不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

149話【流れる景色】

◇流れる景色（けしき）◇

　全員で少し歩き。北門から出たエドガーは、外にいきなり置いてある【ランデルング】に驚（おどろ）く。

「――ほ、本当にあった……」

「当然であろうが」

　《転移魔法》に驚愕（きょうがく）するエドガーに、フィルヴィーネは当然だろうと胸をブルンと揺らす。

「……乗り込むわよ」

　ローザはまだショック？が大きいようで、門まで歩いてきている間、完全な無口だった。

　サクラとサクヤは、フィルヴィーネに根掘（ねほ）り葉掘（はほ）り色々と聞いていたが。フィルヴィーネはそれに素直に答えてくれていた。

「あ、そうだね。まずは【ルド川】に行って……それから北東に、だね」

「ええ。サクラ、鍵（かぎ）を開けなさい」

「もぉ～、人にものを頼む態度（たいど）じゃなくない？」

　そう言いながらも、せっせと【ランデルング】の二重ドアを開錠（かいじょう）するサクラ。

　メルティナが居ないので、サクラが説明をしなければならない。

　その為の話は事前にしていたようだが。

「はい。開きましたよ……エンジンをもう一度かけ直して、この……街道（がいどう）？を進んでいきましょうか」

　サクラが見る門の外は、本当に何も無い平地（へいち）だった。

　これが国の首都（しゅと）の近隣背景（きんりんはいけい）なのかと、心の中では思っていた。

　道も整理されてはおらず、雑草や木々は生え放題の外壁部分。

　明らかに人の手が入っていない、錆（さ）びた門。

　これで農家の人々が水を汲（く）みに毎朝出入りしていると言うのだから、管理能力の低さが露呈（ろてい）している。

　更には街道（がいどう）だ。

　先程サクラが疑問符（ぎもんふ）を付けたことで分かるように、道など初めから無かった。

　辛（かろ）うじて人が通っているだろうな、と思える程度のささやかな土の道。

　当然手は入っていない。サクラの世界では当然の、コンクリートやアスファルトなどはある訳もなく、舗装（ほそう）されていない荒（あ）れ道だった。

「……ひっどいなぁ」

　サクラが【ランデルング】に乗り込む前にボソッと呟（つぶや）いた言葉に、サクヤは言う。

「そうでもないぞ、これくらいなら、わたしが嫁入りの時もこんな感じだった」

「なるほどね。《戦国時代》に近いのか……それでも道は均（なら）されていたんでしょ？」

「まぁ、それはそうだが。然程（さほど）変わらないな……人が通っていない分、こちらの方が寂（さび）しく感じるが」

　と、嫁入りまで家から出たことがなかったサクヤが言うが。

　フィルヴィーネが反応し、サクヤをからかう。

「なんだ小娘、夫がいる（・・・・）のか……よくもまぁこんな辺鄙（へんぴ）なところに来たものだ」

　現地民（げんちみん）のエドガーには耳が痛い言葉だった。

　しかしサクヤには、全否定（ぜんひてい）せざるを得（え）ない理由があった。

「ちち、ちちち……」

　なんだろう。小鳥かな？と思わせるサクヤの囀（さえず）り。

「――違うのです！主様（あるじさま）……わたしは嫁入りなどしていませんよ！？」

「え、僕？」

　フィルヴィーネではなく、何故（なぜ）かエドガーに弁明（べんめい）をしだすサクヤ。

　エドガーも「うん、知ってるよ」と、笑顔を見せていたが。そのままコックピットに向かっていった。

「ああ、主様（あるじさま）……」

　泣き顔で、エドガーの背を見る。

　エドガーからすれば「一度聞いていたから大丈夫だよ」と言う意味合いだったのだろうが、サクヤは誤解（ごかい）されているのではないかと、不安に駆（か）られたのだ。

「……ラノベ主人公かっ！！」

　そんなエドガーを見ながら、サクラは一人でツッコんでいた。

◇

　中々に広いコックピットの操縦席（そうじゅうせき）(運転席)に座ったローザは、気合を入れてハンドルを握（にぎ）る。

「で？」

「で？って……ローザさん。説明できるのあたしだけなんだから、せっかち起こさないでよ。いよっ……っと」

　助手席に座ったサクラは、メーターを再確認する。

　魔力燃料（ねんりょう）メモリは満タンになったまま。欠陥（けっかん）は無いようで一安心だ。

「えーっと……エンジンは、これでしょ？」

　鍵（かぎ）を差し込み、回転。

　静（しず）かにモニターの機器が光を放ち、起動音（きどうおん）を鳴らす。

　サクヤとエドガーも「動いた」と反応している。

「それで、アクセルとブレーキは今回使わないから……ローザさんは、戦うとき魔力で剣を操作（そうさ）してますよね？」

「ええ、そうね」

「うん。そんな感じで」

「……ず、随分（ずいぶん）とアバウトね……もう少し何かあるでしょう？普通」

　半眼（はんがん）でサクラを見るローザは、若干（じゃっかん）不安げだった。

「だ、だってメルがそう言ってたから……」

　そのまま告げたらしい。

　要約（ようやく）すると『操作（そうさ）自体は、注入された魔力分で行（おこな）えます。それ以上は魔力を使いませんので、メモリだけを気にしてください。それと、操作（そうさ）方法ですが……魔力はローザが注（そそ）いでいますので、ローザが作り出した剣を扱（あつか）う感覚でいいでしょう。初運転ですので、なるべくスロースピードで調整（ちょうせい）してください、停車の際（さい）は急に止まらず、余裕を持って行うことです』らしい。

「……随分（ずいぶん）とあるじゃないの」

「いふぁいいふぁい……」

(痛い痛い……)

　ローザは柔（やわ）らかいサクラの頬（ほほ）を伸ばす。

　これはもう、この二人の通例（つうれい）になりそうだ。

「……ま、いいわ。魔力で操（あやつ）れるのなら、心配はいらなさそうね」

　再度ハンドルを握（にぎ）り、【ランデルング】に注（そそ）がれていた己（おのれ）の魔力を動かす。

　すると、ゆっくりと車体が動き出す、のだが。

「――そっちじゃないよ！？」

　【ランデルング】は、ささやかに残された道を逸（そ）れて、草むらに入っていく。

　そして停車。

「い、意外と難（むずか）しいわね……大きいからかしら。でも、これは楽しいかも」

「焦（あせ）ったぁ……ローザさん、大丈夫？」

「ええ、もう慣（な）れたわ」

(絶対噓（うそ）だ……)

　ローザは、まるで馬でも乗りこなすように舌を出して、眼光（がんこう）を鋭（するど）くさせる。

「行くわよ」

「事故だけはやめてくださいよっ！？」

「分からないわね」

「――そこは分かったって言ってよ！！」

　非常（ひじょう）に不安になるサクラと、後ろで見守っていたエドガーとサクヤだった。

　因（ちな）みにフィルヴィーネだけは、後部部屋で部下の“悪魔”リザと会話をしていた（・・・・・・・）。

　なんだか、しれッと目を覚ましていたのだった。

◇

「フィルヴィーネ様！景色（けしき）が、流れていきますよ……！」

「ああ、そうだな」

　目を覚ましたばかりの小さな“悪魔”は、窓にへばりついて外を眺（なが）めていた。

　“魔王”フィルヴィーネも、簡易的（かんいてき）に置かれた椅子（いす）に背を預け、流れていく景色（けしき）を眺（なが）めていたが、実に面白くなさそうな顔をしていた。

「フィルヴィーネさん……？と、えっと……リザ、さん？」

　ローザの操縦（そうじゅう）は、逐一（ちくいち）サクラが見守っている。

　サクヤも興味（きょうみ）があるのか、ローザを観察（かんさつ）していた。

　エドガーは、一人でいるフィルヴィーネを気にして来たのだが、リザが目を覚ましているとは驚いた。

「目を覚ましていたんですね……身体は大丈夫ですか？」

　ゆらりと小さな翼で飛行しながら、リザはフィルヴィーネの膝（ひざ）の上に立つ。

　その姿は全裸。

　まぁ、着る服などはないから仕方ないかもしれないが。後で用意しなければと、エドガーは思った。

「お前が我（わ）が“魔王”の《契約者》ね……随分（ずいぶん）と平凡（へいぼん）な顔だなことっ」

「は、はあ……」

(よかった。元気そうだ)

　初会話で平凡（へいぼん）などと言われているのだが、エドガーは笑う。

　心配が勝（まさ）っていたのだ。エドガーは屈（かが）みこんで、リザに目線を合わせる。

　小動物に接（せっ）するように。

「お前が私を回復してくれたらしいわね、感謝してやってもいいわよっ！」

「――リザ」

「か、感謝しますわ！エドガー殿！！」

　フィルヴィーネの声音（こわね）にパッ！と顔色を変えて、リザはエドガーに感謝を言う。

　背筋は伸びて、それこそ人形のようだ。

「あはは……エドガーでいいですよ。リザさんは“悪魔”……なんですよね？」

　エドガーは、素直に思ったことを聞く。

　あまりにも、以前戦ったグレムリンやバフォメットと印象（いんしょう）が違い過ぎたからだ。

「ええ、そうよ！お前の何倍も生きているのだから！」

　年長者を敬（うやま）え。という事だろうか。

　しかし、そんな偉（えら）そうにするリザに、フィルヴィーネが一言。

「リザよ、お前の身体はエドガーの魔力で構成（こうせい）し直されている……肉体年齢で言えば、生まれたてだぞ？」

「――え、何ですかそれは！――ニイフ様！聞いていませんよっ」

「ニイフ？」

　リザの発言に、エドガーは疑問（ぎもん）を抱（いだ）く。

　ニイフとは誰か、明らかにフィルヴィーネを見て言ったのは確かだが。

　しかしそれ以上に、【紫月の神ニイフ】は、エドガーがフィルヴィーネを“召喚”する時にモチーフにした題材（だいざい）でもある。

「……リザ、失言だぞ。聞かれてもいない事をペラペラと……」

「あわわわわ……」

　フィルヴィーネから漂（ただよ）う魔力がリザを囲む。

　リザは本能で、魔力が同じエドガーの背に隠れた。

「えっと……」

　ひしっとコートを掴（つか）み、顔を隠す小さな“悪魔”。

「もも、申し訳ありません！！ニイフ様！」

「――エドガー、その馬鹿（ばか）を差し出せ。仕置（しおき）きが必要なようだ……」

　冗談（じょうだん）ではなさそうだ。

　エドガーは、そっとリザを両手で掴（つか）んで、フィルヴィーネに渡す。

「ど、どうぞ……フィルヴィーネさん」

「お、お、お前！裏切るのねっ！」

　裏切るも何も。

　リザはエドガーの指に嚙（か）みついて、足で挟（はさ）んで必死に抵抗（ていこう）するが。

　くすぐったくて、エドガーは微笑（びしょう）を浮かべる。

「くっ、くすぐったいですよ！リザさん、ははっ……」

　そう言いながらも、完全にエドガーはリザを貢物（みつぎもの）とした。

「おのれぇぇ！あ！ニイ、いえ、フィルヴィーネ様！お許（ゆる）し――」

「デコピンだ」

　――バシンッッッ！！

「……え？」

　微笑（びしょう）するエドガーの目の前を、リザは猛スピードで通り過ぎて行った。

　そして壁にぶつかって――落ちた。

「ええぇぇぇぇぇぇっ！？」

　おおよそデコピンとは思えないスピードと威力（いりょく）。

　一瞬でエドガーの手から消えたリザは、背後の壁からずり落ちていた。

　まるで、叩き落された虫だった。

「目、目が回るぅぅ～～」

　リザの見た景色（けしき）は、流れていく窓の景色（けしき）よりも、更に高速で流れ去っていった。