不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

エピローグ１【桜は再度咲く】

◇桜（サクラ）は再度咲（さ）く◇

「……――ぶはぁぁぁっ！！」

「おわっ！？」

「ぬわぁっ！」

　起きたのはリザだ。

　サクラの《石》の世界から戻って来たリザは、意識のないまま眠っていたのだ。

　エドガーの手の上（・・・）で。

「……エ、エドガー、私は……戻って来たのね」

　リザは少し伏（ふ）し目がちに言う。

　それがどういう意味か、エドガーとサクヤは何となくは察（さっ）する。

　だが、リザは。

「――大丈夫。大丈夫よ……あの子は帰ってくる。絶対に」

「……うん。大丈夫だよね、きっと」

「はい、主様（あるじさま）……！」

　エドガーとサクヤも、リザの言葉を信じる事は出来た。

　二人が見るのは、サクラの額（ひたい）。

　【朝日の雫】だ。光を取り戻し輝（かがや）く白いサファイア。

　それは、意思を証明（しょうめい）する証（あかし）と言えよう。

　命の、生きている証拠（しょうこ）だ。

「……と、所で、エドガー」

「ん？何……？」

　リザは、自分の視線（しせん）が不自然だと気付く。

　エドガーの大きな顔（・・・・）が、真上にあるからだ。

　それだけで何となくは察（さっ）するが。認めたくはなかった。

「――も、元に戻った私は……？」

「……は？」

　エドガーは本当に意味が分からなかったのか、素（す）っ頓狂（とんきょう）な声を出し。

　そしてリザ本人も、そのエドガーの返答で完全に理解した。

　また、小さな“悪魔”に逆戻りしてしまったのだと。

「――うわぁぁぁぁぁぁん！！」

　顔を覆（おお）い嘆（なげ）く。絶望的だった。

「な、なに！？どうしたのっ！？」

　滝（たき）のように涙を流すリザに、理由を知らないエドガーは戸惑（とまど）うだけだ。

　しかし、その涙がサクラ絡（がら）みでない事だけは分かった。

「ま、まぁ……あ！そうだ……ド、ドンマイ！」

　調べて、覚えたばかりのサクラの世界の言葉を発（はっ）するエドガー。

　しかしそれが、無性（むしょう）に腹立たしかった。

「――キィィ！なんかムカつくわね！」

　ガジガジと、エドガーの指を齧（かじ）るリザ。

「イタッ……くわないけど、くすぐったいって！」

　戻らなかった自分の身体を惜（お）しむ気持ちはあるが、今はコレでもいいかと、一先（ひとま）ずリザは諦（あきら）めたのだった。

「あ、主様（あるじさま）……！サクラが……」

「――えっ！？」

　サクヤはサクラの手を握（にぎ）って、目覚めるのを見守っていたのだが、唐突（とうとつ）にエドガーを呼ぶ。

　エドガーも駆（かあ）け寄り、《石》を見て見たり、脈（みゃく）などを確かめる。

「大丈夫だよ、さっきよりも正常になってる……」

「で、ですが……なぜこんなにも苦しそうにしているのでしょう……？」

　サクラは苦しそうに藻掻（もが）いていた。

　その手をサクヤが握（にぎ）り、エドガーも声を掛ける。

「サクラ。帰ってくるんだ！帰ってこい！！」

「サクラぁ！この馬鹿者（ばかもの）が！お主（ぬし）が戻ってきたら、コノハに会わせてやる！そうすれば、コノハとお主（ぬし）が違うのだと……お前はお前なのだと納得（なっとく）できるであろう！だから、戻って来い！馬鹿（ばか）サクラぁぁぁ！！」

　ピクリと眉（まゆ）を顰（ひそ）める。

　グッと握（にぎ）り返す――そして。

「――誰の事言ってんのよ、馬鹿（ばか）サクヤ……」

「……！サクラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」

「ふぐぅっ！」

　ガバリと抱（だ）きつき、サクヤはサクラの肺（はい）にある空気を強制奪取（きょうせいだっしゅ）した。

「……はぁ……良かったわ、戻って来てくれて」

　リザが、サクラの耳元に歩んで来て言う。

「……ありがと、リザ。来てくれたのがリザでよかったよ……」

　微笑（ほほえ）むサクラ。

　ゆっくりと起き上がり、エドガーとも目が合う。

「――エド君も、ごめん。そしてありがとう」

「いいさ、僕は信じてたよ。サクラが……戻ってくるって。でも……でも、嬉しいよ、本当に良かった！」

「……うん」

　《石》の世界で邂逅（かいこう）したエドガーの母、マリスの事をどう話せばいいのか、サクラは迷う。

　『エドの事は、今のエドとして見てあげてね？』。その言葉が、心の奥底に残って離れない上に、何故（なぜ）だか簡単に話してはいけない気がした。

「――エド君は、エド君だよね？」

「？……当り前じゃないか。あ！もしかして、寝ぼけてるのかい？」

「ぐすっ……この寝坊助（ねぼすけ）っ！」

「あはは……かもしれないね。って誰が寝坊助（ねぼすけ）よ！」

　泣きつくサクヤにツッコミを入れつつ、サクラは周りを見渡す。

　居ない。ここには、半数が居ない。

　そのきっかけを作ってしまったのは、自分だ。

「……ローザさん、メル……フィルヴィーネさん」

　サクラはササッと額（ひたい）を確認し、《石》が正常かと確かめる。

　そして、心を静（しず）めて思いを込めた。

　瞳（ひとみ）を閉じて、能力を使う。

＜……ローザさん、メル、フィルヴィーネさん……聞こえますか？――その……えっと、何て言ったらいいのかわからないけど……率直に。迷惑かけてごめんなさい。色々してくれてありがとう……た、ただいま＞

　【心通話】。

　異世界人と《契約者》だけが通じ合う事が出来る、心の会話だ。

　例（たと）えこの場に居なくても、繋（つな）がれる。繋（つな）ぐ事が出来る、サクラの力だ。

「……か、返ってこな――」

＜――遅いわよ。お寝坊さん……＞

＜――遅いです！サクラ＞

＜……遅いぞ、まったく＞

「わぁっ！！」

　驚（おどろ）くサクラを、エドガーとサクヤは笑う。

　どうやら聞こえていたようだ。

　リザも、何となく雰囲気（ふんいき）で察（さっ）している。

　そして、ローザが更に続けて。

＜……おかえり、サクラ。エミリアもそう言っているわよ……後でもう一度、直接言うってさ＞

＜うん……ありがと、ローザさん……エミリアちゃんも＞

　思ってくれる人がいる。

　泣いてくれる人がいる。

　怒ってくれる人がいる。

　喜んでくれる人がいる。

　それだけで、心が満たされる。

　本当の意味で、サクラの異世界生活は始まる。

　それは誰でもない、サクラの物語（ストーリー）だ。