89話【思い出の中に潜む1】
◇思い出の中に
ある日。エドガーは、【召喚の間】にいた。
道具を
「これでも、まだ足りない気がするんだよな……」
エドガーが持つ小さな小箱には、赤い宝石が
それぞれの魔力はごく少量であり、“魔道具”として使うには物足りないだろう。
この《石》は、エドガーが最近(ここ30日)で集めたものであり、元から所持している分を
しかし、この宝石箱の
しばらく落ち着いていた【召喚師】の
エドガーは
だが、今は自分の事は考えない。
「ローザの【消えない種火】には程遠いけど……これだけあれば、少しは役に立てる気が……するんだけどなぁ……」
自信はない。
ここ最近外に出て、回収している赤系統の《石》。
それは全て、ローザの為だ。自分が言いだした、ローザの
ローザが
“不遇”職業である自分が城に行けないという理由もあるが、エドガーは怖かった。
ローザのもとに
ローザがプライドの高い女性だという事は、
エドガーは
「なんで来たの?」「自分がしなくちゃいけない事分かっているでしょ?」「
夢にまで出てくるほどに、そう言われるかもしれないと、勝手だが思っていた。
だが、ローザが
(ローザの戦いを初めて見たあの日……)
あの日のローザの姿は忘れられない。
“悪魔”グレムリンに炎を
その感情が、何なのかは分からない。
それが
気付いてはいけないと、思っていた。
エドガーの周りには多くの女性がいる。
皆
この世界だろうが異世界だろうが、正直エドガーには関係無い。
今は共に暮らし、共に戦う仲間であり、大切な家族だ。
そう、ローザを
「……《石》を探しに行こうかな……」
考える事を
ゴゴゴゴ……と、
「あれ……ドロシーさん?」
「あ……エドガー様。こちらでしたか」
そこにはドロシーがいた。
様子を
「どうかしましたか?」
(ああそうか、入れないから)
「え、えっと……用と言う用は無いのですが……」
正直に言えば、用事などない。
ただ彼の
「……僕はこれから少し出るんですけど、何かあれば聞きますよ?」
「――あ、そうなんですね……申し訳ございません、足をお止めして」
深く頭を下げるその姿に、エドガーは。
(うっ……なんだ。熱い……)
胸の中心を押さえて、一瞬だが顔を
「エドガー様?」
「い、いえ……それじゃ。
「あ、はい。かしこまりました」
スタスタと逃げ出すように、エドガーは階段を上がって行った。
エドガーがいなくなり、ドロシーは。
「……やはり、【魔女】の《魔法》は成功していましたか……」
誰もいなくなった地下室で、一人
「お
ドロシーは胸元を優しく押さえる。
そこには何もない。ないがあるのだ。《石》が。
その胸元は、【
今は《隠蔽魔法》で隠しているスノードロップの《石》。
《契約者》である彼に、思いが届くように。
ドロシーはスノードロップとして願う。
「願わくば、運命を乗り
両手を合わせたその姿は、まさしく“天使”なのだろう。
きっと、《魔法》がなければ
◇
地下から上がって来て、エドガーは真っ先に外に出た。
息を
どこに向かうのかも分からない。だが、エドガーは移動を始めた。
考えなんて何もない。
エドガーは【
「は、はぁ……はぁ。あれ、なんで、ここに……?」
【
エドガーは思う。
「そうか……ローザの戦いを、見た場所……だから」
アルベールを助けるために向かった場所。
【月光の森】は、それこそ先程【召喚の間】で思い返していた場所だ。
エドガーはそう思ってしまった。だから、ゆっくりとその足を運ぶ。
◇
見る人が見れば、
肩を落とし、青ざめた顔は
しかしそのどちらでもないエドガーは、時間をかけて【月光の森】を歩く。
ローザとエミリアと、三人で急いで向かった時とは違う、まともな道を通って。
(あの時は、
【月光の森】は、普段から
しかし月明かりだけはよく通し、夜は
その森を歩くエドガーの足取りは、段々と軽くなってきていた。
向かう所が分かっているかのように、その足取りを進めていく。
(胸の痛みが……
胸を
「……ここは確か、【
【
子供たちの遊び場であり、この森の
「
“不遇”職業ではなかった子供の頃を思い出して、エドガーはクスリと笑う。
あの頃から、エドガーはエミリアに振り回されっぱなしだ。
騎士学校に通うようになってからは、そうそう来れる場所ではなくなったが、数年遊んだ記憶はまだ残っていた。
「――いっ……つ……!?」
思い出の中で、急激に襲い掛かる痛み。
今度は頭部だった。エドガーは両手で頭を押さえて、
「い……ったい……」
ザザザ――
「なん……だ……?」
ザザ――ザザザ――
脳内で再生される、ある
目を
生まれたばかりの赤子を
声は聞こえない。だが分かる。
それは
母親だろう栗色の髪の女性は、幸せそうに赤子にキスをする。
それを見て、白銀の髪の女性も
深緑の髪の女性も近づこうとしたが、灰色の髪の女性に
それを、栗色の髪の女性はケラケラと笑っていた。
「……かあ……さ、ん……」
赤子を
それだけは確かに理解できた。ならば、赤子はエドガーだろう。
そのまま前に倒れ――ポフリと、何かに
「かあさ……」
しかしそのぬくもりは違うものも混じっているような、
「……」
ぼそりと
そして胸のぬくもりに
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