マロン



「マロン、今日暇?」

「今日は月曜だけど部活あるよ。なんか用?」



友達の栗山駆くりやまかけるに声をかけた。

栗山は小学校の時から仲が良くて、あだ名は「マロン」だった。


名前に「栗」が入ってるので「マロン」みんな親しみを込めて呼んでいたし、俺はそんなあだ名が好きだった。

マロンは野球部。ポジションファーストで、サウスポー。

部活も勉強も真面目で、好青年って感じで爽やかだ。


「お前、そろそろマロンって呼ぶのやめろよ。最近瀬川まで真似してマロンって呼んでくるんだけど。」


マロンは苦笑いをした。

それすらも爽やかに見える。


「てか太陽なんか用だった?」

「うーん、まあちょっと久しぶりに遊びたいなって思っただけ。」

「あ、そう?今日は本当はオフの曜日だろ。だから多分早く終わるから、お前ん家寄るか?」

「まじか。じゃあ帰りにちょっと寄って」

「おっけー。」



マロンはいつも何かを察してくれる。

俺が何かを話したい時、俺が何かを考えている時、いつも家に来て話を聞いてくれた。

幼なじみって、凄いな。


家に帰ってマロンが来るまでピアノを弾いた。

ハノンを弾いて指をならす。それからミクロコスモスを弾く。独特なメロディと和音は、何だか頭に残る。


ピンポーンとインターホンが鳴った。

それから少しして、部屋のドアがあいた。


「相変わらずめちゃくちゃピアノ弾いてんだな。てか、前より弾くようになった?」


マロンが来るなりそう言った。


「ちょっとピアノ強化してんの。」

「え?あんなにピアノ弾けるの隠してるくせに?」


マロンがそう言ったあと、ハッとした表情をみせた。


「もしかして、城之内?」

「そう。」

「うわ、まじで?」

「俺、あんまり外でピアノの話しなかったけど、城之内には話したんだ。城之内の前では弾いた。」


マロンは信じられない、といった顔をしていた。

それもそのはずだった。


「お前、学校の奴の前で弾くの嫌がってたじゃん」


そうだ。

俺は学校ではピアノの事は言わなかった。

冷やかされるのが嫌だったんだ。


『ピアノなんて女みたいだな』


そうやって冷やかされるのが嫌だった。


どうして世界中のピアニストは男性だって沢山いるのに、習い事になると急に差別されるんだろう。


「太陽、お前はお前の思う通りにしたらいいんだよ。俺はお前のピアノを笑ったりしないし、バカにしたりしないしさ。

もしバカにするやつがいたら、俺がぶっ飛ばす。」


マロンが言った。

俺は、いい友達を持った。









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