弟の恋



三歳年下の弟が、急に洗面所を占拠し始めた。


鏡に向かって一生懸命に自分の髪を整えている弟は、自分で買ったと思われる芸能人がCMをしている人気のワックスを手にとるが、使い方は下手くそだった。


多分、同級生が使っているのを真似して買ったんだろう。

使い方が下手くそなものだから、なかなか髪型が決まらない。

私はもどかしくなり、ついに声をかけた。



「ああもう、太陽、あんた何やってんの?」



後ろから見ていたことに気づいていなかったらしく、ビクリと肩をあげた。



「姉ちゃんかよ、びっくりさせんな!」


「びっくりなんかさせてないでしょ。あんたねぇ、もう少しマシなワックスの使い方ができないわけ?」



時間も押してるんだから、早くしなさいよ。と付け足して、私は弟のワックスを手にとった。



「どんな風にしたいの?」


私がそう聞くと、


「イマドキな感じがいい。」


あまりにもおおざっぱにそう言ったので、とりあえず万人受けの良い感じにしようと思い、ワックスのふたをあけた。


柔らかめのワックスは、弟のふんわりとした髪にはちょうどよかった。


「これ、誰が選んだワックス?」


「美容師さんが、もしワックスつけるなら少しだけ柔らかいのが良いっていってたからそれにした。」



なるほど。確かに、薬局のワックスとかの並べられている場所には各メーカーのワックスのかたさが表情されている。


私はてのひらにワックスを広げて、私の背を追い越した弟に屈ませた。


わしゃわしゃと髪の毛全体にワックスを馴染ませて、ほんの少し外ハネにする。


イメージとしては、爽やかな好青年。

うん、いいかんじじゃない?


屈んでいる弟に鏡を見なよ、と促して、私は手を洗う。


「うわーっ、姉ちゃんスゲー!!」

「あったりまえよ。」



あんたより三年も早く生まれてるんだから。と言ってはみたものの、実は自分がベリーショートだったときにワックスには苦労をしたのだ。



「に、しても、何で急ににワックスなんか・・・」



と私が呟くと、弟はそそくさと洗面所を出て、鞄を抱える。



「行ってくる!」



そう言った弟は耳を真っ赤にしていた。



(あぁ、そうゆうことね。)



頑張れ弟。

そう言って私は弟の背中を見送った。



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