見てるだけ


自分から自分の話をするなんて、思ってもみなかったんだ。


だってそうだろ?

ピアノの話なんて、男友達とすることはほぼ無いんだから。



***



ある時の音楽室で、クラスのまとめ役をやっている女子のピアノを聞いた。

合唱祭や、学年行事では絶対にピアノ担当していて、音楽の時間にもたまに先生にピアノを頼まれるくらいに上手だった。


そのある時に聞いたピアノは綺麗な合唱曲ではなく、和音のぶつかり合うような現代曲だった。


感情がピアノに乗り移っているようで、ピアノからあいつの本心が聞こえてきたかのようだった。

明るくて、優しくて、クラスの中心にいるあいつは、本当は心に何かを秘めているような、そんな音色だった。



それから気になりはじめて、気がつけばよく見ていた。


「太陽?お前誰見てるの?城之内?」

「え?」

「それとも瀬川さんみてんの?」

「は?」

「お前が女子の集団みてるの、なんか珍しい。」


友達の栗山マロンに声をかけられて、目線を変えた。


「マロン、お前は瀬川にいつか告白するの?」

「はあ!?なんだ急に。」

「俺も女子と堂々と話したい」

「話せばいいだろ。てかいつも話してるじゃん。」

「なんか意識したら急に恥ずかしくなった。」

「うわ、なんか気持ち悪い。ちょっとした話なら、いつも女子としてるじゃん。

てか太陽もしかしてあのグループの中に好きな人がいたり・・・・?」

「好きなのかはよくわからない。でも、気にはなる。」



もやもやした気分がどうしていいのかわからない。



「俺さあ、みんなでわいわい楽しく過ごせたらそれでいいかなって思ってた。

中学の頃とかさあ、クラスとかでカップルいたじゃん?でもそいつらすぐ別れるし、またすぐ誰かと付き合ってさあ、なんだそりゃって思ってた。」

「そうだったな。」

「だから彼女とかいらないって思ってたし」

「そうだな。」

「しばらく見てるだけにしようかな。今の関係が壊れるのも、ちょっと嫌だしさ。」

「太陽がそう思うならそれでいいんじゃないか。ちなみに聞くけど瀬川じゃないだろうな。」

「違う。瀬川じゃない。」

「まさか梨緒?」

「そんなわけないだろ、あんなゴリラ」


俺がそう言った瞬間、梨緒がこっちを見た。

梨緒はマロンと俺の幼なじみで、昔から仲が良かった。


「あんた、今あたしをみてゴリラって言ったな?」

「言った。怪力ゴリラ」

「ねえ、遊月、歌、聞いてよ!太陽があたしの悪口言った!!」

「馬鹿野郎!!瀬川と城之内の前でそんなこと言うな!!」



今は見てるだけにしよう。

みんなで騒いで、仲良く喋って、ふざけあって。

それから考えよう。

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