第7話

トッププレイヤーと集まった次の日。早朝から当たり前のようにDとは集まった。昨日の話でまだ興奮しきっている俺はDを誘ってボスの情報を探そうことになっていた。

「町の中で情報収集だ。Dは思い当たる節ある?」

「無い。Aは思い当たる節がありそうだね。」

「一人頼りになりそうな人がいるのだよ!」

そういって向かった先はいつも通っているあの店だ。

8日目になると店舗もたくさん増えてきていた。特に、大人数でクランを作る予定のパーティは専門で自分達の店を立てているようだ。一見のお客でも扱ってくれるがどうしても知り合い優先なお店が多い。しかし、そのなじみの店は分け隔てなく誰にでも同じように接してくれるだけでなく、商品の品ぞろえも他の店よりもレベルが上なのである。

「トキさんおはよう。ポーションのレベルがまた上がっているけど、また何かしたの?」

店に入るなりいきなり声を掛けた。ちょうど先客がいたようで、そのプレイヤーと話していたようだった。

「…あらAさんおはようございます。外の土地でポーション用の農作物を育てることが出来たの。ポーションの作成でレベル3を作れるようになりました。」

すがすがしい笑顔で自慢してくるお姉さんには毎度毎度癒される。

「今度トップメンバーで再奥地に行くのだけれど、何か情報入ってないですか?」

店主は先客としている髪の長い女性と目を合わせ、なにやらごそごそと耳打ちをしている。髪の長い女性がいきなり振り返り、

「攻略用の情報なら私が売るよ!」

と元気に声を掛けられた。

「売る?」

「そう!これだけ秘密の多いゲームなの!情報で商売しても良いでしょ?」

と不敵な笑みを浮かべながら言う。

Dがこっそりチャットメッセージで

「信用できん。詐欺じゃないのか?」

と耳打ちしてきた。

俺も疑いを持っている。

「モネはね、信用できますよ。お金にはがめついけど何でも調べてくれるの。」

トキが威張るように言った。

どうやら二人は旧知の仲らしい。

この店主が言うなら間違いない。Dを説得してこのモネとなのる女性を頼る事にした。

「ここのマップにあるストーリークエストを最後までやると情報が分かるの。今すぐこの情報を聞くなら¥1k。クエストのお手伝いなら¥500。ここまでの情報なら¥300で!」

今の段階で、¥1000は高い。二人合わせても8日で¥700しか稼げていない。ポーションで言うと、一番安いポーションが¥5。情報料金は法外だった。

「ここまででいい!」

Dが吐き捨てる。

¥300を二人で割り勘し、ストーリークエストを攻略する準備に入る。

買い物を済ませ、店を出ようとすると。モネがついてきた。

「今回は私も手伝うよ!。一度クエストは済ませてあるけれど、二人はお得意様になってくれそうだし、無料で手伝わせて。」

上目遣いで言われると断るわけにもいかない。何せこの女性はトキさんとつながっている。

Dは冷静にメンバーは結局増やさないといけないからとパーティ加入に否定はしなかった。


前日までにある程度のクエストは終わっている。話を合わせると残り4つまできていた。その中でも最後の二つは相当きつく、フルパーティで参加した方が良いらしい。

「メンバー紹介は一人につき¥50」

「やめろっ!」

待っているうちに続々とパーティ申し込みが来て、メンバーが決まった。


「牛肉500個集めるのと、奪いに来たコボルトの一団を排除が500匹、コボルトの親玉、追跡した後…で4つか。コボルトの親玉が鬼門ってわけですね。」

「倒したパーティはほとんど聞かないよ。」

「モネさんたちはどのように倒したの?」

「パーティの職をしっかりそろえて・・・強そうな人をナンパして・・・。」

思い出しながら言っているが、そんな前の話だったのだろうか。さらに真面目な顔をして、

「ダメだったときはパーティメンバーをしっかりそろえないとだめだよ。」

真面目な顔をして言われた。


牛肉集めとコボルト排除は難なく終わらせることができた。一つ一つのクエスト報酬はここまでくると非常にありがたい。

二つのクエストが終わった後武器の修理やポーションの補給のため一旦休憩とした。モネの分と俺の分は「D」が行ってくれることになった。残りのメンバーも一度町へ戻るとのこと。

「このパーティだとやっぱりきついかも。せめてヒーラーがいないと・・・ダメージは今までの比じゃないよ。」

確かに、前衛に偏ったパーティだ。残りの5人もそこそこ戦えるが、後衛職が欲しいとは俺も思った。だが、

「せっかく集まってくれたから。俺がその分働く。」

「気持ちは分かるよ…。でもトップが集まった時もクランやパーティでの攻略が大事って話は出てたのでしょ?デス時のマイナスを考えるとあなたの名前に傷がつくよ…せめて挑戦する前にメンバーには大変さを伝えて。」

真剣に言ってくれているのが分かった。それと同時に、

「そんな情報まで持っているのか。」

「何もわからない状況って一番つらいんだよ。分かり得る情報はしっかりと手に入れないと」

バシッとしりを蹴られた。


全員が集まり、クエストの説明をする。

一撃が即死級のダメージであること。デス時のマイナスボーナス。そして集まってくれたメンバーとクリアしたいという気持ち。

正直に伝えると5人はうつむいてしまった。それでも最初に説明したこと。一緒にクリアしたいと伝えたことで彼らは覚悟を決めてくれた。


一人でも脱落したらその場でリタイアする事を約束し、挑戦することにした。クエストを発注し、予定の場所につくとクエスト用のマップへ転送された。

人間と同じくらいの大きさはあろうコボルト。手にはナイフを持ち、緑色の頭巾をかぶっている。先ほどのクエストで倒したコボルトの2倍はあろう体躯、下半身が発達している。その両足をかがめ、ジャンプからの突進攻撃を仕掛けてくる。コボルトはモネを狙ったようだ。難なくモネは避ける。顔から突っ込んで動きが止まったかと思ったが、すぐに体制を整えて突進を繰り返してきた。二度目の突進は俺に向かってきた。何とか避け、攻撃に移ろうとするが突進を警戒して距離をとってしまう。唯一「D」だけは遠距離攻撃者として、ダメージを与えてはいるがダメージは微々たるもの。

「なるべく距離をとって、回避を優先させてください!」

俺は咄嗟に大きな声で指示を出した。

「いや…待って…!」

モネが何か言おうとしていたのが聞こえたが、周りはみな俺の指示を聞き、コボルトとの距離をとり、突進に備えていた。が、ここで一つ致命的なミスをしていた。

全員がコボルトとの距離をとることだけに気を取られ、味方同士の距離が近くなってしまった所があった。そして、コボルトはそこに突っ込んだ。次の突進に備え後ろを振り向いて逃げるプレイヤーを見つけると今までよりも機敏な動きで追いつき背中に一撃。パニックに陥った近くのプレイヤーたちは動くことができず、二人目、三人目とたてつづけに攻撃を受けてしまった。

「クエストリタイア!」

「D」が叫ぶ声が聞こえた。

3人も死なせてしまった。死亡した3人はそれぞれ対価を払い復活をしていた。

俺は地に頭をつけ、叫んだ。

「本当に申し訳ない。」

3人は最初から分かっていたことだからと、許してくれてはいるが、表情は冴えなかった。残りの二人もクリアは無理だと悟ったらしく、諦めるといってそのばから離れていった。

「難しさを分かっていながら最悪の結末になってしまった事。本当にごめんなさい。」

モネはひたすら俺たちに頭を下げてきた。

「Aも俺も考えが甘かった。前ばっかり見ていて自分たちの足元が見えていなかった。」

「D」は俺の代わりにモネに言葉をかけていた。


しばらく沈黙が続き、戻ろうと声をかけようかと迷っている時に、外から声が聞こえた。

「で、続きどうするの?やるの?いつまでの過ぎたことでクヨクヨしている場合ではないのでは?」

声がするほうを見ると3人のプレイヤーが立っていた。

さっきのプレイヤーではない。全くの別人。

そちらを向くや否や、先頭に立っているプレイヤーがずかずかと我々3人の間に入ってきた。

「モネ。あなたがいてなぜ無駄な挑戦をさせたの?その場のメンバーで成功するかしないかは判断できたはず。一歩間違えればあなたまで被害にあっていたのよ!」

モネは言われてシュンとしていた。

「パーティリーダーは誰?モネから攻略方法をちゃんと聞いていたの?ケチって情報料払わなかったの?」

「パーティを組む以上責任は大きいの。特にこの世界ではね。」

そういうとふぅ…とため息をつき、続ける。

「はい。切り替えて。あなたたちはこれからトップで頑張るって気持ちなのでしょ?こんな所で立ち止まってる場合じゃないよ。続きやりますよ。」

そう言って3人がパーティに加入した。

「残りの2名はどうしますか?」

俺は敬語になっていた。この女性には一生頭が上がらなそうだ。

「必要ないわ。私たちは一応このクエスト一応クリアしているから。」


そう言ってもう一度あの空間へ入っていった。敵を視認すると先ほどの場面を思い出す。モネを見ると…座っていた。

「そこの弓矢の人はヒーラーの盾の裏に回って援護。剣士は出来そうならついてきて。モネは…もう座ってるのね…」

そういうと二人のプレイヤーがコボルトに接近する。

「近づいてしまえば武器で攻撃をさばけるし、攻撃も単調なの。さばいて、避けて攻撃していくの。後手に回ると戦いが長引いてつらくなるの。分かる!?」

なぜこの人はイライラしているのだろうか。

それでも話しながら、攻撃を繰り返す。見る見るうちにHPは減っていく。説明してくれている剣士もすごいが、もっとすごかったのは隣の剣士だ。コボルトと同じような緑の頭巾をしたこの剣士は一歩も動くことなく、捌くことなく最短でよけ攻撃を繰り返している。

クエストは・・・あっという間に終わった。張り付いていた二人は何か言い合いをしていたが、それよりも二人の強さに俺は見惚れていた。

するとモネが、

「あの二人のプレイヤースキルは別としても敵の強さをしっかり把握して、対策をとっているの。知っていることも強さだから。」


「最後のクエストは3人でも出来るでしょう。私はこれで失礼します。」

「自分もやることあるので。」

「失礼します。」

クリアすると三人ともバラバラに去っていった。

「たくさんの人がいて、まだまだ強い人が埋もれているの。その中でトップになりたいなら知ることを知って、集まった人を大事にしてあげて。このゲーム世界のトップはソロではなれないの。」


最後のクエストは逃げるコボルト軍を追うと、逃げているコボルトを襲っている「ゴリラ」を目撃する。そのゴリラを倒すと建物の鍵が手に入った。メインフィールドにもいるゴリラだが、クエストの場合は多少弱くなっているらしい。

だが俺は、反省と強さへの憧れが頭の中いっぱいに広がっていて、ほかのことはほとんど手につかなかった。

Dが取り仕切ってくれ、パーティは解散した。Dは何も言わずにそばにいてくれた。草原で寝っ転がる。空には星が輝いていた。





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