あむごろー、お兄ちゃんになる

風乃あむり

あむごろー、お兄ちゃんになる


 KAC20203のテーマが「Uターン」ということで、我が家の長男あむごろーの赤ちゃん返りのお話。


 ★


 令和元年十一月二十日。

 四時間ばかりの陣痛を経て、元気な女の子の産声を聞くことができた。


 なんとまぁしっかりした3600gの赤様。ちっちゃいけど大きいなぁ。君が十ヶ月私のお腹の中にいたのだね。よしよし、よく無事に生まれてきてくれた。ここが君のお母さんの腕の中だよ。


 旦那氏も今回はなにごともなく出産に立ち会うことができた。よかった。あんなアホなことが二度起きなくて本当によかった。(エッセイ『育児の話を、好きなだけ』の「出産の話の続きをするぞーー!」参照)


 翌日、長男あむごろーがやってきた。

 驚いた。あむごろー、いつのまにこんなに大きくなったんだい?


 生まれたばかりの妹ちゃんの手を握るあむごろー。彼の手はまるで大人の手みたいに見えるほど大きく、すでに生きてきた五年の歳月をしっかりと刻み込んでいる。


 この間まで赤ちゃんだったあむごろーも、もうお兄ちゃんなんだねぇ。


 ★


 とはいっても赤ちゃん返りである。

 絵に描いたような赤ちゃん返り。

 赤ちゃん返りの標本として展示したいほどの赤ちゃん返り。


 入浴一つとっても、

「ママ抱っこしてー」

 お風呂までのわずかな距離を抱っこ。

「ママ脱がせてよー」

 洋服も自分で脱ぎたくない。

「僕、自分で洗えない」

「ねぇママ、背中拭いて」

「ママ、パンツ履かせて」

 などなど。


 おかしい、我が家に赤ちゃんが二人いる。


「あむごろー赤ちゃん」


 ちょっといじってやろうと思ってこんな風によんでみても、むしろ喜ぶ。はにかむな。可愛い顔をしてもダメだ。赤ちゃん扱いされて喜んではいけない、君は五歳のお兄様であらせられるのだから。


 寝る時もママと手を繋ぎたいし、ママが授乳でいなくなると泣き叫ぶし、朝だってママが来ないと起きないし。トイレに行く時もママと一緒、ママ大好き、ママ、ママ。


 ……うん、なんかここまで書いてみて、赤ちゃん返りの話というより、私が息子に溺愛されてる話みたいになってきたな。


 うん、実際溺愛されてるしな。『息子が赤ちゃん返りをしたので、私、溺愛されてます!』みたいな桃色キラキラ表紙の乙女レーベル小説書けそう。


 いやむしろ『その溺愛、お断りですっ! 〜ひと時たりとも離れてくれない彼と私の甘い日常〜』みたいなタイトルで売り出して、読んでみたら実は育児の話だったみたいな詐欺小説はどうだろうか? (ダメです)


 ちなみにパパはよく「嫌い」「怖い」「来ないで」などと拒絶されてます。怖いことなんて一つもしてないのに気の毒。かわいそうだから、溺愛小説に当て馬役として登場させてやろうかな。(もっと気の毒)


 こんな感じでママという大人女子を溺愛するあむごろーだが……なんとも悔しいことに、私よりも溺愛している相手がいたのだ……!


 その女の子をこんなふうに口説いている場面に遭遇してしまった。


「ほら、笑って。笑ってよ。笑ってくれないと、可愛いって言ってあげないよ?」


 おまえそれ、マジで乙女小説に出てくるイケメンみたいやぞ。


 そしてそんな彼のあまーい言葉を一身に浴びているのはもちろん、彼の生まれたばかりの妹ちゃん。


 うん、ママといえどもこのニューフェイスには敵わないわ!!

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あむごろー、お兄ちゃんになる 風乃あむり @rimuro

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