不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

07話【誤解は水に流れず２】

◇誤解（ごかい）は水に流れず２◇

　今度は何故（なぜ）か、エドガーが正座をさせられていた。

『まったく！駄目（だめ）だよエド！そんな簡単に女性にキスなんかしたら！』

『……はぃ』

　これでは、エドガーが誰これ構わずキスをしたみたいだが、エドガーは反論（はんろん）することなく聞き入っていた。

　ローマリア王女とノエルディアは小声で。

｟反論（はんろん）しない事で、流そうとしてますね｠

｟そうね。しかし本当に面倒臭（めんどうくさ）いわね、エミリアは｠

　王女とノエルディアは、正座させられたエドガーを不憫（ふびん）に思う。

　幼馴染であるエドガーの事を第一優先に考えるエミリアと、他人を優先し、自分を優先しないエドガー。

｟エミリアの想いは、届くのに時間がかかりそうね……｠

｟そうですね。【召喚師】も、分かっててスルーしているでしょう、アレ｠

　あからさまな嫉妬（しっと）を見せるエミリアに、エドガーは気付いているとノエルディアは言う。

　幼い頃から一緒にいてくれる、唯一（ゆいいつ）の異性。

　妹や従業員のメイリンはともかく、ここまで露骨（ろこつ）にエドガーにアピールし続けて気付かぬ訳がないと、ノエルディアは言う。

　エドガーがエミリアを女として見ているかは怪（あや）しいが、ライバルが多そうな事は間違いない。

　そして、そのライバルを助けようとするのもまた、エミリアのいい所なのだ。

◇

　反省終了（はんせいしゅうりょう）。と言った所で、エミリアはフィルヴィーネに。

『取り乱してすみませんでした。改（あらた）めて、エミリア・ロヴァルトです……よろしくね。フィルヴィーネ（・・・・・・・）！』

『ま、“魔王”に躊躇（ちゅうちょ）ないわね……』

　ローザはエミリアのコミュ力を感心した。

　そしてキョトンとしてエミリアを見るのは、勿論（もちろん）言われたフィルヴィーネ。

『――面白い。面白いなエミリア。気に入ったぞ』

　物怖（ものお）じしないエミリアに笑顔を見せて、フィルヴィーネは手を差し出す。

　エミリアはそれを握（にぎ）り返して、満面の笑顔で答える。

『エドをよろしくね！』

『ああ、任（まか）せよ』

『まぁ、手の甲にキスさせた事は許（ゆる）さないけどっ！！』

『誰も許（ゆる）してもらおうなどと思わぬわっ、小娘』

『あははっ』

『クックック……』

　こうして、エミリアはフィルヴィーネにも気に入られた(？)。

　下手をすれば、エドガーよりも異世界人達の好感度（こうかんど）が高いのではないかと思わせる。

『よしっ！……で、サクラはどこにいるの？』

　一人で何かを納得（なっとく）し、突然エドガーに聞いてくる。

『――変（かわ）り身はやっ！！』

　エミリアの切り替えの早さに、思わず声を上げるエドガー。

　それに対してエミリアは。

『エドの事が分かれば、後はサクラでしょ？私だって、馬鹿（ばか）じゃないよ』

　今だけは、その優先順位を変えて欲しかったと心から思う。

　そうすれば、ややこしい事にはならなかったのだから。

◇

　王女が来訪（らいほう）して全員がテーブルに着くまで、実に半時（はんとき）(３０分)以上の時間がかかった。

　その現状（げんじょう）を招（まね）いたエミリアは、エドガーの隣をキープして座り、反対側にはフィルヴィーネが座った。

　エドガーの対面にローマリア王女が座り、その隣にはローザが。

　普通はエミリアだろうけど、これ以上ややこしい話になると進まないので、全員が納得（なっとく）。

　後ろにはノエルディアが控（ひか）えている。

　広い休憩所なので、全員ばらばらに座ってほしかったと言うのがエドガーの本音だが、そんな空気を壊（こわ）すことを言うほどの度胸は無かった。

『さて……メルティナさんから聞いた話しを、改（あらた）めてエドガーから聞かせてもらえる？』

　仕切っているのはローマリアだった。

『はい、殿下（でんか）……まずは、西からの侵入者（しんにゅうしゃ）の件ですが……』

　そうしてようやく、ようやく話しは進みだしたのだ。

『――……と、言うわけです』

　以上となります。と後付けて、エドガーの説明は完結した。

　ローマリア王女は、腕組しながら聞き入っていた。

　用意された紅茶に口もつけず、考えを巡（めぐ）らせる。

『……エミリア。こんな騒（さわ）ぎをしている場合ではなかったようね』

　少し怒っていた。

『す、すみませんでした……ローマリア様』

　事は重大だった。

　西の国、【レダニエス帝国】。いや、【魔導帝国レダニエス】は、水面下で【リフベイン聖王国】に侵入（しんにゅう）してきている。

　聞けば、エドガーに“悪魔”を嗾（けしか）けたりもしていたようで、照らし合わせて行けば交差（こうさ）することも多々あった。

『……エリウスと言っていたわね、あの子……！』

　塔（とう）での戦いを思い出して、ローザは苦虫（にがむし）を食い潰（つぶ）したように言う。

　帝国の皇女（こうじょ）であり、エドガーに“悪魔”をぶつけて来た張本人。

　かと思えば、【召喚師】であるエドガーを勧誘（かんゆう）してきたりと、謎の行動もする。

『目的は？』

『分かりません。接点（せってん）なんて勿論（もちろん）ありませんし……』

　王女の問いに、エドガーは首を振る。

　フィルヴィーネは言う。

『其方（そなた）になくとも、あちらにはあるかもしれぬぞ？』

『どういう事？エドと、他国の皇女（こうじょ）でしょ？』

　フィルヴィーネの言葉にエミリアが返す。

『人は、知らず内に接点（せってん）を持っているものだ……他人を会（かい）し名を知っただけでも、十分接点（せってん）なのだぞ……？』

『つまり“魔王”様、フィルヴィーネ様は……帝国の者がエドガーを知っていても、何ら不思議（ふしぎ）ではないと？』

『そうだ。あと――フィルヴィーネでいいぞ王女よ。我（われ）は“魔王”ではあるが、エドガーの《契約者》だ。ロザリームと同じように扱（あつか）ってくれていい』

『し、しかし……』

　ローマリア王女は、ずっとフィルヴィーネを“魔王”様と呼んでいた。

　それは、異世界の王（・）であるということもあり、王女としての配慮（はいりょ）だった。

　だがエミリアの態度（たいど）を見て、少し羨（うらや）ましいとも思っていたのだ。

『構わん。エミリア（コレ）を見よ。初対面で呼び捨てはおろか、喧嘩（けんか）を吹（ふ）っ掛けて来たのだぞ？――実に面白いではないか……クックック……』

『それはすみませんでした』

『申し訳ない』

『後輩（こうはい）がすみません』

　エミリア、ローマリア王女、ノエルディアが続けて謝（あやま）る。

『だからよい。この次、我（われ）の部下、リザが何か言っても気にする事はないからな』

　あ奴は空気を読む歯止（はど）めが抜けているのだ。と、笑った。

『心得（こころえ）ました、フィルヴィーネ……では、サクヤさんやメルティナさんの事もそう呼ばせて頂いてもいいかしら？』

『うむ、無論（むろん）だ。姫殿下（ひめでんか）』

『――勿論（もちろん）ですっ、むしろメルとお呼びください！』

　サクヤも同意。

　身を乗り出して、メルティナは喜ぶ。

　やはり、メルティナはメルと呼ばれたいらしい。

『そ、そうか……ではメル、これからも私やエミリア、エドガーとの仲介（ちゅうかい）を頼めるだろうか』

『イエス。勿論（もちろん）です』

『――わたしも、未熟（みじゅく）な身ながら協力いたします……ですが今は……』

　サクヤも、協力は勿論（もちろん）するつもりだ。

　しかし、サクラを元に戻すまでは離れられない。

『分かっているわ。サクヤ……ありがとう、その時は頼むわね』

『……はい』

　王女の言葉に優しく微笑（ほほえ）むサクヤ。

　自分の妹が関わっていると言う状況（じょうきょう）も、サクヤの中では折り合いがついているのか、格別文句があるようには見えなかった。

『……』

　しかしエドガーは。

　そのサクヤの笑顔が、とても痛々（いたいた）しいものに見えて、仕方がなかった。