120話【縮こまった背中1】
◇
部屋で一人、服を脱ぐ。
ぐっしょりと汗で
時間が少し
髪を
すると、キィ――と開く扉。
エドガーが来たようだ。
「ごめんね、遅くなっちゃったかな?」
「……ノー。そんなことはありません」
(また
エドガーが持ってきたのは、お湯を張った
先程持って来た物だったが、戻る
「今朝から何も食べてないって聞いたからさ。温めて来たよ……残り物で悪いんだけどね」
サクラから聞いた、メルティナの状態。
今日一日、サクラは付きっきりでメルティナを見ていてくれた。
だから、食事を取っていない事も知っているし、もし違うと言おうとしても、【
しかし、能力を使うまでも無く。
くぅぅぅ――と、虫が鳴った。
当然、メルティナの腹の虫だ。
「……」
顔を赤くして、メルティナは
それがなんだか嬉しそうに、エドガーは「ははは」と笑って。
「それじゃ、身体を
「イ、イエス……」
エドガーはタオルを
「「……」」
タオルを
渡されたタオルで静かに身体を
エドガーはメルティナに背を向けて、その時を待った。
数回タオルを
「マスター」
ビクッと、エドガーは背中で反応した。
「――あ、終わったかい?」
背中を向けたまま、タオルを受け取ろうと手を差し出す。
しかしメルティナは。
「ノ、ノー……その、マスターに、お願いしたいことが」
「お願い?……いいよ、何でも言って?」
エドガーは、次の瞬間
「……では――背中を、
「……え?」
その願いに、エドガーは背中を向けたまま固まった。
背筋はピンと伸び、ブリキのようにカチカチになって。
「――ど、どうかな?」
「ん……イエス。気持ちいいです、マスター」
「そ、そっか……それはよかった……」
ベッドに腰掛けて、後ろを向くメルティナの背を、
絶妙な力加減で、痛くもなく弱くもない。簡単に言えば上手い手つきだった。
と、いうのは言いようで、本当はエドガーがひよって力を入れられていないだけだったりする。
「「……」」
ふきふきと、メルティナの白い
そして、その背中に存在する――《石》を、
「……」
その《石》、【
更には、《石》を固定している器具だが。エドガーの住むこの世界では再現できない仕組みであり。
エドガーには、見てもさっぱり理解できていない。
ただ分かるのは、その《石》が、
「マスター?」
「――あ、いや……その、さ」
「……イエス」
エドガーは、もうメルティナが
「
「……」
その理由を、エドガーは
自分自身が
しかし、
言わなくても分かる事がある。しかし、言ってもらわなければ分らぬ事がある。
《紋章》によって
「きっかけは、先日……あのドロシーと言う方を見かけたときでした」
その言葉にエドガーは、(やはり)。と心内で納得する。
「一瞬でしたが、機器にノイズが
「……」
「その後、宿にて彼女を再確認した時……《石》に違和感を覚えたのです」
「違和感?」
「イエス。ワタシは彼女を知っている……そんな感覚です。ですが、記憶にも記録にも存在しない……ワタシのデータに、そのような事態はあり
メルティナは、自分の世界の最新機器に絶対の自信を持っている。
しかし、それが今
「――ですが……ワタシはそんな自分自身が、信じられないのです……」
「メルティナ……」
気持ちはエドガーにも理解出来る。
エドガーも自分の“召喚”を信じられない時があった。
一日分の体力と魔力を消費して、部品一つを呼び出すエドガーの“召喚”。
それは、
【異世界召喚】と言う
だが、今は違う。
エドガーは、ローザに出逢い。
サクヤ、サクラに出逢い。
メルティナに出逢いフィルヴィーネに出逢った。
たったそれだけだが、今エドガーは【召喚師】でよかったと思っている。
代々受け
だから、だからエドガーには言える。メルティナに言ってあげられる。
「……」
自分が信じられないと
肩に手を置き、安心させるように、ゆっくりと。
「メルティナ。今朝、話した事を覚えているかい?」
「……イ、イエス。エミリアの事……でしょうか」
「うん」
今朝。エドガーがサクラにメルティナの事を任せる前、エドガーはエミリアが戦争に行ったことを話した。
仲のいいメルティナには、体調が悪いとは言え絶対に言わなければならないと感じたからだが。
メルティナは、その事を聞いても動じなかった。
本来なら、文字通り飛んで行ってでも駆け付けたいと言いそうなところ、メルティナは「イエス。了解しました」と軽く返事をしただけで
「エミリアの事、心配?」
「と、当然です!」
振り返ろうとして力を
上半身は身体を
メルティナは振り向くことを
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