第四話
おそいっ・・・!
罵声とともに脳天に一撃くらった。真面目な人ほど集合時間前から集まっているらしく、30分以上待っていたとのこと。
適当に謝ることで火に油を注いだらしく「遊びにきてんじゃないよ!」といかにも廃人ゲーマーの発言が出たところで他のメンバーから失笑がこぼれる。
「さて、これからの方針だが」
まだ顔を真っ赤にしているメンバーをしり目に話を真面目な方に持っていく。
「二時間で集めた情報を整理しよう」
「厳密には二時間半いじょうですけどね!」
まだいうか・・・。
この血気盛んな真面目は、「一楓(いちか)」真面目が売りなので我々の中ではサブリーダー的存在だ。
続けて彼女が言う
「思った以上にガチプレイヤーが多いみたいですね。そこら中でクランメンバーを集めている人がいたり、町から外への往来も激しい。PVP可能なようだけれど、町の中ではノーダメージ。」
どおりで先ほどの脳天への一撃ではダメージが減らなかった。
「NPCもある程度いて、頭の上の?マークはクエストを表しています。どのクエストが有効かなどはこれから明らかになっていくようだけれど、町の規模からしてほかにも町はありそうですね。」
「この二時間である程度マッピングをしたが、町らしきものは一つもなかったぞ。多分ステージが分かれているタイプのゲームだろう」
続けて一楓は
「一度ログアウトして計算してみたけれど2時間の現実時間で計算上二週間のゲーム時間になります。時間の調整も他のゲームに比べてあまり差異は感じません。22時から24時というゴールデンタイムに開かれているゲームなのでログインプレイヤーはとても多そうです。」
続けて髪の長い愛想のよさそうな女性がしゃべる。
「私は商人になってみました。戦闘職だけが楽しめるだけじゃないようです。武器の加工などもできますし、町の外の土地を買って素材を作ることもできるようです。お店や土地は早い者勝ち。お金があれば買い占めもできるようです。」
「さっき木の棒じゃなくて木の剣持ってる人見かけたんだけど・・・作った?」
「えぇ。何件も依頼が来たので。加工スキルは実際に加工しないと上がらないので。」
「十季(とき)ねえさん・・・僕のもお願いします・・・。」
この愛想のいい女性はコクリと頷くと背中を向けて加工スキルを始めたようだ。
「商売・加工・生産・鑑定。職人系として考えられるスキルは基本的にまかせます。」
「手に入れたアイテムは全て十季に回すように。他に何か情報は」
眼鏡をかけた長髪の女性が手を挙げた。
「死亡についてだけど、モンスターに倒されると自分で選んだものが減ります。経験値の場合は今まで稼いだ経験値の半分、スキルポイントも総量の半分。割り振りしていてもポイントが減ります。一度覚えたスキルは忘れませんが、ポイントが減る分威力は激減します。持ち物は全部です。木の棒のみ復活した時に手元に戻ります。倉庫がないのは物を隠せることができないことからでしょう。序盤はそこまで気にしなくてもいいですが、中盤からは本当に気を付けなければいけないですね。」
身体を張って証明してくれた彼女の名は「百音(もね)」。
続けて小柄な女性が
「そのアイテムですが、他人と受け渡しには二種類あります。アイテムの加工などの時に使われる渡す。所有権まで渡す。一時的に預かってもらっていたアイテムは倒れた時にだれが持っていても奪われます。」
彼女の名前は「千乃(ちの)」。どうやら二人で色々と試してくれたようだ。
死亡デメリットがある事は町の中で聞こえてくる一般チャットで分かっていたが、ここまで理不尽に減るのは想定の範囲外だった。
命の尊さを学ばせようというのだろうか、プレイヤーの経験値、スキルポイント、アイテムはゲームにかけた時間、努力の結晶そのものだ。
開始二時間ではこの辺りが関の山だろうか。これ以上は有益な情報は無かった。
「最後に、さきほどステージの話をしたが次のステージに進めそうなアイテムを手に入れてある。十季ねえさんに鑑定してもらったら一度全員でそこまで試しに行ってみよう。」
レベル上げに求められるのは「危険が少ない事」「ドロップアイテム」「黒字化」「経験値効率」のバランスである。当然経験値効率が良いのは危険なモンスターが多い。倒すモンスターの総数が多い方がドロップアイテムは増える。それでもレアアイテムを落とすようなら一発逆転も考えられる。経験値が美味しくてもポーションがぶ飲みで赤字では生活に支障が出てくる。MMORPGのレベル上げにはただその辺を歩くだけでなく倒すモンスターも吟味するのが必要だ。
逆に、そのように、所謂効率の良い狩場は人気が高い。狩場確保というものがとても大変なのである。このゲームでも二日目、三日目と日が過ぎていけばそのような弊害が生まれてくるだろう。ただ、今はまだゲームが始まったばかりなので、初心者クエストを回ることでゲームに慣れる人が多い段階だ。
町の外の草原に足を運ぶ人はそうそういないが、それでも異端なプレイヤーはある程度見る事が出来た。それでも草原マップの2割くらい進んだ所で他のプレイヤーを見る事は無くなった。数時間前にいた場所に戻ってきた。「ゴリラ」の目前である。あいにくこの草原ステージは非アクティブなモンスターだけで、プレイヤーを感知したらすぐに襲ってくるモンスターはいない。
「まずは全員戦闘になれてもらう。非戦闘の十希はドロップアイテムの鑑定やポーションの製造。百音はスキルの発見を。」
戦闘メンバーは私、一楓、千乃そして万智(まち)。
私と一楓は剣を、千乃は遠距離の弓矢を、万智は後衛職の為盾を装備している。
この顔ぶれは以前のゲームでも一緒に行動していた、いわゆる精鋭チームだ。どのプレイヤーもスキルは高く、どこに出しても恥ずかしくない。それぞれが職を極めており、背中を任せる事が出来る。
「回避、攻撃をあてる事。被ダメージも知っておく必要がある。万智は防御での被ダメージを確認してくれ。」
まずは3人で戦闘をさせる。どうやら一撃でやられるわけではなさそうだ。万智は盾を装備するだけで回復魔法の初級スキルが使えるようで、タイミングよく回復している。一楓も反応出来ているし、千乃も適正距離を把握し、ヘイトをためるタイミングも掴めている。
12分30秒――。
一体の討伐にかかった時間だ。ほぼゲーム開始の状況で最初のステージ2番目の強さの敵を倒せるのは相当の実力といっていい。
何体か倒しているうちに10分を切れるようになってきた。だが速さなら他に経験値効率が良いモンスターはたくさんいるだろう。
「この被ダメージでリーダーは良くソロ狩りできましたね。」真面目で負けず嫌いな副リーダーの一楓がライバル心むき出しで聞いてきた。
「ダメージは受けてない。これくらいならすべて回避できる。何回か一楓も出ていたと思うけどクリティカルダメージが相当良い働きをする。プレイヤースキルだから鍛えれば誰でも出来るよ。」
笑顔で答えると悔しそうにうつむいてしまった。
相変わらずの化け物・・・。誰かがボソッと行ったのが聞こえた。
パーティに加入している十希や百音にも経験値が入っているようだ。
疲れが見え始めたので、自分も参加する。そういえば武器は加工とやらで十季に渡していた。
「リーダーどうぞ。剣に変換しておきました。耐久度も減っていたので修復しておきました。お代は後ほど。」
耐久度が減っていてもダメージが出るようだが、木の棒で戦い、耐久もない状況で戦っていた事を知り、メンバーは冷ややかな視線を送ってきている。
化け物!さっきよりも大きな声が聞こえた。
討伐は1分を切った―――。
剣になるだけでもダメージが変わり耐久が元に戻ったおかげで今まで以上のダメージを出すことができる。メンバーが一人増えたことで一人一人への攻撃は少なくなり、狩りは効率よく進められた。
ある程度狩りを続け、いったん休憩に入る。
修理、補給は全て十季に任せているので町に戻る必要がなく大変安上がりだ。
「十季がここにいるって事は町の店は閉店中なのか?ほかのプレイヤーは困っているのだろうか?」
すると十季は、「本人がその場にいない時や、ログアウトしている時は影としてNPCがお店業務はしてくれています。それに加工や修理は数分時間がかかるので、お店はこれからも増えていくと思います。価格競争が楽しみです。」笑顔で答える十季のリアルは経営や投資のプロである。
「私も情報で一儲け。」百音は言う。どのゲームでも情報収集と隠密やスパイなどをしてきた彼女は一言いうとこの場所から離れていった。パーティは組んだままなので連絡は取れる。
能力値タブやスキルタブをぼーっと見ながら「ちょっと一人でボス挑んでくる。」
思いつきで発言した。特に周りから反対もなく挑戦することとなった。
レベルの低い今がソロのチャンスだ。デメリットもそこまで多くない今が最後のチャンスかもしれない。また、自分の可能性を見てみたい。
「ここでしばらく狩りをしてくれ。たぶん誰も来ないだろうし。」
パーティを抜けていざ洋館へ。気持ちの変化は無い。多少は楽しみを感じているがそれでもほとんど無心で鍵を開ける——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます