第10話 絡み合う幕末

そうなると、小野田義一郎という人物も、無関係とは思えない。

勘太郎は、また高春に電話をした。

『小野田義一郎という人、ご

 存知ですか。

 京都の鍵屋さんですが』

高春には、心当たりがないようだ。

門弟にも聞いたことがないという返事。

任意で、話しを聞くための理由も見つからない。

せいぜい、店に出向いての事情聴取が限界である。

レンタカーの社長がくれた資料に再度目を通していた勘太郎がふと立ち上がって、本間と木田の前に進み出た。

『警部・・・

 小野田義一郎について、調

 べに行こうと思うんです。

 田中や永倉とのつながりが

 見つからないと糸口が。』

本間と木田は、勘太郎が何か良からぬ魂胆を持っているとにらんだ。

『それで、どこに行くんや。』

勘太郎は、小野田義一郎の運転免許証のコピーを本間と木田に見せながら。

『福島県の会津若松市です。』

本間は、核心を突くことにした。

『んで、勘太郎。

 何を食いに行くねん。』

勘太郎、相も変わらず乗せられやすい。

『そんな、喜多方ラーメンと

 浪江焼きそばなんて言えま

 せん。』

勘太郎の横で、木田と佐武が爆笑している。

『お前、また誘導尋問にひっ

 かかりやがって。』

笑いながら、後退りする2人。

『鑑識に戻って、出張の準備

 してきます。』

本間に敬礼して、駆け出した佐武を見送り。

『したら、儂もロッカーに荷

 物を取りに・・・。』

『木田・・・

 悪い・・・

 俺のも頼む。』

本間が木田にロッカーキーを渡した。

全員、行くつもり満々。

しかも、たまたまツアコンの清水が来ているという良いような悪いようなタイミング。

『清水さん・・・

 ちょうど良かった。

 福島県の会津若松市まで、

 大人4人お願いします。』

清水にしてみれば、棚からぼた餅。

4人は、そのまま京都駅から新幹線に乗った。

会津若松駅に着いた時には、もう夜になっていた。

新幹線のぞみの中から、本間が福島県警察に電話して、捜査に入る許可を頼んでいたのだが、会津若松駅の前に、福島県警察から迎えが来ていた。

『東山温泉にお宿が取れたら

 良かったんですが。

 猪苗代湖畔になってしまい

 ました。』

迎えの白木警部補が申し訳なさそうに言う。

『猪苗代湖畔に行くんですか。

 強清水って、遠いんで

 すか。』

勘太郎がすかさず質問。

『なるほど、まんじゅうの天

 ぷらですね。

 通りますので、寄りましょ

 うか。』

『お願いします。

 甘じょっぱくて香ばしいと

 聞いているんですが、美味

 しいんですか。』

勘太郎には、不思議。

本間と木田と佐武には、驚きしかない。

まんじゅうを天ぷらにとは、とてもじゃないが、食べたくない。

勘太郎は10個テイクアウトした。

旅館で、白木警部補と勘太郎が、まんじゅうの天ぷらをツマミに、日本酒でチビりチビりやり始めたら、本間がウズウズし始めた。

『勘太郎・・・

 半分だけくれへんか。』

丸々1個は、まだ怖い。

油と塩気で、意外と日本酒に合う。

本間は、止まらなくなった。

そうなると、木田と佐武も黙っていられない。

結局、大の男が5人で2合ほどの日本酒を飲んだ。

白木警部補も、泊まる羽目に。

翌日、白木警部補の案内で小野田義一郎の本籍地に行ってみた。

安達という家である。

家の前を60歳代と思われる男性が掃除していたので、勘太郎が話しかけてみた。

『京都府警察の者ですが・・

 この辺りで、小野田義一郎

 さんという方のことを調べ

 ようと思いまして。』

初老の安達氏、驚くことを言った。

『小野田義一郎。

 親戚ですが。』

それから、詳しく話してくれた。

この初老の安達氏は、明治に安達家に養子が来て、その子孫。

小野田は、江戸からの家系。

安達家が、わけあって小野田から男子をもらった。

それが、安達偽三郎だと教えてくれた。

『白虎隊二番隊隊長のですか。』

勘太郎は叫んでしまった。

『幕末四大人切りの薩摩維新

 志士田中新兵衛に新撰組永倉

 新八で、今度は、白虎隊で

 すか。』

なんとも幕末ばかりのようになっている。

とはいっても、田中や永倉との接点がない。

小野田からの過去の年賀状を見ていた安達氏の奥さんが。

『これって、関係ありますか。』

と古い1枚を見せてくれた。

呉服屋の法被を着た小野田義一郎が売っている。

ただ、その法被が問題。

永倉呉服店と書かれている。

『安達さん・・・

 義一郎さんは、このお店に

 お勤めしてはったんで

 すか。』

勘太郎は、拝むように訊ねた。

『そうです。

 そういえば、そんなことを

 言ってたような。

 たしか、大島紬のお店とか

 言うてたような。』

本間と木田は、小さく握りこぶしを作った。

『このお店の社長さんには、

 えらいお世話になっている

 と言ってました。』

大当たりした。

安達夫妻に深々とお辞儀してお礼を言うと、4人は小躍りした。

福島県遠征が大当たりした。

かつて、主従関係にあった恩人の頼みに応じたのだが。

はたして、小野田義一郎がどこまで事件を認識していたのかは疑問という程度のところまで調べがついた。

『よっしゃ・・・

 安心して喜多方ラーメンと

 浪江焼きそばに行ける。』

と喜ぶ本間と木田。

その時、勘太郎の携帯が鳴った。

小林刑事からの連絡。

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