101話【魔王と天使】
◇魔王と天使◇
ほんの少し前。【福音のマリス】では。
「――
声を
声を掛けた相手――栗色の髪の女性ドロシーは。
それもそのはず、ここは従業員ドロシーが借りている一階の部屋。
「……」
ゆっくりと
「――案ずるな誰も
「そういう
一人部屋にいたドロシー、いや、“天使”スノードロップはおもむろに移動し、小さな小物入れから紫色の小石を取り出して、手の平でそれを
それを見たフィルヴィーネは。
「
「それはそうでしょう……わたくしの、
今スノードロップが
それを、現在使える
声を掛けてきたフィルヴィーネは、本当にいきなり声を掛けて来た。
背後から音もなく、突然だ。結界など関係なく、まるで無意味だったかのように。
「結界などと言った
「……」
ケロッと悪びれない“魔王”に、“天使”は
「それで、何用でしょうか……?ニイフ様」
「ニイフはやめろ。お前に言われるとむず
「……ではフィルヴィーネ様」
「フィルヴィーネでよい。
その言葉にスノードロップは思った。
“神”の
しかし、にこりと笑い。
「それでは、そうさせていただきます。“魔王”フィルヴィーネ」
「クックック、それでよい」
深々と頭を下げるスノードロップの顔色など分からないまま、フィルヴィーネは満足そうに笑った。
◇
「それでフィルヴィーネ。
スノードロップは、用意した
フィルヴィーネは長い
「先程、ロザリームが帰って来た」
「……【
スノードロップも知らない訳はない。
元の世界で、【勇者】になり
それに、転生したエドガーが
自分の代わりになるかも知れない、
「ああ。あの娘は“感じ”がいい、お前も
「……そこまで、ですか?」
「クックック。そこまで、だ」
「やけに嬉しそうですね」
フィルヴィーネは腕組みをして、大きな胸を休めているかのように腕に乗せて笑う。
その笑みがやけに、ローザの事を話すことが楽しそうだと、スノードロップには見えた。
「それで、その【
「うむ。今は他の仲間どもと話している……どうやら何かあったらしいが」
今は深夜だ。
しかし、それならばフィルヴィーネは行かなくてもいいのだろうかともスノードロップは思ったが。それよりも。
「――エドガー様は?」
「……」
ふとした
「……」
「……」
少しの間が開き、フィルヴィーネは言う。
「最近、エドガーは調子が悪そうだな」
「――!」
(やはり、
「特に胸・頭・腹の痛みに
フィルヴィーネはエドガーの行動を
「……わたくしに、何か?」
「……」
もう、分かっているのだろう?と言われているような
これを言いに来たと、言っているようなものだ。
「エドガー様は、眠っているのですか?」
「いや、幼馴染の娘と外に出た……ロザリームが連れて来たようでな、きっと……何かあったのだろう」
少しだけ
「具合が悪いと分かっていて、外に出たのですか?エドガー様は」
「そういう奴だ」
(あの【魔女】が《転生魔法》に成功していたのは分かりました……しかし、どうでしょう……以前のエドガー様は……
スノードロップの知るエドガー・レオマリスは、他人にも自分にも
(……転生はしているのでしょうが、
パッ――と思い浮かんだその人物の姿に、スノードロップはゾッとして青ざめる。
思い当たる
(いえ……まさか。そんな
「――い……おいっ!この“天使”っ!」
バシン――!!
星が見えた。
「――いっ!!たぁ……何をするのですか、ニイフじゃなくてフィルヴィーネ……」
どうやら、ボーっとしている所を“魔王”様に
フィルヴィーネは右手をチョップの形で振りかぶっていた。
気付かなければもう一発貰う所だったようだ。
「お前が
「そ、それは
そして同時に、浮かんでいた別の少年の姿も消えて行った。
「……ガブリエル。今……エドガーが倒れた」
「――な!?……エドガー様がっ!?」
スノードロップは、自在に使えない力を
「やめておけ、ロザリームに
「――ですが!」
「場所は近い……転移で行くぞ」
「わたくしも……よいのですか?」
フィルヴィーネはスノードロップに近付き、肩を
「ああ。
ニヤリと
「……出来
「うむ。それを聞きたかったのだっ。では行くぞ!」
そう言い、紫色の魔力が
だがやはり、張り直した結界は再び破壊されていったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
次話は100話Bとなります。
100話Aに台詞を追加したものになりますが、地文は省略されています。
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