121話【縮こまった背中2】
◇
メルティナはテーブルに乗った小さな【
「――当然です……彼女は、とても大切な人です」
エミリア・ロヴァルトは、メルティナの最も信頼していた人間、ティーナ・アヴルスベイブの生まれ変わりだ。
その女性は、今のメルティナの身体を構成する
格別何かが似ている訳ではない。
だが、メルティナはどうしても意識してしまう。
エミリアの事を、大切な友人として。
そんなメルティナの言葉に、エドガーは。
「……うん。そうだよね。大切だ……分かるよ――でもさ、止めにはいかなかったよね……」
報告が遅れた事は
体調不良もあった。だが、軽く相談することは出来たはずだ。
今、メルティナの最優先は自分の事だ。これは当たり前のことで、自分自身が
「
異世界人たちの
“契約者”であるエドガーと、
ローザがいつか言っていた事もある、その距離に応じて、異世界人たちは力を弱めていく。
ただでさえ、【
「だから、メルティナが動かなかった事、凄くありがたかったんだ……」
「ありがたい……?ワタシが、何もしない事が……ですか?エミリアが危ない目に遭うかもしれないと言うのに……ですか!?」
少し違うニュアンスに、エドガーは首を振る。
「そうじゃない。そうじゃないよ……今、僕がしようとしている事、それはエミリアの為だ……」
今朝から始めた、槍を“召喚”する為の準備。
正直、
だが、それだけだ。素材ではあるが、中心に出来るものがない
「エミリア
「それと、ワタシの事が……どう関係あるのですか?」
「……」
メルティナは理解できなかった。
本来ならば、脳内に
それだけ、メルティナは参っているという事なのだろうと、エドガーは無言に乗せる。
「メルティナ。“召喚”が無事に成功したとして……エミリアが向かった場所は南だ……」
「イエス……【ルウタール王国】との国境付近、でしたね」
「そう。
筈、と言うのは。
エドガーは知らないからだ。【ルウタール王国】が正確に存在する場所も、どれほどの距離を移動しなければいけないかなど、エドガーは何も知らない。
ただ教えられた知識と、自分で可能な限り調べた
「それじゃあ、槍を届けるにはどうしたらいいかって話だよ。ハッキリ言って、戦争なんか起こらないでそのままエミリアが帰って来てくれることが……一番だ。でも……」
「――でも?」
言葉を途切れさせたエドガー。メルティナは少し振り返り、
エドガーは頭を押えて、苦しそうに歯を食いしばっていた。
「――マスター!?」
「……大丈夫、平気だから……」
(クソ……こんな時に、
振り向いたメルティナを元に戻らせて、エドガーは一度大きく息を吸う。
再び
何度見せられても、その
だからこそ、“召喚”を急がなければいけない。
「……どこまでだったかな。ああそう……戦争なんて起こらないで、何事もなくエミリアが帰って来てくれるのが一番だって……誰だってそう思うだろうけど、実際は分からないよね」
「そう、ですね……」
戦争を経験した自分だが。メルティナの場合、場所は宇宙空間であり、更には敵対象は【
人類間の戦争など、機械の時には経験もないし、元の世界では起こってすらもいない。
「……だからこそ、僕は“召喚”しようと思っているんだ……槍を。エミリアの槍を……」
誰もが願うであろう平和と言うものを、守るために戦う。
人の為、国の為、家族の為、恋人の為。
「相手は【ルウタール王国】、軍事力は大した事が無いって聞くけど……それはあくまで
エミリアは人の為、エドガーや家族の為に戦う事を決めた。
しかし、【ルウタール王国】の王は違う。
しかしその
だからこそ、
「……
エドガーは少し悲しそうに言う。
顔は見えないが、それがエドガー自身の事を言っているのが
「【召喚師】の……
そう。エドガーは、なかなかにあくどい
しかしメルティナを含め、異世界人たちは知っている。
エドガー・レオマリスと言う少年が、そんな
「うん。だから分かるんだ……
「……イエス」
「
続きを、メルティナが口にする。
エドガーの思いを聞き、それを知ったメルティナが。
「――【ルウタール王国】の
「うん。
「ですが、その
その通り。戦争を起こそうとする、マヌケな王。
それを、長年をかけて演じていたとしたら。
「僕の
だが、どうにも不安がぬぐえない。
突然見せられたあの
(考え過ぎ……だとは、どうしても思えないんだ……)
「マスター……ワタシは、マスターを信じています。ローザもサクラもサクヤも、フィルヴィーネもです。勿論エミリアも、ワタシは信じています」
「うん」
メルティナだって、何も考えていない訳はない。
今の自分の状況。エドガーの役に立てないと言う恐怖と、他の
だが、メルティナは決めた。
エドガーの話と、エミリアを信じると言う自分の気持ちを信じ、決意する。
「――マスター。ワタシの、ワタシの《石》を……外して頂けますか?」
「――うん――僕も、そう思っていたんだ……」
エドガーの思い。メルティナの決意。
それは、ローザが一度乗り越えた壁だった。
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