86話【終息へ向かう選択】



終息しゅうそくへ向かう選択せんたく


 セイドリックの前髪をがした炎弾は、外壁にはばまれて爆散ばくさんした。

 しかし、その威力いりょくは言うまでもなく、その場にいた騎士や傭兵ようへい達は、人外を見る目でエドガー・レオマリスを見ている。

 そんな奇異きい視線しせんをものともせずに。

 エドガーは歩き、騎士のれが引いていく道を進む。


「き、きき、貴様ぁぁ!貴様がやったのかぁっ!!」


 尻餅しりもちをついてさけぶセイドリックを、近くまで来たエドガーは無視むししてエミリアに向き直り、げる。


「ごめんねエミィ・・・。遅くなった……」


 優しく笑顔を見せるエドガーに、エミリアは涙をにじませる。


「……エド、どうして……なんで、ここに?」


 エミリアを昔の愛称あいしょうで呼ぶエドガーは、完全に何かをっ切っているようで、にらさけび続けているセイドリックの言葉は入っていなかった。


「――黙りなさい。小虫が……」


「――ぃヒィッ!」


 さけび続けるセイドリックの大声に、イラっとしたローザがエドガーの後ろから威圧いあつすると、借りてきた猫のようにおとなしくなったセイドリック。

 完全におびえていた。


「ローザ?……サクラ、サクヤも……な、なんで?」


 今回の件は、エドガー達には話していない。

 もう二日前から会ってもいないのに、どうしてここにいるのかエミリアは分からない。

 が、うれしいのと困惑こんわくしているのが合わさって、泣きそうだった。


 しかし、助けに来た【召喚師エドガー】を知っていると思われる騎士がチラホラいるようで、ひそひそと話していた声が大きくなってくる。


「……おい、あれって【召喚師】だろ……?」

「国に指定された、“不遇”職業の?」

「マジか……それがなんで、あんなを撃てるんだよ?」

「なわけねーだろ、きっと後ろの女のどれかがやったんだろ……」


 ――“不遇”職業。

 国に指定されている、公式に侮蔑ぶべつしてもいい職業。

 本来、そんなものはない。だが、先代先々代から続く“不遇”な生活は、確かに国から受けたものだった。


だまれと言っている……」


 ローザは一瞬で声を黙らせた。

 静かで小さな声だが、不思議ふしぎと響き渡り、遠くまで届く声だった。


「ありがとうローザ……さ、エミィ……帰るよ?」


 自分の代わりに声を上げたローザに礼を言い、エミリアの手を引くエドガー。


「き、貴様ぁぁ!我が妻にれるなっ!」


「……――貴方あなたのものじゃない。エミィは……エミリアは、未来をになうこの国の騎士だ、誰のものでもない。ましてや、貴方あなたのような人にエミリアは渡さない――絶対だっ!!」


 左腕でエミリアをき寄せ、宣言せんげんする。

 エドガーは道中で覚悟を決めた。

 人として、【召喚師】として、そしてなにより、エドガー個人として出来る事。


 エミリアを助けるという事は、下手をすれば国と対峙たいじする可能性がある事だ。

 そういう事になる。それをまえても、エドガーの覚悟は決まっていた。


「ぎ、ぎざまぁぁぁぁぁ!この庶民しょみんがっ!【召喚師】?なんだそれはっ!何がえらい!どこがすごい!エミリア・ロヴァルト!こっちに来い!ほら!ほらぁ!!」


 何度も手を差し出し、エミリアをつかもうとするが。

 その差し出した手は虚空こくうを切る。


「まぁ落ち着きたまえ、セイドリック殿……【召喚師】、だったかな?君は……確か、先代の王が指定した……害悪がいあくの」


 デフィエル大臣が口のはしを吊り上げ、セイドリックに近寄り、笑顔でエドガーとエミリアに話しかけてきた。


「だ、大臣閣下かっか……言ってやって下さい!その娘は俺のだと!セイドリック・シュダイハの嫁なのだと!!」


「……ふむ」


 この状況でも、デフィエル大臣には強力な切り札がある。

 王女殿下でんかいんが、態度たいどまでもを大きくさせていた。


(……この男、随分ずいぶん余裕よゆうがあるわね……)


<ローザ。聞こえる?>

<……ええ。聞こえているわ>

<よかった、魔力は大丈夫だね>


 エドガーは、一人思案しあんするローザに【心通話】で声を掛けた。


<どうしたの?この男を殺す?>

<そんな物騒ぶっそうな話じゃないよ……>

<じゃあ、何かしら……?>

おりを見て撤退てったいしたいんだ。どう思う?>


 エミリアやアルベールを連れて、だろう。


むずかしいでしょうね、包囲ほういもそうだけれど、足がない>

<馬車をうばうのは?>

<馬をやられたら意味ないでしょう?>

<う~ん、どうしようかな……>

<……>

<ローザ?>


 ローザは意外だった。

 エドガーが、やけに冷静れいせいで落ち着いていることも、余裕よゆうがある事も。


<なんでもないわ。サクヤサクラはどう思う?>

<<……そこのたぬきが気に食わない!!>>


 同意見でシンクロした。


「うわっ!……あ、ごめん。何でもないよ」


 サクヤとサクラの大きな心の声に、つい声を出してしまったエドガー。

 エミリアに見られて、あははと誤魔化ごまかす。


「いやはや、大げさにしぎましたかな……?そこの【召喚師】と、ロヴァルト家がどういう関係か……調べていなかったのはこちらの落ち度……しかしねぇ、ロヴァルト家とシュダイハ家のご婚姻こんいんは、すでに決められている事……ローマリア殿下でんかのご意向なのだよ……ふふふ」


「――それでも、エミリアは渡せません。渡しません」


 大臣の圧のような言葉にも、エドガーはれない。


「貴様ぁ!庶民しょみん分際ぶんざいで、王家に楯突たてつくのか!」


 自分よりも恰幅かっぷくの良い大臣の後ろに隠れたセイドリックは、好き放題言いそうなので、ローザは威圧いあつを放つ。


「ひぃっ!」


「――む、キミは何か!?その目つき……失礼ではないかね!?」


「はぁ?」


 豪胆ごうたんなのかにぶいだけなのか。

 デフィエル大臣は、ローザの威圧いあつおびえることなく、逆に食って掛かる。

 その態度たいどに、周りの騎士達も「マジかよ」「死ぬぞ」「逆にすげぇ」などとつぶやいていた。

 ちなみに「はぁ?」と言って前に出ようとしたローザを、サクラとサクヤが「待った」「落ち着くのだ」と、しっかりとおさえてくれていたので、エドガーは安心している。


「と、とにかく……エミリアは渡しません。大臣閣下かっかが何を言おうともです」


「ふむ。そうか……ならばいたし方ない……」


 大臣は腕を上げ、指をパチン!と鳴らす。

 最初からそのつもりだっただろう重騎士達が、エドガー達を取り囲んだ。

 いつの間にか、【聖騎士】二人もアルベールも、追い込まれてエドガー達の近くに来ていた。




 エドガーは中央で合流した人物の中に、もう一人の幼馴染がいることにようやく気付いた。


「あれ?アルベール……アルベールもいたんだね……」


「ああ!いたよっ!初めっからな!……エド、お前落ち着きすぎだろ――っとぉ!」


 エドガーに声をかけながら、重騎士の攻撃をけるアルベールに、エドガーは言葉を返す。


「そうかもね。もう止めたんだよ……うじうじ考えたり、悩んだりするのは……」


 迫ってきた重騎士の盾に、エドガーは赤い剣を突き刺した。

 高熱こうねつを持つ剣は、鉄の盾を楽々貫通かんつうして、重騎士の眼前がんぜんで止まった。


「……ひぃっ!」


 重騎士はおどろき、盾を投げ出して逃げ出す。


「すげぇな……それ」


 アルベールは剣の威力いりょく感嘆かんたんする。


「……使うかい?」


「い、いや……今はいいや、何とかする」


 内心使ってみたかったが、切迫せっぱくしている状況でためし斬りする訳にもいかないので、断る。

 絶対に後で使わせてもらおうと心に決めて。

 エミリアも充分に休めたのか、エドガーから少しはなれて槍を構えていた。

 そこには、三人の異世界人の姿もある。


「エミリアちゃん、もう大丈夫なの?」


 サクラは、手に持った【ロングスタンガン】を騎士に向けてバリバリ鳴らす。


「サクラ……ありがと、正直言ってまだ混乱してるけど……感謝かんしゃしてる。サクヤにもね」


 右にいるサクラ、左にいるサクヤにも感謝かんしゃつたえる。

 ずかしいので、振り向かずにだ。


「気にするな!エミリア殿。わたし達は、もう仲間なのだから……」


 サクヤは、口元の【赤い仮面】をくいっと直して、笑う。

 目元しか見えないが、充分につたわる笑顔だった。


「……話はあとでいくらでも出来るわ。何時いつでもね、だから……この状況を乗り切るわよ。折角せっかく私達の“契約者”がやる気になったのだから、負けるわけにはいかないわ」


「……ローザ……うん。そうだよねっ!」


 槍を力強くり、赤い軌跡きせきを残す。

 ローザも、真っ赤な大剣をしげもなくつくり出して、で構える。

 当然のことだが、身の丈以上もある大剣を片手で持てる人間など早々らず、騎士達は驚愕きょうがくして尻込みする。


「さぁ……燃やされたい奴から、かかってきなさい!」





 戦いは再開された。

 その中で【聖騎士】二人は、この異常な光景こうけいおそろきを隠せずにいた。


「……副団長」


「何かな、ノエル君」


「なんなんですかね、あの人達……おかしくないですか?」


 【聖騎士】二人は、戦っている少女達、特にローザに度肝どぎもを抜かれていた。

 剣を振り回しているだけにも見えるが、その一振りだけで、大概たいがいの騎士は吹き飛ばされ、重騎士達も転ばされて起き上がれていない。


「確かに……異常いじょうな強さだね、これは」


 オーデインも【聖騎士】の中では強者きょうしゃに入る部類ぶるいだが、この赤髪の女性には勝てる気がしなかった。

 それは、最初に彼女が放った威圧いあつすでに判断できた。


「あの黒髪の子達も……やばいですよ」


 ローザがらした騎士を、ポニーテールの少女が音もなく倒し、それでも起き上がろうとした騎士は、ツインテールの少女が何か不思議ふしぎな杖で感電かんでんさせているように見える。

 心なしか、三人の少女の行動は、疲れているエミリアに気を使っているようにも見えた。


我々われわれ……りますか?」


「……そうも言ってられないさ、【聖騎士】だぞ……?私達は」


 オーデインは、そう言うと細剣を構えて進んで行く。

 ノエルディアも、ため息をきながらも、しっかりとオーデインの後を追った。




 それでも戦況せんきょうは、いまだに大臣側の有利だった。

 だが、すで幾数いくすうもの騎士が倒されて、この【王城区ブリリアント】は悲惨ひさんな状況だった。


「ま、不味まずいぞ……このまま時間がかかれば、王家に知られる……」


 デフィエル大臣は、正直言ってここまで時間がかかるとは思っていなかった。

 少し手をしてやれば、敵はぐにでも投降とうこうすると、降参こうさんすると高をくくっていた。


「んぐぐぐぐぐぐぅ……アレ・・があればっ……!」


 セイドリック・シュダイハも、気持ちのとどかないエミリアに歯噛はがみする。

 無意識むいしきのうちに、セイドリックは槍をにぎっていた。

 【聖騎士】時代に使用していた、金の槍だ。

 そして咄嗟とっさにこうさけぶ。


「――し、勝負しろぉぉっ!【召喚師】ぃ!!」


 槍を高くかかげ、セイドリックは言う。


「お、おいっ!セイドリック殿……何を考えている!――はぶぅ!!」


 そばにいた大臣は、セイドリックの行動にいきどおる。

 自分の策が台無しだろう!と。しかしセイドリックは大臣を突き飛ばし。


「うるさぁいっ!!……おいっ!【召喚師】……僕と勝負するがいい、勝った者が、エミリア・ロヴァルトを自分のものにできる……どうだっ!?」


 セイドリックは戦っているエドガーの元に歩みるとそう言った。


「……貴方あなたは何もわかっていない。戦った所で……貴方あなたが勝った所で、エミリアは貴方あなたのものにはなりませんよっ!」


「――わ、うわぁっ!」


 エドガーがはじき飛ばした騎士が、セイドリックに向かって転がってくる。

 セイドリックはそれをけようとして、つまずいて転んだ。


「が、がっふぅ!……ぐうぇぇ!!」


 転んだ所に騎士が飛んできて、セイドリックはつぶされた。

 しかも、他方面で戦っていたローザがき飛ばした騎士も飛んできて、更に押しつぶされる。

 サンドイッチの様になったその一番下のセイドリックは、完全に気絶きぜつしていた。


「……残ってる騎士はあと、どれくらい?」


「お、おう!……いや、まだまだいるな……」


 エドガーはその様子を歯牙しがにもかけず、アルベールに聞く。

 そそて一呼吸を置き。


「――ローザごめん……使うよ。この状況を打破だはするっ!」


 アルベールに敵はまだ沢山いると言われ、エドガーは一言ローザにそうつぶやくと、剣の先端せんたんに魔力を集める。

 少し離れていたところで戦っていたローザは、エドガーのしようとしている事に敏感びんかんに反応し。


「――だ、駄目だめよっ!エドガー!!――サクヤ!エドガーを止めなさいっ!早く!」


 自分よりも俊敏しゅんびんに動けるサクヤにつたえ、かす。


「し、承知しょうちしたっ!」


 サクヤは一瞬いっしゅんで消えり。

 まばたきもしないうちにエドガーの隣に出現して、あるじの手をおさえる。


主殿あるじどのっ!それはいけませぬっ!」


 ガッとつかまれたサクヤの手に、エドガーは優しく反対の手を重ね、言う。


「……大丈夫だから」


「いや、しかし……」


「――そんなわけないでしょうっ!!」


 エドガーはまた、全力の魔力を使って炎弾をとうとしていると、瞬時しゅんじに判断したローザ。

 絶対に使わせないつもりでいたが、まさかこんなに早く実行しようとするとは思っていなかった。

 おどしのつもりの攻撃なのは分かる。

 相手が驚いているうちに逃げる算段なのだろう。

 だが、それは今すべきことではなかった。

 そしてそれを、ローザだけが、それを理解していた。


 ごたごたし始めていると気付き、それを好機こうきと見たのか。

 大臣は号令ごうれいを開始し、ローザ達を取り囲む。


「――邪魔よっ!どきなさいっ!!」


 ローザは自身の周りに炎を噴豪ふんごうさせ、騎士達はあたふた逃げ惑う。


「エド――ぐ……っ!!」

(そんな……た、たった一度よ……?一度使っただけで……こんなに魔力が……)


 急激きゅうげきな脱力感に、ひざをつくローザ。

 汗も流し、ローザ自身の魔力が尽きようとしている事が分かった。


「……くっ」

(《石》がうずく……駄目よ!落ち着きなさいっ……まだ・・っ!)


 魔力が回復しきっていなかったのが原因げんいんで、“魔力切れマジックダウン”を起こしてしまう。

 そしてそれは、ローザにとって魔力回復の手段でもあった。

 だがそれは、誰にも見られたくない姿だった。


 苦しそうにしつつも、エドガーを見るローザ。

 エミリアとサクラが、そんなローザのもとに近付き声を掛ける。


「ローザ!!」

「ローザさんっ!」


 エミリアは槍をぶん回して騎士達を牽制けんせいし、サクラはかばんから護身用の【激臭ボール】を取り出して騎士たちに投げている。

 エミリアも疲れている。サクラも、もう何度もかばんから物体ぶったいを取り出して魔力を使っていた。


主殿あるじどのっ……ローザ殿達が!」


「分かってる。大丈夫……安心して」


 ローザが言うのはそういう意味ではない。

 この世界に来て、魔力を無くすと言う事は、契約の効果をも失う事だと分かった。

 つまり、エドガーが魔力を無くして寝込んでいたさい、異世界人としてエドガーと契約しているローザやサクラ達もそうとう弱っていたのだ。


 ローザの魔力は本来、一人で国を殲滅せんめつできるほどの魔力を持っている。

 出会った当初「この国を一日でほろぼせる」と言ったのは、大げさではなく事実だったのだ。


 しかし、今。

 たった一度、自分の周囲に炎を巻き起こしただけで、足に力が入らないほど弱ってしまった。

 このまま、またエドガーが魔力を無くせば、また別の症状しょうじょうを引き起こす可能性がある。それはローザだけではなく、サクラやサクヤも同じだ。

 ここで全員が倒れれば、明らかにバッドエンド一直線だ。


 しかしそんなローザの考えもむなしく。

 エドガーの剣先には、ドンドン魔力が収束しゅうそくされていく。


「――くっ……な、なんだ。なにが……」


 エドガーのそばにいたサクヤが、眩暈めまいを起こしてひざからくずれる。


「――やっぱり、足りない分の魔力を、私やサクヤから吸収しているんだわ……きっと無意識むいしきに」


「そ、それって……」


「まずいんじゃ……」


 推測すいそくだが、ローザが“魔力切れマジックダウン”を起こし、サクヤも限界げんかいに近そうなことを考えると。

 おそらくエドガーの炎弾は、不発ふはつに終わる。その後は、蹂躙じゅうりんされる未来エンディングが待つだけだ。


「サクラ……エドガーを気絶させられる?」


「ええっ!?……あ、そういう!!――あっ……で、も……無理かも、あたし……も……な、んだか、眠く……」


 そのまま、サクラもぺたんと座り込んでしまった。


「……サクラも、か」


 ローザは、アレ・・以外に何かさくがないかと頭をめぐらせるが、“魔力切れマジックダウン”のせいで思考しこうはたらかなかった。


「ロヴァルト妹!だ、大丈夫なのっ!?」


 続々と倒れる少女達を見て、【聖騎士】二人がエミリアのもとに来るが、二人共いきが絶え絶えだった。




「ほっほっほ。ここまで、ですなぁ……」


 倒れていく少女達を見て、大臣はニヤリと笑う。


「後は、【召喚師】と疲れ果てた【聖騎士】……グフフ、これは気持ちがいいなぁ」


 大臣は余裕よゆうを見せ、みずから剣を取りエドガーに近づく。


「――くっ!……まだ、収束しゅうそくがっ」


「あ、るじ、殿……逃げ、て……」


 バタリと、隣にいたサクヤも倒れる。


「――サクヤっ!?」


 それに付随ふずいするように、やがてどんどんと、剣先にまっていた炎は小さくなっていき、ついには霧散むさんしてしまった。

 残ったのは、ちりになった炎の残滓ざんしと、エドガーのショックを隠し切れない表情だった。


「――そんなっ!なんで……!くっ!?」


 エドガーはサクヤを守るように、大臣と対峙たいじするが。


「……な、んだ……力が、入らない……?」


 急激きゅうげきな脱力感と疲労感に、カランと剣を落としてひざをつく。


「無様ですなぁ……【召喚師】、安心せい……女どもは、そうだな……セイドリック殿のお父上、シュダイハきょうに世話でもしてもらうかのぉ!!がっはっはっはぁぁぁ!!」


「――このっ!!ぐっ……」


 ゲスな大臣の発言に、エドガーは立ち上がろうとするも、力が入らずたおれる。

 エドガーが見上げる大臣の顔は、“悪魔”にも似た何かに見え、ただ終わりをげる剣の振り下ろしが。

 自分の選択が間違ったのかもしれないという、情けない思考しこうを切断していった。

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