第2話

次の日は朝からクエストを回ることにした。

昨日の夜、プレイヤーの開いている店の店主。あの綺麗なお姉さんと話す機会があった。

「いらっしゃい。」

毎度ニコニコしながら話してくれた。

今日だけでも10回は通ったこの店の店主の名前は「トキ」というらしい。名前を聞いたときはなぜかドキドキしたのを覚えている。

「トキさんはレベル上げに狩りに行ったりしないんですか?」

「・・・あなたもナンパ?」

笑顔で小ばかにした感じに言われた。

「冗談です。お店で物売ったり皆さんの武器の手入れでも経験値は稼げるの。だから私はサポートしながらゆっくりレベルを上げていきます。」

「あとは…皆さんが話してくれた情報を困ってる人に共有したいなって思ってます。」

「便利屋さんですね。商人って簡単になれるんですか?」

「お店はお金さえ払えば手に入れれば出来るようですよ。」

「借金制度もあるので、最初はお金を払わなくて大丈夫なんです。お店の場所によってかかる費用が違うみたいで…私は…入口の良い所を買ってしまって…。」

話ながら徐々にテンションが下がっていくのが分かった。

「か、通うので頑張ってください!」

キャバ嬢に貢ぐ紳士のような立場だと自分をおかしく思いつつ話を変えてみた。

「ちなみに、どのくらい人いそうですか?」

「最初は本当にたくさんいたのだけれど、パーティを組んでやっている所は一人が代表して来たり、お金がたまってくると買いだめしてきたりと徐々に人は少なくなってきましたね。」

「それでも見た顔だと今日だけでも数千人の顔は見たかなぁ…あまり表立って広告されていないゲームだから今後もどんどん増えていきそう。自由なゲームですからね。」

感慨深げに言う。

それにしても数千人がログインしていてもそこまで混雑した感じがしない。

「皆どこで何してるんだろう?」

「ほとんどのプレイヤーはクエストに挑戦しているようですよ。クエストの場合それぞれのプレイヤーが別空間に飛んでクエスト任務を遂行する形式みたい。今はまだどちらが効果的かも分からないけれどお友達とやってる人はクエスト重視みたい。もちろんソロプレイヤーもいるようだけれど。」

クエストを受けられる場所をトキさんから聞き、次の日はクエストへの挑戦を決めた。

すでに辺りは暗くなっている。街頭のおかげで街中はずいぶん明るい。夜は寝ることもできるが、たいていのプレイヤーは休憩のために一度ログアウトするようで、人の姿はまばらだ。

2時間で2週間分という事は、現実時間の1分で2時間40分。

3分の休憩で夜が明ける。トイレ休憩には最適だ。ゲーム内で寝る事で、体力などが全回復するので、寝る事も視野に入れながら活動していこうと思った。この日は…トイレに行った。


翌朝、仕入れた情報からクエストを確認しに行く。クエスト管理人というNPCから収集クエスト、討伐クエスト、もちろんストーリークエストとたくさんのクエストが見えた。ストーリーはどうやら開拓団としてある大陸に到着し、町の発展と新たな土地の開拓という事が目的らしい。

この草原は動物系モンスターが多い。というか、見かけたのは全て動物だった。何種類か倒したが、動物という事で「肉」や「乳」など食材がドロップする。時折、「牙」や「骨」など今は何に使うかもわからない素材がドロップしていた。この草原のテーマは開拓準備の食糧供給が主な目的らしい。クエストの報酬は様々だが、討伐クエストやストーリークエストは経験値を沢山もらえた。

数日クエストをこなし、残りはパーティを組んでの大量討伐クエストだけになった。クエスト受注場所で思案していると声を掛けられた。

どうやら3人でクエストに挑戦したら失敗したようで、一緒に出来るメンバーを探していたらしい。俺も含めて6人になったのでクエストに挑戦してみようとなった。

クエスト自体はそこまできついものではなかった。3人で挑戦したらどうだろうか。確かにキリがないので大変であったろう。

クエストは余裕があったので、話をしながらまったりと狩りを続けていた。

「この程度なら死ぬことはないね。」

誰かが傲慢にいった。

「そういえば、メインマップの方で探検に行かれた方がデスって町送りになりすごい文句言ってたのをきいたな。」

Dというプレイヤーが答えた。さらに続けて、

「デス時のデメリットが圧倒的に大きいらしい。」

他のMMOでも経験値がダウンするようなゲームもあるし精々5%位だろうか?確かに序盤からレベルは上げにくいゲームだが、再序盤の今そこまで言うほどなのだろうか。10%位ダウンするのだろうか?と考えていると、あるプレイヤーが言った。

「経験値は稼いだ半分。スキルポイントも稼いだ半分。アイテムは全ロストらしいです。」

その場にいた全員がすごい顔をして目を合わせ合った。

「余計死ねなくなった…。ソロで活動やめよ…。」

ボソッと俺が言うと、Dと名乗ったプレイヤーが、

「俺も今までソロだったけど今後一緒に進めないか?こういうゲーム慣れてそうだし強そうだし良い身代わりになってくれそう」

おちょくるように言われたが、嫌な気分はしなかった。

このDというプレイヤー、俺のことを強そうといったが、言わずもがなこの6人パーティで一番良い動きをしている。弓矢

という今まで見たことのない武器を使っているがサポートからとどめまですごく視野が広くクレバーなプレイヤーと感じた。


クエストが終わりパーティメンバーと別れる際にもう一度パーティの件を伝えられた。断るつもりもなく俺はDとパーティを組むことになった。他のメンバーともフレンド登録として今後またパーティを組む事が出来るようにしておいた。

他のメンバーと別れた後は、Dと共にメインマップに出る事にした。物静かだが、冷静に受け答えしてくれる。すごく接しやすい人物だった。

そうこうして夕方となり今日は別れることに事にした。当然明日の朝再開する約束を取り付けて。

更に、別れ際、

「そういえば今度パーティ誘われているのだけれど、一緒に来る?」

「お!是非」

二つ返事で返すと、

「キャラ濃い人いるけど気を付けてね」

不気味に微笑んで言われた。


ゲームがスタートしてからクエストを繰り返す事でレベルは4になっていた。ついでにこのゲームについて少しずつ理解してきた。まず、スキルだが自分の行動に基づいて発見され、その行動をある程度繰り返すとスキル習得となる。例えば、今使っている片手剣の「初期斬撃スキルI」は50回の通常攻撃により発見され、ためたスキルポイントを割り振る事で習得となる。どうやら武器ごとにスキル習得が変わり、武器スキル以外にも役に立つスキルがあるそうだ。

このゲームのレベルだが、上がると基礎能力値だけでなく、スキルポイントも得られ、さらに現金支給もある。開始してから一週間で4と言うのは実は早い方である。そのことからいかにレベルが上がるのは辛いか分かる。ただしそれを補うのがスキルであり、膨大にあるスキルの選択が今後の生活にかかっているようだ。


今日はDに誘われた野良パーティーの日だ。Dの話によるとレベル6という最速の人まで来るらしい。色々と教えてもらおう。

先に合流した我々二人は自己紹介もほどほどに狩りを始めていた。噂のレベル6のプレイヤーが合流して狩りを続けていると、これから先の話になった。


まずは紹介。

B…最速プレイヤーのうちの1人。片手剣を使っている。あまり喋らず影が薄い。だが、手数が多く敵の攻撃も回避している。PSが高そうだ。

C…もう1人の最速プレイヤー。会話をしているだけで頭のキレルプレイヤーだ話も面白い。斧を振り回しているが将来は後衛になるとの事。

D…友

E…似たようなゲームで一位になっているようで他のプレイヤーから尊敬の念を抱かれている。今回のパーティ狩りを見ただけでも相当の実力だ。

F…今回の企画者。相当知り合いがいるらしく一週間たったゲーム内で一番の有名人。夜になると町で宴会を開くなどコミュニケーションスキルは相当高そう。

G…いじられキャラで誰にでも愛されそうな性格をしている。Fにも可愛がられ今はFの右腕な感じがする。

H…物腰が低い人物。メンバー全員が損しないよう周りを気遣っている印象。


これからはソロでの狩りよりパーティーで進めた方が効率が良いだろうと言うのは全員の意見だ。Fが今回この8名を集めたのは「クラン」作成についてがメインの話だったようだ。

このゲームではパーティーは最大8名だが、パーティーだけでなくクランとして活動する事も出来る。

クランには実質メンバーの上限がなく、人数が多ければ多いほど強さにつながる。

その中でも現在一番進んでいるこの8名でクランを作ろうという話だ。

正直俺は賛成したいと思った。このメンバーならこのゲームでトップを走れると感じた。


今日はこのまま解散となった。来週末にまた集まる約束をして。

帰り道はとても足が軽かった。

「次にあのメンバーに会う時までにレベルを上げよう。役に立てる情報を集めよう。スキルも新しいスキルを発見しよう。これこそRPGの醍醐味だ!。やる事が多すぎる!。」

今後を妄想しながらスキル欄を確認すると「疾走」というスキルが見つかった。どうやら足が軽かったのは走る系のスキルを取っていたようだ。毎日狩場まで走り、町まで走り、この一週間何キロと走ったからだろう。せっかちな性格が祟ったようだ。

Dはあきれた様子でついてくる。

「Dはどうしたい?」

「君がいるところについていくよ。面白いし。」

ゲーム内で良い友だちができた。この先も楽しめそうだ。

折角だからリアルの友だちも呼ぼうか。過去に一緒にゲームをしていた友だちも呼ぼうか。楽しいという気持ちを皆に共有したくなった。この夜の間に休憩も含めて一度ログアウトしよう。また走り続ける事が出来るように。

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