第11話 本当に幕末だらけ

小林刑事からの連絡。

『どうした小林。』

勘太郎は不安にかられた。

『お疲れ様です班長。

 先ほど、鹿児島の東郷高春

 さんから連絡がありまして。

 田中新吉の付き人で、桜井

 常吉さんていう方が、永倉

 英一の助手で、東郷道場の

 門下生だと。』

勘太郎は、一応、礼を言うと電話を切った。

本間と木田に報告しながら、少し違和感が残っていた。

そして、東郷高春に直接電話をかけた。

『高春さん・・・

 わざわざの連絡ありがとう

 ございます。

 この人、何か不振な点でも

 あるんですか。』

『住所を変更するように言っ

 ているんですが。

 ぜんぜん、聞いてくれない

 んです。

 自分は、茨城県出身で鹿島

 神宮の側で鹿島新當流を学

 びましたからと。

 そこまで言うくせに、薩摩

 示現流の門下生になってい

 るんです。』

たしかに東郷高春の疑問は、わかる気がする。

鹿島新當流といえば、塚原卜伝に始まる古流剣術。

その使い手ならば、薩摩示現流を鹿児島に住みながら学び、茨城県に住所を残す意味は、少ないように思われる。

そのことを本間と木田に相談して。

『警部・警部補・・・

 俺、このまま茨城県に。』

『そうなると思った。

 んで、何を食いに行く。』

本間のいつもの手口。

『常陸牛とネギカツ丼なんて

 言えるわけありません。』

完全に言ってしまっている。

木田と佐武は、またまた爆発するしかない。

茨城県鹿島市に桜井常吉の住所はある。

多少なりとも剣術を嗜む人間としては、お詣りしないわけにはいかない神社。

本間と木田と勘太郎は、並んで柏手を打った。

神社の神主に、話しを聞いてみた。

すると、桜井常吉という人物。意外な有名人。

鹿島新當流剣術の第一人者で、毎年、流派を代表して剣舞を神社に奉納するほどの使い手。

『彼の曾祖父の父親は、桜井

 常五郎先生ですよ。』

神主は、どや顔で話してくれた。

『赤報隊のですか。』

勘太郎は、大袈裟に驚いてみせた。

その間木田は、社務所に置いてあった竹刀を借りて素振りをしている。

神主は、それを眺めて驚いている。

『あの方は、えらい達人です

 ねぇ。』

勘太郎に何者かと訊ねた。

『昨年の、全日本剣道選手権

 の優勝者です。

 京都府警察捜査1課の木田

 警部補殿。

 私の上司です。

 お話し、ありがとうござい

 ました。』

勘太郎は、お礼を言うと、社務所を出た。

すると、木田がすかさず。

『おーい勘太郎・・・

 打ち合わせ付き合え。

 昨日から食い過ぎや。』

勘太郎、社務所の横の竹刀を借りて木田の前に進み出た。

お互いに蹲踞して対峙すると、神社の空気が変わった。

『なんという見事なお二人。

 北辰一刀流の免許皆伝の

 方と、こちらは柳生新影流

 の免許皆伝。

 お二人ともとんでもない使

 い手のようですな。』

本間に話しかけたが。

本間も2人の立ち合いは、始めて見る。

2人と、仲の良い佐武ですら凍りついている。

神主と本間と佐武の後ろには、人だかりが出来てしまった。

木田の気合いの声と共に、打ち合いになった。

神社の木立に、竹刀の打ち合う音が木霊する。

木田の打ち込みを受けて往なせる唯一無二の練習相手だろう。

『サンキュー勘太郎・・・

 やっぱり、お前、ベストパ

 ートナーやなぁ。』

神社の境内に歓声と拍手が沸き起こった。

さすがに鹿島神宮、武道の神様だけあって、参詣者でも、かなり目が肥えている。

『神官様・・・

 お目を汚しました。

 申し訳ございません。』

木田と勘太郎が、神主にお辞儀をすると。

『いや~・・・

 良い剣舞を見せて頂きま

 した。

 しばらくは、日本の剣術は

 京都府警察の時代が続きそ

 うですねぇ。』

神主は、お世話抜きに、そう思っていた。

『お前らが、悪でのうて良か

 ったで。

 儂の部下で良かった。

 ところで勘太郎・・・

 何かヒントはあったか。』

さすがに本間は、捜査も気にかけていた。

『ハイ・・・

 桜井常吉という人が、桜井

 常五郎の子孫でした。

 ますます幕末だらけにな

 って。』

勘太郎は、考えが、こんがらがるのを感じた。

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