90話【三日目~来訪者~】
◇三日目~
【福音のマリス】に
それに、エミリア・ロヴァルトとアルベール・ロヴァルトの兄妹。
それらを引き連れて、エドガーのもとに顔を見せたのは、【リフベイン聖王国】第三王女ローマリア・ファズ・リフベインだった。
お付きのメイドとみられる女性が、宿の入り口でベルを鳴らす。
「は~い」と、従業員のものとみられる声が聞こえて、一人の少女が
「どうかし……ました、か……――ってエミリアちゃんじゃん!」
「は、は~い……サクラ。お、おはよう……」
「お、おはよう……」
(すっごい引きつってるんだけど……笑顔)
エミリアの表情は、決して恋する少年に会いに来た
明らかに迷惑をかけると確信した、
「……あ~。シャーベット……」
エドガーが用意してくれたシャーベットは。
残念ながら、食べられないようだ。
「――
「――!……どうぞ、こちらに……」
ローマリア王女も、きっと
だが、王族がエドガーを、【召喚師】を“不遇”
「おおっ!助かる。“精霊”殿は、いるのだろう?」
「
「何を言うのオーデインっ!あの力を見たでしょう!?」
「はぁ……」
「はぁ、ではないわ!昨日も言ったでしょう!?あれは絶対に“精霊”よっ。間違いないわ」
サクラに案内されながら、ローマリアはオーデインに「精霊はいるんだ!」と、
ロビーから大階段を上り、二階に出る。
「お~、これまた広いではないか……
「……ん~?」
サクラは、王家の人間でありながら不自然なまでに
「エミリアちゃん……もしかして、王女さまって……」
エドガーが、【召喚師】が。
国から“不遇”職業として
「……うん。そうらしい……私もなんか変だと思ってたんだけど……そこの【聖騎士団】の副団長さんに聞いたよ……
悲しそうに、けれども安心しているようにエミリアは言った。
「そっか……だから、あんなに
ローマリアは、本心で言っていたのだった。
本心で、この宿を
「――ようこそお
二階の広場で待機していたエドガーは頭を下げる。
「ええ。初めまして……エドガーと、名前で呼んでも
エドガーは当然だという風に頭を下げ。
「
そう言って、
(エド君、嫌じゃないのかな……?あたし、あたしが……)
エドガーの後ろ姿を見るサクラは。自分が役割を変わってあげられたらと、心の中で
「ここです……ここにローザが……ロザリーム・シャル・ブラストリアがおります」
エドガーがローマリア達を案内して来たのは、二階の
宿二階の
この部屋は、普段は客室などには使われない部屋だ。場所的には、大浴場の真上にあたる。
そう言えば、もうすぐメイリンが
<……サクヤ、聞こえていたらでいい。メイリンさんがもう
<
<……うん。ありがとう>
エドガーは【心通話】でサクヤに
部屋では、
「昨日の今日でもう来るなんて……気が早いわね。王女様……」
ローザと
王女
ローザを部屋の中央の席に着かせ、正面の席に王女
これは、
会議室にあるような長テーブルが四つ並べられ、四方に
「約束したもの!当然でしょう……」
ローマリアはローザの言葉に笑顔を見せる。
その笑顔は、心底嬉しそうで、ローザ(“精霊”)と会うことを本当に楽しみにしていたのだろう。
「そ、そう……」
一方ローザは、押しの強そうなローマリアに
(……どことなく、【バカ天使】を思わせるのよね)
ローザの世界で、ローザを救った“天使”ウリエル。
明るい
(……腹立つわね)
しかし残念ながら、
「では、こちらでお待ちください……今、お飲み物をお持ちいたしますので」
エドガーは、全員が席に着いたのを確認し、王女
王女は当然、
「支配人のあなたが
「――エ、エド君!あたしが行くからっ!」
王女の
しかし、エドガーは軽く首を横に
「いや、サクラはローザのフォローをしてあげてくれるかな。じゃあ、行くからよろしくね」
そう言い切り、サクラの返事を待たずに扉の向こうへ消えていった。
「……エド君」
「フォローって何よ……別に
王女側は、ローザの正面にローマリアが、両隣に【聖騎士】オーデイン、エミリアが座っている。
後ろにはエミリアの兄アルベールと、メイドが一人待機していた。
「では“精霊”殿……いや、ロザリーム殿か……話を始めましょう。色々話したいことはあるけど、ロザリーム殿の家名。“精霊”に似た力……それとエミリアの結婚について、だな」
あの時、王女はローザの家名、【ブラストリア】に何か思うところがあるらしい事を言っていた。
異世界人のローザの家名を、
それは確かにエドガーも気になっているはずだ。
「……エドガーが来たらね」
ローザは
「
話す気満々の王女とは違い、【聖騎士】オーデインは何か急ぎの用でもあるのか、
そしてそうこうしているうちに、エドガーが飲み物を持って戻ってくる。
「お待たせしました。王女
「……」
エドガーの問いかけに、メイドの女性は答えない。
「え……あの?」
エドガーが
「え、私……?」
と、自分がメイドなのを忘れているように答える。
「――ブフッ!」
【聖騎士】オーデインが、いきなり
それに釣られて、王女も。
「あはははっ!面白いわね。エドガーは!ほらメイドさん、じゃなくて
王女は
「……で、
そう言いながらも
「えっと……もしかして僕、失礼をしましたか……?」
飲み物を受け取るノエルディアに、エドガーは聞く。
「いえ。こんな格好している私がいけないので……ですが、私はメイドではなく【聖騎士】ですので、そこだけはあしからず」
「――は!?え、はぁ……なんか、すみません」
悲しいかな、上司である王女やオーデインもが
ノエルディアは
王女は「
――と言うか、普通
「エドは俺達の知り合いってことで、
「そういうものかな……?」
「そういうことにしておいて……は、はは……」
席に向かう
「さぁ、準備は
「いや、それを私に言われてもね。
ワクワクする王女はキラキラさせた目をローザに向けたが、ローザは
「私の話はどうでもいいから、エミリアの話を先にしてくれるかしら。急いでもいるのでしょう?」
「む、確かにそうね。エミリア……朝も
「……はい。お願いします。
「分かったわ……じゃあ急かされているのもあるから、
オーデインをちらりと見るが、オーデインは
それを見たエドガーは
<王女
<それだけ
<……そうなのかなぁ、あたしなら怒るかも)
<
それが
「エミリアの結婚、
ローマリアは
「もう父上は、急務でもない限り、
「……その、あの大臣は……?」
自分を何度も刺した大臣が、今どうなっているのかが気になったエドガーの疑問に、ローマリアは答える。
「ああ。奴は……
「……謝らないわよ?」
大臣が恐怖に支配されたのは、ローザの“魔人”の姿だ。
ローザは、王女に半眼で言う。王女は笑って。
「ふふっ。
大臣の命令に
しかしローザは
「それで……エミリアの結婚が無効に出来ないのなら、王女様はどうするつもりなのかしら……何もしないわけはないのでしょう……?」
仮にも自分の
「それはその通りね……ほら、そこにあるでしょう……?」
ローマリアが指差す先、【聖騎士】ノエルディアの隣に、不自然に置いてある大きな袋。
「「……」」
エドガーとサクラは苦い顔をする。
実は、エドガーもサクラも気付いてはいたのだが。
何せ不自然な大きさである上に、
まるで、人間が入っているのではないかと思わせるほどに。
「き、気付いてはいましたけど……それがエミリアちゃんの結婚に、関係あるんでしょうか」
「……うむ、ノエルディア」
「はい。
ローマリアの
「――むごぉぉぉっ!」
「あ、
エミリアの婚約者となっている貴族の青年、セイドリック・シュダイハだった。
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