤーと弱いプレイヤーを分けてしまうのですが?そうやってどんどんついていけないプレイヤーを作って良いのですか?」
「F」の後に「H」が言った。
最終的に100人集まった。この中で「F」は半数以上集めていた。「H」も30人ほど引き連れてきたようで、この二人が2大派閥になっている。
しばらく二人の舌戦が続いたところで、「C」が発言した。
「強さの差なんて今から考えたって仕方がない。今日はボスを攻略するために集まったのです。長い目で見ましょうよ。今弱くてもこれから成長すればよい。リアルタイムの明日になればゲームの参加者はどんどん増えていくでしょう。平等を考えたら初日からゲームを始めた人二日目三日目から始めた人。どんどん差は開くかもしれません。後からゲームを始めた人も含めた平等はなかなか難しいと思います。ボス攻略のための建設的な話し合いにしたい。パーティごとに組んで、ゴリラを倒せるかどうかで参加パーティを決めるのはいかがですか?」
今回は「C」が「F」に乗った事で意見は決まってしまったようだった。
それぞれパーティが組まれていく。F派とH派は当然のように混じる事無くパーティを組んでいた。俺たちはどうしようかと思案していると思いがけない人からパーティに誘われる。
「二人はぜひうちに入ってほしい。」
そういったのは「F」だった。
二人で戦うより良いだろう。「F」のパーティに入れてもらうことにした。
そこからはパーティごとに「ゴリラ」に挑戦した。最終的に残ったのは五つのパーティだった。F派の3パーティ、H派の1パーティそしてCのパーティ。100人以上集まっても戦えるのは精々40人だったようだ。
集まってくれたプレイヤーにFが声を上げる。
「これは第1陣に過ぎない。次のステージ進めるのはクリア時にパーティ、レイド組んでいないと進めないのだ。皆が強くなり、挑戦できるようになったのなら、我々は第2陣、3陣と手伝いをすることを約束する。ある一定の強さになれば、2ステージへの挑戦を認め、手助けする。これは平等派の皆さんにも言える事だ。一部の人が良い思いをしないよう、平等に手助けをしていく。」
これには「H」達も納得したようで、互いの健闘を誓いあっていた。
「さぁ本番は明日だ。今日は町に戻って英気を養おう!」
Fのリーダーシップはなかなかだった。Dもそこは認めていた。
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