初恋


もう恋愛なんてこりごりだ。

そう思っていた。


初恋は小学生。幼なじみで隣の家に住む、可愛くて優しい年上の女の子だった。


その子はピアノが上手くて、俺はその子に憧れてピアノを始めた。

その子は年上だし、俺よりピアノを始めた年齢も早かったから、俺よりずっと上手かった。


「太陽はピアノ上手だね」


そう言って褒めてくれた。

2人で連弾もした。


(ああ、俺、空姉ちゃんのこと好きだなあ)


何となく恋心を抱き始めて、いつしかそれはなんとなくじゃなくて本気だった。


しかし、俺には恋のライバルがいた。

兄だ。

3歳年上で、勉強が得意で優しい兄だ。


わかっていた。

兄が彼女を好きだとわかっていた。

そして彼女も兄が好きだとわかっていた。


俺が高校1年の時に、俺は完全に失恋した。

兄と彼女は付き合い始めた。


もどかしかった。

兄も大好きだし、彼女が付き合うなら、喜ぶべきなのに。


「よかったじゃん。おめでとう。」


俺は兄に言った。

兄は「ありがとう」と言った。

多分、兄は俺が空姉ちゃんを好きなことに気づいていた。それでも兄は俺には譲らず真っ直ぐに向き合ってくれた。

同情されたら多分ブチ切れていた。


(あの二人、ずっと一緒だったもんなあ)


兄と空姉姉ちゃんは、母のお腹にいる時から知り合いだったらしい。

それから幼稚園も、小学校も、中学校も一緒だった。

高校で中々会う機会が減ってしまったらしいけど、家は隣だし、会おうと思えば会えた。

それに姉とは親友だ。


ピアノが弾けて、優しくて、


(俺は城之内と空姉ちゃんを重ねちゃってるのかな)


何だかよく分からなくなってきた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る