京都グルメ探訪殺人事件

近衛源二郎

第1話 今回は山中

京都市左京区の東山、鹿ヶ谷。

京都御所の南側を走る丸太町通りを東に向かい、とことん行くと白川通りとの交差点、天皇町を越え、やがて石垣に突き当たり三叉路になる。

この石垣。紅葉で有名な永観堂の石垣である。

この三叉路を左折すると、200メートルほどで、道路の左側に小学校が見えてくる。

京都市立第三錦林小学校という。

グループサウンズのザ・タイガースで一世を風靡して、後には、ソロ歌手として活躍しているジュリーこと沢田研二氏の母校である。

この小学校の角に、小さな交差点がある。

ごく小さいのだが、きちんと信号機が設置されている。

小学生のためであるが、それだけではない。

この交差点を山側に曲がると若王子という神社があり、その前を琵琶湖疎水が流れている。

有名な観光道路の哲学の小路の南側の起点である。

この辺り、とんでもない人数の観光客が通る。

昼夜かかわらず、ある一定以上の人数が通る。

ところが、若王子神社の前を通り過ぎて、山中にわけいってしまうと、新島穣先生八重先生ご夫妻の墓地の前も通過して俊寛僧都の山荘に近づくとほとんど人とは遭遇しなくなる。

有名な山の南側である。

如意カ岳の三角点から、少し滋賀県側に進んだ三叉路を右手に入るとこの場所に出る。

NHK京都放送局の増幅タワーが建っている。

如意カ岳。実は全国的に有名な別名を持っている。

大文字山の本名が、如意カ岳である。海抜でも400メートルを少し越える程度の低い山だが、

毎年大文字山の送り火として、夏の終わりを告げるイベントが全国的ニュースになる。

あの大の字の形に火がつく山である。

若王子神社の辺りの琵琶湖疎水では、アメリカザリガニが増殖していて、新島穣先生ご夫妻の墓地辺りから上の俊寛僧都の山荘の辺りまでは、くぬぎの木が多少なりとも自生しているため、夏になると、カブトムシが採取できる。

そのため、地元の小学生男子は、夏になると半袖半ズボンで虫取網を担いで、虫カゴを2個ぶら下げて、観光客には見向きもせずに琵琶湖疎水に裸足にビーチサンダルで入ってザリガニを採って、片方の虫カゴに数匹入れると、そのまま山に登って、くぬぎの木をドンと蹴っては、カブトムシやクワガタ虫を捕まえて遊ぶのである。

したがって、近所の駄菓子屋には、夏になると、安物の虫取網と虫カゴが売られていた。

セットで買っても200円するかしない程度の玩具である。

その日、真夏の陽射しがジリジリと照りつけ、蝉の鳴き声がうるさい昼下がり。

若王子神社横に、琵琶湖疎水が堰止められただけのプールのような池。

実際、昔は若王子市民プールとして市民に開放されていたこともある。

この池に、人のような形をした物が浮かんでいるのを子供達が発見して、すぐ近くの消防署に駆け込んだ。

たまたま訪れていた添田救命救急隊長が、小学生達の案内で、若王子プールに駆けつけた。

白いジャケットがヒラヒラと揺らめいている。

確実に人間の男性である。

添田は、小学生達に、消防署に助ける人数を呼びに行ってもらって、扉を開けようとした。

錆び付いた鉄の大きな扉は、頑丈な南京錠で閉められているため、とても素手で開けられるようなものではない。

仕方なく、添田は扉をよじ登って乗り越えた。

消防士数人が応援に駆けつけたが、ほとんど同時にパトカーのサイレンが近づいてきた。

小学生の連絡を受けた消防士が、念のために110番したので、消防士数人が、歩いて坂を上がっている間に到着してしまったようだ。

川端警察署のパトカーが4台で、制服警察官が8名と、貨物車で、鑑識が4名集まった。

鑑識によって、南京錠が開けられて、辺りに規制線の黄色いテープが張り巡らされていく。

警察官と鑑識に向かって、添田が挨拶した。

『京都府消防本部救命救急隊

 隊長の添田と申します。』

本間や木田や勘太郎のせいで、有名になってしまっている。

集まった警察官と消防士が全員で敬礼しているのを、小学生達は、眩しそうに見ていた。

『君達、お巡りさんや消防士

 さんの邪魔になっちゃいけ

 ないから、黄色いテープの

 外から見ようね。』

若い男が、小学生達を規制線の外に出した。

ジーンズにボーダーのTシャツというラフなスタイル。

横には、ペアルックのアイドルみたいな女の子。

『坊や達、あの救命救急隊長

 さんはねぇ。

 京都で一番凄い隊長さんな

 んだよ。』

若い男が小学生達に説明していた。

現場の警察官と消防士は、さすがに何者だろうとざわめき出した。

『ご協力、ありがとうござい

 ます。

 京都府消防の・・・

 なんだよ、勘太郎君と萌ち

 ゃん。

 非番かい。』

萌が、添田に深々とお辞儀をする横で、勘太郎は敬礼。

『皆さん、お疲れ様です。

 京都府警察本部捜査1課凶

 行犯係第1班班長真鍋勘太

 郎であります。』

現場の警察官と消防士は飛び上がって驚いた。

応援に来たわけではない。

しかし、消防と警察の両方のエースが、揃うなんという現場は、そうそうあるものではない。

しかも、噂の祇園の超高級クラブ乙女座の美少女女将高島萌までいる。

『萌・・・

 これ、皆さんに差し入れし

 て良いよね。

 また買えば良いから。』

発泡スチロールの箱の中身を見た添田が。

『いや・・・

 これは、小学生達に上げ

 よう。

 君達、お巡りさんからご褒

 美だ。

 銀閣寺大文字焼き屋さんの

 アイスキャンデー。』

小学生達は、暑い中で頑張ったので、アイスキャンデーに飛びついた。

『ここの、大判焼き美味かっ

 たのになぁ。』

銀閣寺大文字焼き屋は、夏のアイスキャンデーと冷やし飴。

冬は大判焼きで、子供達の人気のお店だが、先年から、大判焼きの製造を止めてしまった。

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