第六話

次の日、我々は別々の行動をしていた。十希の店をオープンさせるための莫大な費用を稼ぐためである。第二ステージの町での出店だ。十希と百音は草原に戻り、加工、製造様々なレシピを完成させるため、アイテムを収集している。その際クエスト攻略が必要なので、一楓も今はそちらへ出向している。千乃は弓矢から魔法使いに転職するらしく、そのための魔力上げと魔法を覚える修行をしている。万智もヒーラーとして魔力が必須であるため、そちらに同行している。今1人でいる。熱帯雨林もある程度探索は済ませた。熱帯雨林のボスの鍵を集めるのも良いが、他のプレイヤーの動向も気になったので草原に戻ることにした。


草原の最奥から三割位進んだ所で数人のパーティーを見かけた。1人の男がこちらにきた。

「奥から来たようだけど狩でもしてたの?」

「MAPを埋めてました。この先1人での狩りは中々厳しいですね。」

一応の嘘。

「俺たちはずっとパーティー組んでやってるんだけどそろそろ奥に行きたくて、一緒に狩りしませんか?」

願っても無いチャンスに「是非」と答え、パーティーに加わることにした。

「俺はC。あっちにいるのがE。あとの2人はさっき合流した別パーティーの方々。君は?」

少し考えて、「B」と名乗った。


狩場に選んだのは角の生えた馬がいる狩場。彼らはこの先でも狩りをした事があるようだが、効率の悪さから一つランクを下げ、ここで狩りをしているらしい。狩りを始めてすぐに分かったことは、このCとEのコンビネーションの良さとプレイヤースキルの高さ。我がチームメンバーにも劣らないスキルを持っていると感じた。

進んでいることがバレないように予備に持っている石の剣を装備しているが、彼らの動きに合わせると自分のキャラクターの強さを見せてしまう。バレないように加減して、は中々難しかった。


「そういえばBさんはレアボスに会いましたか?」唐突に聞かれた。

「何度かみたことはありますが、ソロプレイヤーに倒すのは難しいです。」と答える。

「ちょうどこの後ろにある林とちょっと奥に行った橋にたまにレアボスが沸くので後でいきましょう!」

「ちなみにレアのローカルルールは?」MMORPGプレイヤーなら誰でもぶち当たる問題を先に聞いておいた。

「まだ狩れるのは俺たち合わせても数パーティーだし、レア素材の使い方も分かりきってないからあまり重宝されていない。問題は起こらないよ。」

そんな話をしながら狩りとレアボスを回った。

ドロップは拾った人の物だが、得たものは十希に手紙で送っておく。

数時間一緒に周り今日は別れる事となった。

「これからもたまにパーティ組みましょう。」

Cから気さくに誘われたので、断る理由もなく了承した。

他にもいくつかのパーティを見かけた。まだ、再奥地まで足を踏み入れたプレイヤーは他にはいないようだ。見つけてはいるが倒せる適正ではないのか、若しくは挑戦していないのかは分からない。今はまだ、どのプレイヤーも己の鍛錬に勤しんでいるようだ。


それから数日は、熱帯雨林に戻り、鍵探しを行った。熱帯雨林での敵は「ゴブリン」・「コボルト」などの小人系悪魔。一気にMMORPGの世界に入ったような気持ちになった。鍵の持ち主は変わらず、最奥にある建物の付近にいる「ホブゴブリン」。

1ステージの獣に比べ、格段に速い。武器を持っている敵もいて、より強い敵な印象を持った。こん棒や鎌など倒した時に一定の確率でドロップアイテムとして得ることが出来る。ドロップアイテムなどはモンスターの持ち物をしっかりと反映している点は「細かいゲーム」と感じた。

数本の鍵を手に入れることが出来たので、少し早いかもしれないが、2ステージ目のボスの挑戦を決めた。これはゲーム世界で4日目のことであった。

目の前が真っ暗になった。経験値・装備・スキルポイントの選択肢が出た。そう。負けたのだ。原因は分かっている――ラグだ。数秒だが画面がカクカクした。オンラインゲームではよくある事だが、さすがに少々怒りは出ていた。「スキルポイント」を押し、ボスの部屋の前で復活をした。「220」ここまでためてきたスキルポイントだったが、復活することで「110」まで減っていた。一度覚えたスキルは転倒していたが、ポイントを割り振っていない状況なので使える事は出来なかった。ただ、木の棒を使っていたころの「殴打Ⅰ」などスキルを振っていたので、被害は最小限にとどめる事は出来た。とはいえ、今までの努力が無に帰す経験は些細なポイントでも堪えた。

これが、将来進んだ先で起こると本当に人間として死んでしまうような気持になるだろう。「死ぬ」という重みに現実感が増すようだった。この時一つ心につっかかるものがあったが、今はリベンジの気持ちが強かった。


2時間46分——。

第二ステージ攻略。

素材袋、情報は「鍵はストーリクエストを進めると分かる」ルールについてはプレイヤーの皆に悪いという気持ちもあったが、「見た目装備」の導入を指定した。これで、装備している道具を隠すことが出来る。結構大きなアップデートになるかと思ったが、ゲームをつなぎながらアップデートをしているようで、メンテナンスは皆無だった。


ボス攻略を終え、アイテムの整理をしていると、メッセージが届いていることに気が付いた。

宛名は「C」だった。どうやら今度、トッププレイヤーを集めて狩りパーティを組むようだ。あつまる日付はゲーム内7日目の14時。これも断る理由もなく、すぐに参加の返事を送り返した。トップの位置や、まだ分からないことも今回聞き出せれば万々歳である。

返事を送り、次のステージに進む。熱帯雨林を超えた先は…廃墟だった。ステージ全体が一つの町。集まるまではここでの活動が主になりそうだった。


7日目の集まる時間になった。

すでに「C」と「E」は集合場所にいた。

「お久しぶり。Bさんあまりみかけないけどクエスト専?」

「まぁ…クエストやったり、メインマップ出たりまちまちですね…」

「メインマップの方は網羅しました?なんかレアアイテム手に入れました?」

良い意味ですごく興味を持たれているのは雰囲気でわかる。あまり、頼られるのも悪いので、そこそこの関係を築いていければと思った。


談笑していると続々と集まってきた。どこかで見たことのあるプレイヤーも何人か見つけた。

一人一人順番に簡単な自己紹介をした。レベルやメイン武器等ゲーム内の情報を話している。どのプレイヤーもレベルは4~6のようだ。この時すでに16に達していたが、「6」と答える。レベルを確認する方法も無い…平気で嘘をつく自分が多少歯痒いが仕方ない。

「ならBさんも最速組だ!」

どうやらトップ集団は連絡を密にしているようだ。

8人のパーティー。どうやら狩りよりも集会のような会って話す事がメインのようだ。全員が全員すごいスキルを持っている訳ではなさそうだ。最初にあった2人。CとEが抜きん出ているようにみえた。


「先日、私のパーティーは最奥地と思われる場所を見つけた。」

Fが自慢げにいうと、続けてCが、

「林の中の鍵のかかった建物ですか?」

どうやらトップレイヤー達はあの建物の存在を知っているようだ。

「Cさんは建物を守るゴリラと戦いましたか?我々は数匹倒すだけで手一杯でした。」

「すごい!僕達は逃げるので精一杯でしたよ。」

この感じ、C達は数匹倒しているだろうなと感じた。今の発言でパーティー内のFへの期待感が増大したようだ。目立ちたがりっぽい彼には丁度良いのだろうか。

「あの建物の手前であの強さ。大人数で協力しなければ中には入らないであろう。そこで、このパーティーを中心メンバーとしてクランを作るのはどうだろう?」

すると今まで黙っていたGと名乗った者が賛成を表明した。

「パーティーの連合を組むのは必要だと思う。開かずの建物についての情報が必要だ。クランを作るとなるとドロップなど分け前を公平にしなければならないだろう。その辺のルールは?」Hが発言する。真面目一辺倒で堅苦しさがあった。一楓に通じるところがありそうだ。Cも堅苦しさを感じたようで、苦笑いをしている。

「とりあえず来週末、その辺の情報を集めて再度集合。クランの事ももう一度考えて来てくれ。」

狩りというなの集会が終わった。軽く挨拶を済ませてすぐにでも奥に帰りたかったが、「C」に呼び止められた。

「クランについて考えている?」

「今のところ知り合いたちとまったりやっていこうと思ってます。」

嘘はついていない。

「我々はクランを作ろうと思ってます。Bさんなら大歓迎なのだけど、もし気が向いたらその知り合いたちと一緒に参加してほしい。」

「さきほどのFさん達とは組まないのですか?」

「正直考え方が違うと思った。我々はなるべく少人数で最強を目指したい。」

このカリスマなら多分相当の実力者を集めることが出来るだろうなと思った。

悪い話ではないと思う。ただ、僕らには僕らのミッションもある。楽しんでいられるだけではない。

「相談はしてみます。ですが自分も含めてクランに参加はあまり期待できないかもしれません。今まで通りたまにパーティ組んで一緒に遊んでください。」

本音を伝えたつもりだ。

「C」はしっかりと受け止めてくれたようだ。

「いつでも待ってますよ。」屈託のない笑顔で答えてくれた。

「C」達とはその場で別れた。帰り道は彼らの今後を想像していた。先ほどのパーティ全員が一つ屋根の下でクランを作ることは無いだろう。彼らはどんなクランを作るのだろうか。気になりつつも楽しみの一つであった。


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