86話【終息へ向かう選択】
◇
セイドリックの前髪を
しかし、その
そんな
エドガーは歩き、騎士の
「き、きき、貴様ぁぁ!貴様がやったのかぁっ!!」
「ごめんね
優しく笑顔を見せるエドガーに、エミリアは涙を
「……エド、どうして……なんで、ここに?」
エミリアを昔の
「――黙りなさい。小虫が……」
「――ぃヒィッ!」
完全に
「ローザ?……サクラ、サクヤも……な、なんで?」
今回の件は、エドガー達には話していない。
もう二日前から会ってもいないのに、どうしてここにいるのかエミリアは分からない。
が、
しかし、助けに来た【
「……おい、あれって【召喚師】だろ……?」
「国に指定された、“不遇”職業の?」
「マジか……それがなんで、あんな
「なわけねーだろ、きっと後ろの女のどれかがやったんだろ……」
――“不遇”職業。
国に指定されている、公式に
本来、そんなものはない。だが、先代先々代から続く“不遇”な生活は、確かに国から受けたものだった。
「
ローザは一瞬で声を黙らせた。
静かで小さな声だが、
「ありがとうローザ……さ、エミィ……帰るよ?」
自分の代わりに声を上げたローザに礼を言い、エミリアの手を引くエドガー。
「き、貴様ぁぁ!我が妻に
「……――
左腕でエミリアを
エドガーは道中で覚悟を決めた。
人として、【召喚師】として、そしてなにより、エドガー個人として出来る事。
エミリアを助けるという事は、下手をすれば国と
そういう事になる。それを
「ぎ、ぎざまぁぁぁぁぁ!この
何度も手を差し出し、エミリアを
その差し出した手は
「まぁ落ち着きたまえ、セイドリック殿……【召喚師】、だったかな?君は……確か、先代の王が指定した……
デフィエル大臣が口の
「だ、大臣
「……ふむ」
この状況でも、デフィエル大臣には強力な切り札がある。
王女
(……この男、
<ローザ。聞こえる?>
<……ええ。聞こえているわ>
<よかった、魔力は大丈夫だね>
エドガーは、一人
<どうしたの?この男を殺す?>
<そんな
<じゃあ、何かしら……?>
<
エミリアやアルベールを連れて、だろう。
<
<馬車を
<馬をやられたら意味ないでしょう?>
<う~ん、どうしようかな……>
<……>
<ローザ?>
ローザは意外だった。
エドガーが、やけに
<なんでもないわ。サクヤサクラはどう思う?>
<<……そこの
同意見でシンクロした。
「うわっ!……あ、ごめん。何でもないよ」
サクヤとサクラの大きな心の声に、つい声を出してしまったエドガー。
エミリアに見られて、あははと
「いやはや、大げさにし
「――それでも、エミリアは渡せません。渡しません」
大臣の圧のような言葉にも、エドガーは
「貴様ぁ!
自分よりも
「ひぃっ!」
「――む、キミは何か!?その目つき……失礼ではないかね!?」
「はぁ?」
デフィエル大臣は、ローザの
その
「と、とにかく……エミリアは渡しません。大臣
「ふむ。そうか……ならば
大臣は腕を上げ、指をパチン!と鳴らす。
最初からそのつもりだっただろう重騎士達が、エドガー達を取り囲んだ。
いつの間にか、【聖騎士】二人もアルベールも、追い込まれてエドガー達の近くに来ていた。
エドガーは中央で合流した人物の中に、もう一人の幼馴染がいることにようやく気付いた。
「あれ?アルベール……アルベールもいたんだね……」
「ああ!いたよっ!初めっからな!……エド、お前落ち着きすぎだろ――っとぉ!」
エドガーに声をかけながら、重騎士の攻撃を
「そうかもね。もう止めたんだよ……うじうじ考えたり、悩んだりするのは……」
迫ってきた重騎士の盾に、エドガーは赤い剣を突き刺した。
「……ひぃっ!」
重騎士は
「すげぇな……それ」
アルベールは剣の
「……使うかい?」
「い、いや……今はいいや、何とかする」
内心使ってみたかったが、
絶対に後で使わせてもらおうと心に決めて。
エミリアも充分に休めたのか、エドガーから少し
そこには、三人の異世界人の姿もある。
「エミリアちゃん、もう大丈夫なの?」
サクラは、手に持った【ロングスタンガン】を騎士に向けてバリバリ鳴らす。
「サクラ……ありがと、正直言ってまだ混乱してるけど……
右にいるサクラ、左にいるサクヤにも
「気にするな!エミリア殿。わたし達は、もう仲間なのだから……」
サクヤは、口元の【赤い仮面】をくいっと直して、笑う。
目元しか見えないが、充分に
「……話はあとでいくらでも出来るわ。
「……ローザ……うん。そうだよねっ!」
槍を力強く
ローザも、真っ赤な大剣を
当然のことだが、身の丈以上もある大剣を片手で持てる人間など早々
「さぁ……燃やされたい奴から、かかってきなさい!」
◇
戦いは再開された。
その中で【聖騎士】二人は、この異常な
「……副団長」
「何かな、ノエル君」
「なんなんですかね、あの人達……おかしくないですか?」
【聖騎士】二人は、戦っている少女達、特にローザに
剣を振り回しているだけにも見えるが、その一振りだけで、
「確かに……
オーデインも【聖騎士】の中では
それは、最初に彼女が放った
「あの黒髪の子達も……やばいですよ」
ローザが
心なしか、三人の少女の行動は、疲れているエミリアに気を使っているようにも見えた。
「
「……そうも言ってられないさ、【聖騎士】だぞ……?私達は」
オーデインは、そう言うと細剣を構えて進んで行く。
ノエルディアも、ため息を
それでも
だが、
「ま、
デフィエル大臣は、正直言ってここまで時間がかかるとは思っていなかった。
少し手を
「んぐぐぐぐぐぐぅ……
セイドリック・シュダイハも、気持ちの
【聖騎士】時代に使用していた、金の槍だ。
そして
「――し、勝負しろぉぉっ!【召喚師】ぃ!!」
槍を高く
「お、おいっ!セイドリック殿……何を考えている!――はぶぅ!!」
自分の策が台無しだろう!と。しかしセイドリックは大臣を突き飛ばし。
「うるさぁいっ!!……おいっ!【召喚師】……僕と勝負するがいい、勝った者が、エミリア・ロヴァルトを自分のものにできる……どうだっ!?」
セイドリックは戦っているエドガーの元に歩み
「……
「――わ、うわぁっ!」
エドガーが
セイドリックはそれを
「が、がっふぅ!……ぐうぇぇ!!」
転んだ所に騎士が飛んできて、セイドリックは
しかも、他方面で戦っていたローザが
サンドイッチの様になったその一番下のセイドリックは、完全に
「……残ってる騎士はあと、どれ
「お、おう!……いや、まだまだいるな……」
エドガーはその様子を
そそて一呼吸を置き。
「――ローザごめん……使うよ。この状況を
アルベールに敵はまだ沢山いると言われ、エドガーは一言ローザにそう
少し離れていたところで戦っていたローザは、エドガーのしようとしている事に
「――だ、
自分よりも
「し、
サクヤは
「
ガッと
「……大丈夫だから」
「いや、しかし……」
「――そんなわけないでしょうっ!!」
エドガーはまた、全力の魔力を使って炎弾を
絶対に使わせないつもりでいたが、まさかこんなに早く実行しようとするとは思っていなかった。
相手が驚いているうちに逃げる算段なのだろう。
だが、それは今すべきことではなかった。
そしてそれを、ローザだけが、それを理解していた。
ごたごたし始めていると気付き、それを
大臣は
「――邪魔よっ!どきなさいっ!!」
ローザは自身の周りに炎を
「エド――ぐ……っ!!」
(そんな……た、たった一度よ……?一度使っただけで……こんなに魔力が……)
汗も流し、ローザ自身の魔力が尽きようとしている事が分かった。
「……くっ」
(《石》が
魔力が回復しきっていなかったのが
そしてそれは、ローザにとって魔力回復の手段でもあった。
だがそれは、誰にも見られたくない
苦しそうにしつつも、エドガーを見るローザ。
エミリアとサクラが、そんなローザのもとに近付き声を掛ける。
「ローザ!!」
「ローザさんっ!」
エミリアは槍をぶん回して騎士達を
エミリアも疲れている。サクラも、もう何度も
「
「分かってる。大丈夫……安心して」
ローザが言うのはそういう意味ではない。
この世界に来て、魔力を無くすと言う事は、契約の効果をも失う事だと分かった。
つまり、エドガーが魔力を無くして寝込んでいた
ローザの魔力は本来、一人で国を
出会った当初「この国を一日で
しかし、今。
たった一度、自分の周囲に炎を巻き起こしただけで、足に力が入らないほど弱ってしまった。
このまま、またエドガーが魔力を無くせば、また別の
ここで全員が倒れれば、明らかにバッドエンド一直線だ。
しかしそんなローザの考えも
エドガーの剣先には、ドンドン魔力が
「――くっ……な、なんだ。なにが……」
エドガーの
「――やっぱり、足りない分の魔力を、私やサクヤから吸収しているんだわ……きっと
「そ、それって……」
「まずいんじゃ……」
おそらくエドガーの炎弾は、
「サクラ……エドガーを気絶させられる?」
「ええっ!?……あ、そういう!!――あっ……で、も……無理かも、あたし……も……な、んだか、眠く……」
そのまま、サクラもぺたんと座り込んでしまった。
「……サクラも、か」
ローザは、
「ロヴァルト妹!だ、大丈夫なのっ!?」
続々と倒れる少女達を見て、【聖騎士】二人がエミリアのもとに来るが、二人共
「ほっほっほ。ここまで、ですなぁ……」
倒れていく少女達を見て、大臣はニヤリと笑う。
「後は、【召喚師】と疲れ果てた【聖騎士】……グフフ、これは気持ちがいいなぁ」
大臣は
「――くっ!……まだ、
「あ、るじ、殿……逃げ、て……」
バタリと、隣にいたサクヤも倒れる。
「――サクヤっ!?」
それに
残ったのは、
「――そんなっ!なんで……!くっ!?」
エドガーはサクヤを守るように、大臣と
「……な、んだ……力が、入らない……?」
「無様ですなぁ……【召喚師】、安心せい……女どもは、そうだな……セイドリック殿のお父上、シュダイハ
「――このっ!!ぐっ……」
ゲスな大臣の発言に、エドガーは立ち上がろうとするも、力が入らず
エドガーが見上げる大臣の顔は、“悪魔”にも似た何かに見え、ただ終わりを
自分の選択が間違ったのかもしれないという、情けない
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