不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

63話【不毛な戦い、開戦前】

◇不毛（ふもう）な戦い、開戦前◇

　すぅ。すぅ。と寝息（ねいき）を立てるローザを前にして、エミリアはごくりと喉（のど）を鳴らす。

『うぅ……ど、どうしよう～……』

　相変わらず全裸で、足をおっぴろげたまま眠るローザ。

『大胆（だいたん）過ぎでしょ……』

　サクヤが昨日ローザを起こしに来た時は、どうやら抱きつかれてベッドに引きずり込まれたらしい。何も無かったのが幸いだ。

『ロ、ローザぁ……朝だよ、起きてぇ～』

　起こさねばならないと言うのに、ひよって小声になるエミリア。

｟……か、身体キレイだなぁもう！もうっ！｠

　心の中で、ローザの彫刻（ちょうこく）の様なスタイルを羨望（せんぼう）の眼差（まなざ）しで見つめるエミリア。

　そんな視線（しせん）を感じてか、ローザがくすぐったそうに寝返りを打つ。

　ビクッとその寝返りにビビるエミリアは、完全に泣き顔だった。

『うぅぅ～』

　嫌でも思い出される記憶（きおく）。

　エミリアも、前に何度かローザを起こしたことがある。

　サクヤサクラが“召喚”される前に、ほんの数度だけだが。

　初めの時は偶然（ぐうぜん）にも簡単に起きてくれて、驚（おどろ）いたのは裸であったことくらいなのだが。

　二度目の時はそうもいかなかった。だから余計（よけい）にトラウマになったのだ。

　起こそうとしたエミリアは、寝ぼけるローザに羽交（はが）い絞めにされ、服を脱がされ、メイリンが助けに来るまでローザのおもちゃにされていた。

　しかもローザ本人に自覚（じかく）も記憶（きおく）もなく、ただエミリアが裸で泣き崩（くず）れるだけだったのだった。

｟うううぅぅっ……早く起きてよっ！！｠

　あの時の恥ずかしさを思い出して、エミリアは赤面しながらもローザに一歩、また一歩と近付き、ポンポンと肩を叩く。

『ローザってばっ、起きて！エドの事で話があるんだけど、ローザっ！！』

　エドガーの事を口にすれば反応するかとも思ったが、ローザはまったく動じる事なく眠り続ける。

『もうっ！いったいメイリンさんはどうやって起こしてるの！――？――ひぃっ！！』

　エミリアは突然しゃくりあげるように声を出し、違和感（いわかん）を感じた左手を見る。

　手首は完全に掴（つか）まれ、メイリンの名に反応したのかどうなのかは分からないが、ローザがエミリアを引っ張り、自分のベッドに引きずり混んでいく。

『いいい、いや……いやぁ……』

　首をフルフルと震（ふる）わせて、顔を青ざめるエミリア。

　目を開けないままでも、ニヤリと笑ったように見えたローザは、その力に任せてエミリアの服を剥（は）いでいく。

『なあっ！！』

　抵抗（ていこう）しようとしたエミリアだが、いつの間にかローザが足で身体を挟（はさ）み込んでいた為に、身動きが取れなくなっていた。

『……ふふ、いい匂い――いただきまーす』

『え！？うそっ、待って！待って！待ってローザ！！うそぉぉぉぉぉぉっ！！』

　何と勘違いしたのか、ローザはエミリアの首元をスンスンと嗅ぎ、かぷっとかぶりついた。

『いにゃああああああああああっっっっっっっ！！』

　こうしてエミリアに、また新たなトラウマが追加されたのだった。

『――だから言ったであろうサクラよ……見よこの惨状（さんじょう）、とても悲惨（ひさん）であろう？』

『う、うん。そうね……なんかごめん』

　ドアの隙間（すきま）から、死んだ目をしたエミリアと、そのエミリアの首元にしゃぶりつくローザを目の当たりにしたサクラは、昨日サクヤがこんな目に遭（あ）ったのかと想像して謝（あやま）る。

『言っておくがあそこまではされていないぞ――何を想像（そうぞう）したっ！？』

　自分の頭上にあるサクラを見上げながら。

　酷（ひど）い妄想（もうそう）をされていると思ったサクヤがサクラを睨（にら）む。

　その声が聞こえたのか、死屍累々（ししるいるい）のてっぺんに居そうなエミリアが、悲痛に声を出した。

『……いいか、ら……助け……て……――ガクッ』

　ローザの容赦（ようしゃ）ない攻めに屈（くっ）したエミリアは、自ら「ガクッ」と口で言う。

『――うん。あれはまだ余裕あるわ……行きましょ【忍者】』

『ん？そうなのか？』

『ああっ！待ってぇぇぇ！ごめん！冗談だからぁぁぁっ！！』

　見捨てられそうになったエミリアは、必死になってローザから逃げようとしたが。

　余計（よけい）に攻め手が激（はげ）しくなっただけで、自らの首を絞（し）めていた。

『はぁ。分かったよ……でも、どうしたらいいの？こういっちゃなんだけどさ、あたし近づきたくないよ？』

『わたしもだ、絶対拒否（きょひ）させてもらう』

　二人は腕で“×”を作ってエミリアに見せる。

　黙（だま）ってメイリンが来るのを待つのが最良（さいりょう）の策（さく）だと思うが、エミリアが言う提案（ていあん）を実行するには、異世界人などの会話があるため、メイリンがいない時でないとだめだ。

『お願いっ！無理やりでいいからっ！せめて私を引き剝（は）がしてぇっ――いたたたたっ！』

　グググっと力を入れるが、ローザの腕も足もびくともせずに逆に関節（かんせつ）を固められてしまう。

『――そろそろいいかな』

　ボソッと呟（つぶや）くサクラ。

『……お主は本当に鬼畜（きちく）だな。ゾッとするぞ』

　耳聡（みみざと）く聞こえたサクヤは、半眼（はんがん）でサクラを見る。

『いやいや、冗談だって……アハっ♪』

　最高のスマイルで返すサクラだが。

｟この噓（うそ）の仮面を見事に被る胆力（たんりょく）……やはり、この娘は……｠

『いいから早く……助けてよ～』

　サクヤの思考は、エミリアの助けを求める声で止められた。

『仕方ない……』

　サクラは鞄（かばん）からごそごそと何かを取り出した。

『じゃじゃーん！目覚まし時計～！！』

　そのままである。

『……それでどうするのだ？』

『これはね、中々起きれない一人暮らしの人用に作られた特別品（とくべつひん）なの、耳塞（みみふさ）いでおきなさい【忍者】』

　ふふんと笑い、サクラも自身も耳栓（みみせん）をする。

　エミリアの視線（しせん）が『え？私のは？』と、言っている気がするがスルーして。

『んじゃ、行くわよっ３！２！１！――ポチっとな』

　――瞬間。

　ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリっ！！

『――ぬわぁぁぁぁっ！！』

　サクヤにとっては、大砲よりも凄まじい轟音猛々（ごうおんたけだけ）しい響きが耳を貫（つらぬ）き、そのままのけ反って倒れる。

『だから塞（ふさ）げって言ったじゃない！』

　目を回して倒れるサクヤに、しゃがんで耳栓（みみせん）をしてやるサクラ。

　そしてエミリアとローザを見ると、エミリアは当然目を回してフラフラしているが、ローザはと言うと。

『……ふぁぁ……ぁ、あれ？何やってるのよ、貴女（あなた）達。人の部屋で』

　大音量の目覚ましが鳴る部屋で、呑気（のんき）にあくびをしながら目を覚まし。

　抱きかかえていたエミリアを自然にベッドに寝かせると。

『ちょっとそれうるさいわよ？』

　と、サクラの持つ目覚ましを指差してから、悠々（ゆうゆう）と服を着始めた。

『マ、マジで？』

　ポカーンとローザを見つめるサクラに、限界を迎えたエミリアが。

『お、お願いっ……まずはソレをとめ……て』

　ぱたりと、伸ばしていた手をベッドに落として、力尽（ちからつ）きた。

　ローザが着替え終わり。

　サクラが、脱がされたエミリアを介抱（かいほう）して、四人は食堂へ戻った。

　ズズーンと沈（しず）み込むエミリアと、耳を気にするサクヤ。

　ローザの鈍耳（どんじ）に未（いま）だ驚（おどろ）くサクラと、それらを無視して朝食を頬張（ほおば）るローザ。

　既（すで）にエミリアの提案（ていあん）は話し終えているが。

　食事を終えるまで待ってほしいと言われ、今はこうしてローザの食事待ちだ。

　正直、エミリアの心労（しんろう）が回復するまでのほうが時間がかかると言う予想（よそう）もあるので、ちょうどいいかも知れないとサクラは考えていた。

『ふぅ、今日も美味しかったわ。ごちそうさま』

　ローザが手を合わせて食事を終える。

　今日はサクラが焼いたトーストと、昨日の残ったサラダだったが、サラダは綺麗（きれい）に残していた。サクラの「お残しですか？」の視線は完全無視である。

『で、エミリアの提案（ていあん）？エドガーのお世話って、代わり代わりにやればいいでしょ』

『それはごもっともだよね……』

　ローザの言葉にサクラが同意する。

『え！ちょっ！サクラは私の味方でしょ！？』

　エミリアはバンッ！とテーブルを叩きながら立ち上がり、裏切り者を見るかのような目でサクラを見る。

『いやいや、そんな目で見られてもさ。あたしは元々賛成派（さんせいは）じゃないし』

　賛成（さんせい）したのはサクヤである。

『そーだけど……いいじゃないさぁ！味方してくれてもー！』

　プーっと頬（ほほ）を膨（ふく）らませて、膨（ふく）れっ面（つら）になるエミリア。

　小柄な見た目のせいで、かなり子供っぽい。

『あーはいはい。じゃあ……どうしますか？なんか適当（てきとう）に勝負でもします？』

『勝負……？』

『……勝負？』

『勝負だとっ？』

『あっ……やばっ』

　下手に口にするべきでは無かったと、一瞬（いっしゅん）で後悔（こうかい）する。

　身体を動かすのが得意な三人が見事に反応し。

　サクヤに至（いた）っては目をキラキラさせてサクラを見ている。

『あーもう。あたしも、何をするか決めるって言っちゃったし、いいわよ、やりましょ……その代わり、エミリアちゃんには言ったけど――公平な勝負よ？』

『望（のぞ）むところだよっ』

　むんっと胸を張るエミリア。

　なぜ自信があるのか。

『賭（か）け双六（すごろく）みたいなものだろうか……？』

『――ちっがうわよっ！！』

　スパン！とハリセンではたく。

『ったく……これとか、これなんかどう？』

　サクラは学生鞄（かばん）からゴソゴソと取り出す。

　トランプ、折り畳み式の将棋盤、チェス盤、オセロ盤。

　それぞれの駒を取り出して「ふぅ」と息を吐（つ）く。魔力を使ったのだ。

『後は何かな～？……じゃんけんとか、あっちむいてほい？』

　正直言って長ったらしいのはやりたくないので、短期で決着（けっちゃく）がつくものがいい。

『あ、コレはいいかも！……よっ、と』

　何かピンと来たのか、取り出したのは小さな樽（たる）だ。

『タル？』

　エミリアとローザ、サクヤは不思議そうに樽（たる）を見る。

　これでどうやって戦うと思っているのだろう。

『ローザさん、この穴にはまるくらいの人形って作れます？』

『人形？……出来なくは無いけれど、武器防具以外は作ったことがないわよ？それでもいいなら作ってみるけど』

『はい。構（かま）いません、それじゃあエド君を模（も）した小さな人形でお願いします。この上の穴にハマるくらいの』

『エドガー？』

『主殿（あるじどの）を？』

『なんでエド？』

　三人は意味が解（わか）らずに考えているようだ。

『ここに幾（いく）つもの穴があります。そこにこの剣を差し込み、上に乗せた人形を飛ばした人が負けです。因（ちな）みにどこで飛ぶかは完全にランダムなんで……』

『なるほど、確かにこれなら公平（こうへい）ね』

　魔力も力も使わない対決なら、異世界人だろうがそうでなかろうが関係はない。

『でもなんでエドの人形なの？このお髭（ひげ）の人形でいいんじゃない？』

　エミリアは、デフォルトで置いてある髭（ひげ）の人形を指で小突く。

『ふふん、エド君の人形にした方が緊張感（きんちょうかん）が出るでしょ？』

　ローザは、そんなエミリアとサクラの会話を聞きながら、右手に魔力を籠（こ）める。

　【消えない種火】から最小限の魔力で生まれた炎は、ローザの手の上で形を成し人形になった。

　茶髪の少年を模（も）した人形は見事にエドガーを再現していた。

　若干（じゃっかん）赤みががっているのはご愛敬（あいきょう）だろう。

『おおっ！主殿（あるじどの）だ！似ておるなぁ』

『ホントだ～、可愛（かわい）い～。ねぇローザ、終わったら頂戴（ちょうだい）？』

『あ、ズルいぞエミリア殿。わたしも欲しいと思っていたのに！』

　エミリアとサクヤが思いのほか人形に反応し、キャッキャウフフと姦（かしま）しむ。

『ねぇローザさん……あれってさ』

　サクラはローザに近寄り、小声で予想（よそう）を口にする。

『――消えるよね？』

『ええ。綺麗（きれい）に消えてなくなるわ。だから言わない』

　エミリアなんかはもう慣（な）れてもいいはずなのだが。

　ローザが創（つく）り出した物は、魔力が無くなれば消えてなくなる。

　しかも今回の人形は、最小限の魔力で創（つく）られたものだ。すぐ消える。

『いい性格してますね、ローザさん。アハハ……』

『……サクラもね、フフっ』

　二組に分かれた四人は、人形に喜ぶ幼組（おさなぐみ）と、それが消えたさまを見る陰謀組（いんぼうぐみ）に分かれ、不毛（ふもう）な戦いが始まるのだった。