85話【王都の夜の遭遇戦】
◇王都の夜の
エドガー達【福音のマリス】一行から見て。
低いと見られる位置に上がった炎は、下方に吸い
エドガー達は現在、
「今の……!?」
「何かな……今の炎、不自然だよね……?」
「《魔法》ではないみたいだけど」
「見事に昼のようであったな……ですが方角的に、エミリア殿が向かっているはずの方角ですっ。
サクヤの言う通りだ。
王城に向かうには、【
【
しかし、【
「……急がないとっ」
「分かっているわ……しっかりと
ローザの腰に
それをローザは腰で感じながら、
◇
【リフベイン城】にある、【遠見の塔】。
「……いいぞいいぞ、やはり
ジュアン・ジョン・デフィエル大臣は、手に持った
「
ユング・シャ-ビン
「よいのだユングよ。お前の立てた
「……はい。心得ました、
ユングは、満足そうに遠見の“魔道具”で
ユング・シャービンは、王国人ではない。西の隣国、【魔導帝国レダニエス】の軍人である。
大臣と出会い、王城に入り込んでからも、常に帝国への
だがしかし、ここに来て
「――ったく……!私の考えをまるで自分の物のように……それに
「ここもそろそろ
ふとユングも、
「……囲みは完璧ね。【聖騎士】の二人も、簡単には兵に手出しは出来ないはず、後は
いくら自分が聖王国人ではないとは言え、街中で火矢を使う様な戦い方など、自分の立てた
ユング・シャ-ビンは武力で制する戦いはしない。勝手に作戦を
「……聖王国人どもは、間抜けばかりなのね……今に始まったことではないけど、国民
【王都リドチュア】は、【
下町が六区画ある超大都市だ。
どの区画も隣接し、一つ一つの区画が他の街並みに大きい。
一度火が回れば、もう想像は
「まさか……それが分からなくなるくらい
「……いよいよ終わりね……私の、内情から崩す作戦も、馬鹿どものせいでパーだわ。これは早い所、カルストと合流をして……――なっ!?火が……消えた?」
ユングが聖王国からの脱出を考えていると。
いよいよ囲んでいた騎士達から矢が
目標の乗る馬車へと迫ったかと思うと、火矢はその火を消滅させて、その
「あの子……何をしたの?……《魔法》?“魔道具”?」
馬車から飛び出してきた少女が槍を
「……ん?」
遠見の“魔道具”に
「――っ!……あの茶髪は……【召喚師】!?やはり感づかれていたのね……」
この国に
それが【召喚師】エドガー・レオマリスだ。
シュダイハ子爵家が【召喚師】に調べられている可能性は高かった。
その旨も、エリウスには
エミリア・ロヴァルトが【召喚師】エドガーと親密な関係であることも、
「
その少年が乗った馬が、エミリア達がいる【
少年が乗る馬を
「……あれがレディルの言っていた、赤髮の魔法使い?他にもいるわね、黒髪の子供が二人か……まずいわね……このままでは――なっ……!?」
ユングは
「……な、何?……目が、合った……?」
【召喚師】を
「――くっ!な、なに?何なの急に……?汗が、
まるで
この【遠見の塔】から、【召喚師】達がいる
赤髪の女の
「……あれは、ヤバい……」
帝国軍人としての本能が、逃げろと
このままこの国に居れば、命を落とすと。エリウスに
ユングは、遠見の“魔道具”をもう一度
「……む、無理だわ……エリウス様は、アレを敵にしようとしているの?この魔力の
そのまま遠見の“魔道具”をポケットにしまい、ユングは塔を降りるのを再開する。
もう一度レンズを
「なるべく早く、カルストと合流して……」
異様な恐怖を感じたことに、ユング自身が
結局、もう遠見の“魔道具”を使ってローザを見ることは無かった。
◇
「……!」
「ローザ?どうかした……?」
ほんの
「……いいえ。なんでもないわ……」
「そ、そっか……ならいいけど、何かあったら言ってね……」
ローザの腰を持つ手を少し
「ふふっ。分かっているわ……ありがとう、エドガー。エミリアを
ローザはセイドリック・シュダイハを
「――ま、まだ結婚してないよっ!!」
エドガーの
◇
槍を
小さな
どれを見てみても、
絶対に自分のものにしたかった、いや、するのだ。
そう考えた時には、口にしていた。
「と……捕らえろぉぉぉっ!いいなっ!傷はつけるなよぉぉ!?俺の女だぁぁぁっ!!」
目を
当然、指揮官の
セイドリックの言葉を
「この……
エミリアが起こした不思議な
「ノエル!騎士が動く、準備しろっ」
「わ、分かってますよっ!」
オーデインは腰の
ノエルディアも肩に下げた弓を構える、足には接近戦闘用の
「エミリア!アルベール!……悪いが余裕がない。自分の身は自分で守れ、いいね……?」
オーデインはエミリアを
それと同時に、二人を【
「はいっ!」
「……」
アルベールは大きく返事をし、エミリアは黙って
「エミリア。
軽く言い放ち、最前線へ立つオーデイン。
後方ではノエルディアが銀の矢を
「やるしかないな……エミリア」
アルベールは
そしてエミリアの真横に立って言った。その表情は
「うん。やろう!」
「ああ!さあっ!来るぞ……!」
そうして、【聖騎士】四人の戦いが始まった。
◇
「……何をしているんだ……っ!たかが三人、
エミリアを
「はぁぁぁぁぁっ!!」
エミリアの
今、この国に《魔法》のような
騎士達は、エミリアが
何度もジリリと
あの赤い槍で斬られれば、出血だけではなく、
「ええいっ!全員で押しつぶせっ!圧で
目を
エミリアの槍を恐怖するあまり、【聖騎士】が二人もいるという事を忘れがちになっている騎士達は槍に気を取られ、オーデインとノエルディア、アルベールに倒されていく。
「……副団長、だいぶ減りましたね」
「ああ。あっけないが……それが実力の差だろう、それに……」
オーデインはエミリアを見る。
「ですね。ロヴァルト妹の槍に、騎士も
「そうだね……だけど。体力はそうもいかない、か……まだ学生だものな……」
エミリアは
火傷とはいかないが、熱が体力を
「……はぁ……はぁ……はぁ」
(お、おかしいな……私って、こんなに体力無かったっけ……?)
エミリアの疲労、それに気づいたセイドリックは。
「――!おいっ!今だ!捕まえろぉぉっ!」
だが、
「もういい加減に
「だ、黙れっ!!王国に
顔を真っ赤にして
一方エミリアは、ようやくセイドリックを認識した。
「……あの人が、私の……?」
「ああ。セイドリック・シュダイハ
「安心しろよ。お前は俺が守ってやる……兄ちゃんだからな」
ニッと笑って、アルベールは前線に出る。
エミリアは、そんな兄の背を見ながら。
「兄さん……私……――エドに言われたかったよ、その
格好よく決めたつもりが、逆に怒鳴られてしまったアルベール。
「――!……副団長……矢がありません。どうしましょうか」
肩の
「
オーデインは騎士が落とした
「……――!ひっいぃぃぃ!」
セイドリックは、本当に【聖騎士】だったのかと思うような悲鳴を上げて身をよじる。
投げつけられた剣は
「オ、オーデインっ!貴様ぁぁぁぁっ!」
「セイドリック様……ここは一旦、お引かれになった方が……」
「だ、だだ、黙れよっ!目の前にエミリア・ロヴァルトがいるんだぞっ」
「お前らは死んでも、エミリアは捕らえろ!【聖騎士】は殺せばいいだろ!……ほらっ!やれよぉぉっ!」
セイドリックの
「……君たちも大変だね。恐らくはデフィエル大臣の私兵と言った所、だろう?もう分かっているのではないか?……これが、
オーデインは、剣を
「……
オーデインの細剣を
周りを見ても、確かに年寄りや動きのぎこちない騎士が多く、まともに戦えているのはシュダイハ家の
「なるほどね……
正確には大臣ではなく、
ジュアン・ジョン・デフィエル大臣は、
当然、その
そしてその大臣が、更に兵を投入してくることなど、予想もしないまま。
◇
ざわざわと、王城の方から聞こえる
ガシャンガシャンと、金属音をけたたましく
後列の馬車から降りてきた人物は、
「
「こ、これはデフィエル大臣……」
セイドリックも、その他の騎士や
「さて、これはどういう事かな……オーデイン・ルクストバー
「……そうですね。誰かが仕向けたことでさえなければ、そうなのでしょうね」
【聖騎士】は、大臣の
【聖騎士】は、王室の血を持つ人物からの
だから、大臣に
「ふん。よく言うものだ」
大臣は当然白を切る。ノエルディアが小声で「……どっちがだよ、クソ
大臣はずかずかと前に出て、エミリアを目にする。
「ふぅむ……そなたがロヴァルト伯爵の娘か……」
エミリアを守るように、ノエルディアとアルベールが割って入るが、大臣は気にも
「……ほれ、連れて行くがいい。セイドリック殿」
「「「「――!!」」」」
これには、兄妹も【聖騎士】二人も
「大臣!何をお考えかっ……」
「何をも何も……そのままの意味だ。ここに
ローマリア
(……ちっ……
オーデインは
「おお!ああ、なんて美しいんだ……我が妻エミリア……」
カツカツと靴を鳴らせて、セイドリックがエミリアの前に来る。
「……」
エミリアは、何も言わない。
「ああ、いいねその勝気な
もう完全に勝利者のつもりになっているセイドリック。
オーデインもノエルディアも、アルベールでさえも、大臣の持つ
だが、その
動けば、王室に反する
「ほら、こっちに来て!結婚式を
エミリアの手をグイッと
「――い、嫌っ……」
小さな声だった。とても、小さな悲鳴だった。
誰にも聞こえず、声を出したエミリアでさえ、言ったかどうかの声。
だが、それを聞いた人物がいる。
どこにいても聞こえているであろう大切な幼馴染の声を、聞き逃すわけは無い。
エミリアが引っ張られ、セイドリックの胸に
「――うばぁっ!?」
セイドリックは、前髪を
その場にいた全ての人物が、その炎が飛んで来た先を見る。
――そこには。
「……――汚い手で、エミリアに
赤い剣の切っ先をセイドリックに向けた、エミリアの
【召喚師】エドガー・レオマリスが、三人の異世界人を引き連れて
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