87話【魔人《ローザ》】
◇
ジュアン・ジョン・デフィエル大臣は、下町の
幼き
当時は、この国を
若くして聖王国軍に入り、国の為にと
だが、無念な事に騎士としては
鳴かず飛ばずで数十年。そして出会った。
最高の
彼女が出した案はことごとく現
そんな彼が、“不遇”に
泥水を
自分の過去に比べれば、この若造など大した事ではないと思えた。
今、【召喚師】は自分の足元で
「――
「エドぉぉ!」
「エドっ!!」
それを声に出せたのは、エミリアとアルベールのみ。
「――ぐっ!ぁぁぁぁぁあっ!!」
「……ふふふ。おっと、長年のブランクで手元が
「……わざとでしょうっ……!ぐっ!ぅぅぅう!」
エドガーの言葉を口答えと
「ぐはははっ!そんなことはないさ……ワシも元・騎士だ、剣の
「――っがぁぁぁぁぁっ!?」
ブシュッと、引き抜かれた傷口から
「……エド、ガー……私、は……」
「エド、君」
「あ……
倒れるローザとサクラもエドガーの名を弱々しく呼ぶ。
一番近くにいるサクヤは、
(くっ……【心通話】も使えなくなっている……身体も動かないっ……なんと無力なのだ、わたしはっ!)
「がはっ、がはは。がはははっ!!」
大臣は、何度もエドガーの肩の傷を
エドガーは、ついに声を上げる事も無くなり、血に
【聖騎士】二人とエミリア、アルベールは、増援の重騎士達と戦っている。
そんな中ただ一人、ゆらりと脱力したまま立ち上がり、
暗がりでありながら、その右手に
「――っああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
(ああ……嫌だ……見ないで、見られたくない……こんな、
「「「「「――!?」」」」」
この場にいる全員が、
ハウリングとなったローザの声は、戦場となった【
「う……うぅぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっっ!!」
立ち上がったローザの全身からは燃え上がる炎が揺らめき、まるでローザ自身が燃え盛っているかの
右手の【消えない種火】をギラリと
全身から燃える炎は、骨格から燃えているのか、燃やした石のように、腕や足の骨が素肌から薄く
「……ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
赤黒く変色した
髪そのものが炎のように燃えており、常に風に
その眼光は赤く、ローザの普段の青い目ではなくなっていた。
「……ローザっ、お願い」
「ローザさんお願い……!!」
「……頼む、主殿を……!」
「「「助けてっ!!」」」
その
ただ、一番に思った事、それはエドガーの事だった。
今のローザなら、きっと助けられる。そう確信して。
「――燃えろ。【
「ん?――う、うわあぁぁあっ!」
「――なんだっ、火がぁぁ!!」
「――あ、熱い!鎧がぁぁ!」
【
一定の温度の物体を選択して、発火させる技だ。
その温度は、剣や鎧など
「な、なんじゃあれは……
大臣も、異常事態と
「――うおっ!……あつっ!」
手に持っていた剣が、発火して
「うおおぉぉあっ!」
カランと剣を投げ出し、
そして、ゆっくり歩んでくるローザが目の前に現れ、大臣を見下していた。
歩いてきた足跡は地面を溶かし、くっきりと炎の残り火があった。
「ひぃぃぃぃぃっ……ば……化け物ぉぉぉぉぉっ!!」
素肌から炎を巻き起こして、赤い髪はまさに炎そのものになっている。
着ていた服は焼け落ち、ローザが身に
頭から生えているのか、赤黒い角のような物は、炭化した魔力の結晶だ。
それを巻き起こしているのは、【消えない種火】だ。
その名の通りに消えない炎の魔力は、
誰かれ関係なく炎を生み出して、ローザの身体を焼く。
「――私が人間であろうとも、
目の前に
指は肥大化し、爪は
その手から出る熱気だけで、大臣は大量の汗を
「……かっ!ひゅー、ひゅー……はぁっ!」
後ろにはエドガーが倒れているので、ローザは大臣を思いっ切り
「エドガー……私がこの力を……【
ローザはしゃがみ込み、エドガーに
ジュウゥゥ――と焼けるエドガーの肩、しかしそのおかげか、血を流し続けていた傷は
「……ごめんなさい……」
ローザは涙を流す。
しかしその涙さえも、自身の高熱で
だがそんなローザにも、声を掛ける者はいる。
「ローザ殿……助かった」
「ローザさん……ありがと」
「まったく……私のこの姿を見ても話しかけられるなんて、本当に変な子達ね……」
だがそれが、心底嬉しい。
そして、目を覚ましたエドガーも。
「……ローザ。ごめん……僕……間違って、た」
「エドガー……いいのよ、皆を助けたかったのでしょう……?」
エドガーは
「――!……
ローザの姿は、エドガーが始めてローザに会った時戦った“魔人”にも
だが、エドガーには違って見えていた。
手は肥大化し、変色して赤黒くなり、魔力の結晶である角と翼、尻尾は動物のよう。
白目は黒くなり、青いはずの目は、
その姿は、エドガーが最初に求めた――“精霊”に似ていると、思ったのだ。
◇
大臣は完全に気絶して、指揮官であったはずのセイドリックも伸びている。
その二人を倒したエドガーも倒れ、最後に見えるのは、
「……――あ、副団長……あれを!」
ノエルディアが、王城から向かってくる一団に気付き、オーデインに
「ああ……お前たち……これ以上まだ戦うか……!?見ろ、王城を……あの
オーデインは、ここにいる全ての人間に聞こえるように、大きな声で
それに釣られてか、ほぼ全ての騎士達が、続々と武器を
ローザの炎で鎧を焼かれた騎士達も、その方向を見る。
「……終わったみたいですね……」
ノエルディアも「ふぅ」と一息
「こちらです!!――ローマリア
と、今この場を
白馬に乗っていたのは、
たった一人で馬に乗り、数人の騎士を引き連れてここに来たらしい。
「すまないわね。オーデイン……ノエルディア。
「いえ、
オーデインとノエルディアは
この少女が、この国の第三王女なのだと。
「
「ふふっ」と
しかしその言葉も、背後から現れた人物の一言で全員が
「……皆、このお方がローマリア・ファズ・リフベイン
聖騎士団の若き団長、クルストル・サザンベール。
「だ、団長……」
ノエルディアが
「クルストル!お前、何をやっていたんだ……!」
副団長オーデインは「もう少し早く来い」と、言いたいのだろうが、クルストルに手で
「……邪魔されていてな。
「邪魔?犯人……?」
クルストルとオーデインは、
伸びきって
「……そういうことか」
「ああ。そういうことだ」
ローマリアは、
「……あなたが、エミリアの幼馴染……エドガーね」
「そうよ……
エドガーの代わりにローザが答える。
「……そう気を
ローマリアはローザに
「は、はい。
ユングは、
【トーマスの
エドガーも一度使っている、ジュライ・トーマス作の薬だ。
「これを使うといいわ……その、お
「……そこに置いて。今の私は
「……わ、分かった……」
「私がやりますっ!王女
エミリアが、ユングから薬を受け取り、エドガーに
「「……」」
エミリアがエドガーの
「終わったよ、ローザ……」
「ならばもう安心であろう……その姿を
「……」
ローマリアの言葉に、一番驚いたのはローザではなくエミリアだった。
「せ、“精霊”!?……あ、そっか。だから怖くないのか……納得――って違う!」
エミリアは一人でブツブツと
「
ローザは
それ以前に、エミリアを
「どうして?……ローザはローザでしょ?私の知ってるロザリーム・シャル・ブラストリアでしょ?」
「……エミリア、
「うん!待ってて!」
エミリアは
「――ブラストリア?今、そう言ったの……?」
ローザのフルネームを聞き、何か思うところがあるのか。
「……そうよ、ロザリーム・シャル・ブラストリア……【ブラストリア王国】第一王女……それが私の名よ」
どうせ言っても
ローザはローマリアに自己紹介をする。
「……ちょ、ちょっと……いや、今言っても……だけど、その国は……」
しかし、それを聞いて一人ブツブツと言い始めたローマリアに、【聖騎士団長】クルストルが報告をする。
「
「え、ええ。分かっているわ……今行くから、待たせなさい」
「……はぁ」
「はぁ。じゃない!ああもうっ、分かったわよ、行くから……ロザリーム殿、後で話があるわ。どこに行けばよいか……?」
「私に話はない……って言っても聞かないのでしょうね……【福音のマリス】って宿にいるわ……」
「
そう言い残して、ローマリアは
「王女様が、来るの?……【
話は聞いていたのか、エドガーが言う。
「ええ。そのようね……大丈夫?エドガー」
「うん……ごめん、ローザ……言う事聞かなくて」
「もういいわ。それよりも、エミリア早く来なさいよ……変身切れそうなんだけど」
それ、変身なんだ。とは言えなかったが、エドガーは。
「――ごめん」と、
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