第2話 なんだかなぁ

若王子の琵琶湖疎水溜め池に浮かんだ男性。

すでに死亡していた。

身体に、特別な傷は無く、初見では溺死と思われた。

川端警察署の刑事達は、自殺か事故と考えた。

当然の流れではある。

『この池って、盗み釣りする

 ほどの釣果があるんで

 すか。』

勘太郎が質問すると、全員が顔を見合わせた。

たしかに、釣り道具が置かれてはいるものの、魚釣りをするほどの池ではないと思える。

『南京錠で頑丈に閉められて

 いたんでしょう。

 そんなオシャレな服装で、

 ですか。』

考えれば、おかしなことはまだまだあるのだが。

勘太郎は、それ以上は言わない。

捜査に巻き込まれると面倒になると予感がある。

さすがに、添田にはそれがわかった。

木田に連絡すると共に、勘太郎が通りがかったことも話してある。

第三錦林小学校の方面から、シルバーのトヨタクラウンアスリートの覆面パトカーが上がって来た。

『ヤバい、巻き込まれる。

 萌、逃げよう。』

勘太郎は慌てたが、遅かった。

木田と本間に、萌が挟まれてしまっている。

捜査中の川端警察署員達は、この3人の茶番劇を見ているしかなかった。

覆面パトカーから下りてきた2人がどのような人物かもわかっていない。

『へ・へ・へ・・・

 旦那ぁ、逃げるなんて、あ

 つしはそんな・・・。』

まだ下手な芝居を続けている勘太郎に。

『アホか。

 いつまでやっとんねん。

 水死やろう、一刻を争う。

 早う、お前の判断を言え。』

本間が言い放ったことで、ただ者ではないとわかりそうなものだが。

まだ川端警察署員達は、気付いていない。

『警部・・・

 皮膚の色や顔の浮腫み具合

 から、どこか遠くで死亡して

 ここまで運ばれて遺棄された

 と考えます。

 先ほど、御遺体の身元確

 認に、鹿児島県三島村とあ

 りましたが、下手をすると、

 殺人事件として広域捜査に

 なる可能性もあるかと思い

 ます。』

勘太郎が警部と呼んだので、ようやく気付いた警察官達が敬礼をしていると。

『捜査1課凶行犯係係長の木

 田警部補です。

 あちらは、捜査1課長の本

 間警部、すみませんが、ど

 なたか捜査状況を説明して

 下さい。』

京都府警察が誇る敏腕警部と2人の弟子で敏腕刑事の警部補とエースが揃う現場になど出たことがない連中である。

ましてや、捜査1課課長に直接報告することなどあると思っていなかった。

皆、しどろもどろになってしまっている。

『そんなに、しゃっちょこば

 ることありませんよ。

 スーツを着たピーポ君やと

 思って下さい。』

本間がそう言って、場を和ませた。

警察のゆるキャラを自分に似ていると言い張ることも、かなりつらいと思えるのだが。

『ところで勘太郎・・・

 なんで鹿児島県三島村で、

 殺人事件の広域捜査になる

 と思う。

 お前のこっちゃ、何かの根

 拠があるんやろう。

 非番で、新婚の嫁さんとの

 デートの邪魔して悪いけど

 な。

 今やお前は、京都府警察が

 誇るエース刑事や。

 そこは、勘弁してくれ。』

そこまで言われて、黙っていられるほど、勘太郎は呆けていない。

『御遺体を見れば、単なる溺

 死やないことぐらい、俺で

 もわかります。

 パンパンに腫れ上がった顔

 とチアノーゼ。

 あんなオシャレな服装で、

 こんな溜め池に、厳重に封

 鎖された門か壁を乗り越え

 たんですか。

 それに鹿児島県三島村言う

 たら、大隅湾の硫黄島。

 つまり鬼界ヶ島ですしね。

 俊寛僧都の流刑死した島で

 すしね。

 鹿児島県鬼界ヶ島の人間が

 変死体で、俊寛僧都の山荘

 の麓で、何か関連性を感じ

 ただけですわ。』

とんでもない推察力である。

京都逓信病院の梨田医師から、受け入れの許可が出た。

男性の遺体は、すぐさま京都逓信病院の法医学室に運ばれた。

即刻、梨田医師により、司法解剖が始められた。

その間に、川端警察署に捜査本部が設置された。

『なんだかなぁ・・・。』

捜査会議が始まっても、梨田はまだ考えている。

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