成績が優秀で、学級委員。

それからピアノが得意で、明るくて優しくて頼られて。いつもクラスメイトに囲まれている。


そんな私は幸せ?



***



昼休みの音楽室。

私は一人、ピアノを弾いていた。


第1音楽室は解放されていて、私はたまにピアノを弾きにきた。

吹奏楽部は第2音楽室が拠点だったから、人気のない第1音楽室が好きだった。


この時間だけが私の感情を解放してくれた。


縛られないピアノ。

縛られない感情。

何にも縛られない。


「なあ、それってハチャトゥリアン?」


教室の奥の方から声がした。


それは、クラスメイトの青柳太陽だった。

楽器の陰でいたので気が付かなかった。


「なんか、お前がそれ弾くの意外かも。なんかバッハとか古典系の方が好きかと思ってた。」


ペラペラと話し始める青柳に、私は何もリアクションが取れなかった。

楽器の陰から出てきた青柳は、ピアノの近くの座席に腰をかけた。


そもそも何故ここに?


「いや、私は現代曲の方がわりと好きで・・・青柳君はなんでここに?」

「え?俺?昼寝したくて。隠れるにはちょうどいいだろ?」


にこっと笑った青柳の顔が、なんだか眩しく見えた。


「青柳君、ピアノ詳しいんだね。」

「あれ?言ってなかったっけ?俺もピアノ弾けるんだよ。」

「え!?うそ!?じゃあなんで合唱祭のピアノやらなかったの?」

「だってお前弾くだろ。なんかピアノは女子ってイメージだし、皆お前が弾くもんだと思ってるじゃん。」


何故学校は、ピアノは女子が担当みたいなイメージなのだろう。

女の子の習い事のイメージなのだろうか。


「青柳君、何か弾いてよ」

「俺?何がいいか。」

「何が好き?古典は?」

「バッハはどうだ。平均律クラヴィーア曲集」


そう言ってピアノの椅子に腰をかける。

それから椅子の高さを直す。

その一連の流れはまさしくピアニストだった。


ピアノを弾き始めたその指は、確かにピアノをずっと弾いてきた人の指先だった。


私はその音色に聞き惚れた。

意外だった。


青柳はクラスの中心にいるような人で、みんなと仲良くできて、明るくて、本当に名前の通りに太陽のような人。

ピアノ弾く人というよりは、運動部で活躍してそうな活発な男の子なのに、こんなにも繊細な音色を奏でることに。


(かっこいいなあ・・・・)


聞き惚れているうちに演奏は終わり、更に休み時間も終わってしまった。


「なあ、城之内、またピアノ聞かせてくれよ。」


青柳がにこりと笑うと、私は頷いた。


そして私も言った。


「青柳君のピアノ、また聞きたいな。」




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