第5話 いざ鹿児島

本間と木田は、鹿児島県三島村への出張捜査を計画していた。

連れて行くのは勘太郎と佐武。

梨田は、警察官ではないために諦めるほかなかった。

日数は、捜査場所が4ヵ所と見られるので4泊5日とした。

警察官の公務での出張旅行であるので、金額はかけられない。

新幹線で博多乗り継ぎで鹿児島に入った。

その日のうちに、次元流の本部を訪ねた。

写真を見せたところ、東郷以外の3人も、次元流の関係者ではあった。

翌朝、三島村へのフェリーに乗るためにレンタカーで鹿児島港に行くと、華やかな一団が騒いでいた。

祇園乙女座の従業員と梨田だった。

乙女座の常連客のツアーコンダクター清水が旗を掲げている、

フェリーみしまは海を渡るだけに、さすがに大きい。

口之三島と呼ばれる三島村の有人島三島を繋いでいる。

竹島・硫黄島・黒島の順に寄っていく。

京都府警察の一団と祇園乙女座の一団が降りた。

竹島には、民宿が2軒。

宿泊可能人数が、2軒合わせても26人。

2組で満室になったが、2組は同じグループと考えても良い。

ツアーコンダクター清水が、民宿の女将に説明している。

『京都祇園のクラブ乙女座の

 女将さんが、あちらの若い

 刑事さんの奥様で、あちら

 の小粋な男性が、京都府警

 察専属のお医者さんです。

 ですから、夕飯とかいっし

 ょで大丈夫だと思います。』

民宿に、そこまでの従業員がいないということで、乙女座の数人が手伝うことに。

そこは、接客のプロばかりで、卒がない。

配膳から後片付けまで、自分達も楽しみながら、軽々とこなしていく。

さながら、宴会のようになってしまった。

本間と木田と勘太郎と佐武には、寝耳に水のどんちゃん騒ぎ。

支払いは、乙女座の経費とくれば、言うことはない。

民宿の女将に写真を見せたところ、東郷元春を含めた4人共、硫黄島の島民だと思うということだ。

全島民の顔と名前は知っていても不思議はない。

竹島は、島民全員でも90人に満たない牧場の島なのだ。

人間より牛の島。

牛達が、のんびり草を食んでいるだけの島で、手掛かりなど出そうにない。

となれば、勘太郎達も今晩は騒いでも良いとばかりに、しかし、そこは一流の警察官。

二日酔いになるほどの飲酒はしない。

見ようによっては、面白味のない連中である。

翌日、しっかりした足取りで、薩摩硫黄島に向かった。

京都府警察のレンタカー、4人で、なぜかワゴン車。

4泊ということで、荷物が大きいと思った佐武の配慮だった。

佐武は、自分がいつも仕事で使っているトヨタのハイエースのスーパーロングの10人乗りを予約。

鹿児島に着いてからずっと運転手を務めている。

やっぱりこの車、運転しやすいわ。

佐武が呟く助手席には、なぜか梨田が座っている。

2列目に、本間と木田。

3列目に勘太郎と萌。

『こうなるとは、予想できま

 せんでした。』

佐武は本間に、必要のない言い訳をしている。

だいたい、鹿児島に入ってから、フェリーの予約とレンタカーの予約を鹿児島中央駅前の観光案内所で頼んだので、乙女座と梨田のことなど、知るよしもなかったはずである。

硫黄島に上陸して、港の駐車場で、乙女座の連中がバスに乗り込んでいると、何やら騒ぎ出した。

『どないした・・・。』

本間達が近づくと、安心したような表情で。

『何か、変な声が聞こえるん

 です。』

警察官達が、耳を澄ました。

『チェー・・・。』

『チェーストー・・・。』

たしかに叫んでいる。

本間と木田と勘太郎は、爆笑した。

『何か、写真の連中の手がか

 りになるかもしれませんね。

 行ってきます。』

勘太郎が歩き出したので。

『俺も行くで。』

と木田が付き添う。

『お2人には、あれが何かわ

 かってられるんですか。』

乙女座の女の子達は震えている。

『あれはねぇ、薩摩示現流っ

 ていう剣術独特の気合いな

 んだよ。

 つまり、あの声の場所で、

 示現流の練習をしていると

 いうことなんだ。』

本間の説明に安心したのか、全員が木田と勘太郎を追いかけた。

すぐ近くの広場で、太い木に向かって、子供から大人までが、木刀で打ち込んでいる。

勘太郎が、その中の大人に声をかけた。

『練習中に申し訳ありません。

 京都からきました。

 警察の者ですが、少しお話

 し聞けませんか。』

男性は、不審な顔をした。

『京都の警察。

 何か悪いことでも。』

明らかに、何かを警戒している。

『この写真の人達について。』

と4人の写真を見せた。

『4人とも知ってますが。

 この人は、先月京都で遺体

 で発見されましたでし

 ょう。』

やはり、東郷元春が死んだことくらいは知っているようだ。

『元春先生は、良い先生です。

 殺されなはったてほんなこ

 つですか。

 ここにいる全員が、元春先

 生の弟子です。

 他の3人さんも、皆さん薩

 摩示現流の先生です。

 皆さん、今は鹿児島市に移

 住されましたが、元々はこ

 の島で幼なじみの仲良し4

 人組です。』

勘太郎がそこまで聞いていると、後ろに本間と佐武と梨田に乙女座の連中が追いついてきた。

本間と木田は、打ち込んでいる子供達を興味深く見ている。

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