第3話 南西諸島

今回の梨田は、なぜか煮え切らない。

『勘太郎君・・・

 また、ビンゴやねんけど。』

今回は、木田と勘太郎も首をひねっている。

『なんだかなぁ・・・。』

木田と勘太郎も梨田と同じように呟いている。

『被害者は、東郷元春さん。

 運転免許証によると43歳。

 鹿児島県三島村の方や。』

そこまで聞いた勘太郎は、やはり1回は鹿児島県三島村に行かないと、事件の解決は無理と悟っていた。

木田は、三島村と若王子の関連性がわかっていないので、広域捜査まで必要なのか判断しかねていた。

『ところで先生・・・

 被害者の溺死場所は若王子

 ですか。』

勘太郎は、そこも疑っていた。

『見事や勘太郎君。

 被害者の肺には、淡水には

 違いないが、若王子の溜め

 池とは違う水質の水が詰ま

 っていたよ。

 調べた結果、余呉湖の水や

 とわかった。』

捜査員には、意外過ぎる答えだった。

余呉湖といえば、琵琶湖の北にある周囲6キロほどの小さな湖。

あまりに穏やか過ぎる湖面のため鏡湖と言われる。

わかさぎが釣れることで有名な湖である。

同じ滋賀県にあっても、琵琶湖とは大違いの湖である。

『警部補・・・

 とりあえず、余呉湖に行き

 ましょうか。

 鴨鍋とか、いかがですか。』

そう、余呉湖の名物は、わかさぎと鴨。

勘太郎は、萌のために購入したトヨタヴォクシーというワゴン車で行くつもりだ。

片道100キロを有に越える。

GTRでは、警部まで乗っては狭いと判断。

さらに、萌を連れて行くつもりだった。

そうなると、本間のクラウンアスリートを出すわけにはいかない。

クラウンアスリートは、あくまでも公用車なのである。

距離の問題よりも、他府県に出ることの方が問題だった。

余呉湖に行く日、トヨタヴォクシーの助手席に萌を乗せて、勘太郎は京都府警察本部に向かった。

本部の前には、本間と木田はもちろん、梨田と佐武まで集まっていた。

もちろん、ヴォクシーには楽に乗れる人数だが。

そんなこんなで、勘太郎のヴォクシーは京都府警察本部を後にして、丸太町を東に走り、東大路で三条通りに出ると、一路滋賀県方面に進路をとった。

三条通りは、東海道である。

蹴上から山科の街を抜け、名神高速道路の京都東インターチェンジに出るとインターチェンジから国道1号線に入り、すぐさま左に分かれ道になる。

国道161号線の大津バイパス、つまり湖西道路の起点である。

ここから一気に湖北の高島市まで湖北道路を走る。

湖西道路は、昔、自動車専用道路だったため、造りがまるで高速道路のような感じで、走り易い。

勘太郎は、途中の道の駅妹子の郷で休憩にした。

『勘太郎・・・

 ここの名物って何や。』

木田の食いしん坊が顔を出す。

『まだ10時ですよ・・・

 近江牛にゅうめんぐらいち

 ゃいますか。

 1日15食限定ですよ。』

そこまで聞いた木田は、食べる気満々。

『ところで、にゅうめんって

 どんなもんや。』

『熱い素麺ですよ・・・

 肉うどんの素麺版。

 肉が近江牛になってるだけ

 です。』

値段を見た木田が、意気消沈。

1450円もする。

『あはは・・・

 近江牛やし、しゃーない

 のぅ。』

本間が楽しそうに笑っている。

さすがの木田も、近江牛にゅうめんは我慢して。

一路湖北地域と呼ばれる余呉湖方面に向かった。

滋賀県では、あくまでも琵琶湖の東西南北で地域を呼びたがる。

余呉湖は、琵琶湖の北の外れ、福井県の県境に近い。

余呉湖の畔の古民家民宿文右ェ門レストラン余呉湖に車を停めた。

勘太郎は、ずんずん中に入って行く。

皆、それに続いたが、意味がわからない。

勘太郎、宿の女将に東郷元春の写真を見せている。

本間と木田があわてて合流した。

『被害者。一昨日、ここに来

 てますね。

 しかも、4人だったそう

 です。

 防犯カメラの画像をプリン

 トお願いしました。

 お昼ご飯にしませんか。

 ここ、鴨鍋で有名な民宿レ

 ストランですし。』

1人前5500円の6人前で、消費税を足すと35000円を越える。

萌が支払いをしようとすると、本間が、萌を止めて、少しだけと言いながら、20000円も出してくれた。

『当たり前や。

 たしかに、萌ちゃんは、祇

 園でも有数の高級クラブの

 女将やけど、旦那は、べー

 ぺーやから。』

勘太郎、べーぺーでも、日本の警察に燦然と輝く名家、真鍋家の若旦那である。

京都府警察本部長の祖父と警察庁刑事企画課刑事局長を父に持つ、エリート中のエリートである。

しかも、祇園が誇るといえば、京都が誇ることになる超高級クラブ乙女座の女将、萌が嫁である。

小遣いですら不足はない。

だからこそ、南西諸島にも行こうかと考えられる。

『そやけどや。

 なんで南西諸島やねん。

 鹿児島県いうても三島村っ

 てとこやろう。』

木田は、まだピンときていない。

『三島村は、硫黄島ですよね。

 昔、鬼界ヶ島って呼ばれて

 いたんです。

 俊寛僧都というお坊様が流

 刑になって流されて、その

 まま、京都のことを思いな

 がら死んでいった島です。

 その俊寛僧都の山荘があ

 って、住んでいはったのが

 、あの若王子の溜め池の上

 の山腹にあるんです。』

そこまで聞いて、木田も勘太郎の考えをある程度理解した。

『流石、勘太郎・・・

 俊寛僧都がつなぐ魔界か。』

勘太郎は、少し違うと思いながら、否定はしない。

当たらずとも遠からずなのだ。

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