36話【流れる程に、溢れる程に】
◇流れる程に、
エミリアだけが【召喚の間】に入れない。
まるで窓ガラスに顔を近付けて、
「かわいそうなので」と、メルティナが入り口近くまで寄って行ってくれたので、少しは
他の全員は中央まで進んできており、最後にエドガーが中央に
「……」
緊張しているのが丸分かりになるほど、エドガーの顔が
「エドお兄ちゃん?」
「
“召喚”の
「だ、大丈夫……大丈夫だよ」
胸を何度も
後ろではフィルヴィーネが、やれやれと言った感じで見ている。
フィルヴィーネは
バン――ッ!!と、後ろから来たフィルヴィーネに背中を叩かれ、エドガーは痛そうにするも、気合も入れてもらったようだ。
「――痛っ!!……す、すみません……助かりました……」
涙目でお礼を言うエドガーに、「しっかりせよ」と
サクヤはコノハの背中に手を
(
自分の
「……」
自分の背に
今は自分よりも背の低い、可愛らしい姉から
◇
【召喚の間】の中央、“召喚”の
その場所に正座して、コノハはエドガーに言葉を掛ける。
「――エドお兄ちゃん……いいよ?」
まるで準備は出来ていると、
その
「……コ、コノハ?」
隣に座るサクヤが、
「大丈夫です。姉上……」
その笑顔は、全てを
◇
(サクラの身体だからか……それとも
一人移動し、入り口付近のエミリアとメルティナに合流するフィルヴィーネ。
今は三人に話をさせようと、“魔王”なりの気の利かせだった。
「フィルヴィーネ様……」
「
「……はい」
サクラ、そしてコノハが気になるのか、リザはフィルヴィーネの肩に乗りながらソワソワしている。
しかしフィルヴィーネに
「ねぇフィルヴィーネ。エド、何を言うの?」
話を直接するとだけは聞いていたが、内容は知らないエミリアとメルティナ。
メルティナは
「聞いていれば分かる。なんにせよ、お
「……う、うん……分かったよ……」
“魔王”の発する
エドガーの答えに
(さぁエドガー……ひよるなよ?)
再び壁に背を預けて、フィルヴィーネは三人を見守った。
◇
エドガーは、
冷や汗も流れ出て、今までにない
しかし、エドガーの正面に座するコノハは優しい笑顔を
そんなコノハの笑顔に、エドガーは「ふぅぅぅ……」と息を
そして、切り出した。
「――コノハちゃん……い、今から話すこと、多分コノハちゃんには……
「……はい」
「……」
「……っ!!」
そっと、
コノハがサクヤの手を、優しく
それだけで、サクヤの力は抜けた。
(コノハ……お前は……)
「――エドお兄ちゃん、続けて?」
エドガーはサクヤを見る。
コクリと、サクヤが|頷(うなず)いたことを確認して、エドガーは言葉を
「今、コノハちゃんの身体は……別の人の物だって言う事は、分かるかな?」
「はい」
「うん、それでね?その子は今、おでこの《石》の中で眠っているんだけど……そろそろ起こさないといけなくて……」
「はい」
言葉を
だが、コノハはもっと
「今、その子を起こしてあげないと、もうずっと……眠ってしまうらしいんだ」
消えてしまうとは言えず、
コノハは優しい笑顔を変えず、しっかりとサクヤの手を
「だから。その身体を――返してあげて欲しいんだ……」
「……はい」
「……くっ……!」
サクヤの
覚悟は決めていた。
自分が一度は
しかしそれはまやかしだったと、この数十日、自分に言い聞かせていた。
「姉上……」
「すまぬ……すまぬコノハ……わたしは、姉は……
再会できた喜びは、覚悟を上回ってしまった。
サクラの命とコノハの命を
左眼の
「
エドガーも、ぐっと
涙を流す必要は無いと言えたなら、どれだけいいか。
そして、エドガーは言う。
「――サクヤ……コノハちゃん……僕は、サクラを元に戻さなければならないんだ……でもね、別れを言う必要なんてないよ。二人は――きっとまた会えるから……」
「……え?」
「……どういう、意味ですか……?
予想と違った答えに、二人はキョトンとしてエドガーを見る。
「――大丈夫だよ。僕は、誰かが
それは、
この場にいる全員に
この場にはいないけれど、絶対にローザにも
「コノハちゃん……サクラを元に戻すには、コノハちゃんに眠ってもらわなければならないんだ。それは、どれだけかかるか分からない。でも約束するよ。必ず、コノハちゃんを“
「――
エドガーに
そんなサクヤの背を、エドガーは優しく
◇
エドガーの
まさか、エドガーの口から「自分から“召喚”をする」とは、思ってもいなかった。
「……エド」
エミリアも、何か別人を見るような目でエドガーを見ていたが、その目には涙が
「――それでいい。
「お、王っ!?」
フィルヴィーネはエミリアの
メルティナもついて行こうとしたが、エミリアをほっとけずに
「話は終わったな。次は
「フィルヴィーネ殿……?」
エドガーから離れて、サクヤはコノハの隣に戻る。
フィルヴィーネは
「――よいかコノハ。エドガーを信じよ……この男は近い未来、必ずや
「……わ、私は、
「「!!」」
エドガーとサクヤが、凍り付いたように動きを止める。
「コノハちゃん……気付いて、いたんだね……」
「コノハ……」
コノハも涙目で、エドガーの問いに答える。
「はい……この身体の、サクラの記憶が、それを教えてくれたの」
コノハは気付いていたのだ。
自分がまやかしの存在だと、本来いない筈の存在だと。
それを受け入れようとして、コノハもまた、覚悟をしていたのだった。
「
フィルヴィーネがコノハの頭を
その瞬間、
「うぅ……私は、一度死んでいます……姉上の目の前で……」
「――っ!?」
二人の
「――心臓が止まるまで……私は姉上を見ていました。姉上のお
当時、サクヤの【
何が何だか分からなかったサクヤと違い、コノハは見ていた。
幼いながらに、それで
自分が死ぬのだという事を。
「――次に目を覚ました時、私は大きくなった姉上に見られていました。嬉しかった……嬉しかったのです、私が、姉上を
「……コノハ」
目が覚めた時、サクラと入れ替わったという事になるのだろう。
「でも、でも……今の私は……」
自分でも理解している。
今のコノハが、サクラの能力【ハート・オブ・ジョブ】による、なりきりの
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