エピローグ【王女の先見】



◇王女の先見せんけん


 路地ろじ裏をパタパタと走る、小さな足音。

 助けてくれた槍使いの少女には申し訳ないが、今ここでつかまったり面倒めんどうごとを起こすわけにはいかない。

 路地ろじ裏を抜けて、少女は振り向き確認する。


「はぁ、はぁ……追ってきてはいない……わよね?」


 どうやら、あの槍使いの少女がうまくやってくれたみたいだ。と安堵あんどする。

 しかし、ぐ後ろから。


「――ローマリア様」


「!!」


 背後から突然名を呼ばれ、あわてて身構みがまえるが。

 見知った顔にホッと胸をなでおろす。


「なによ……オーデインじゃない……あせらせないでっ!」


 声を掛けて来た青年に近寄ちかより、ポカポカと胸を叩く小柄な少女。


「おたわむれを……殿


 自らが脱いだ白い外套がいとうを、ローマリアと呼んだ少女に掛ける青年。

 その外套がいとうには、《片翼の獅子》が剣を口にくわえた、金色の勲章くんしょうかがやいていた。

 それは、【聖騎士】のあかしだ。この国の精鋭せいえいである最強のあかし


「ありがとう――あ。そうだオーデイン。騎学生の中に、物凄く強い槍使いの娘がいるわよね?」


 【聖騎士】オーデインは眉根まゆねを寄せて。


「ローマリア様。もしかして……いえ、もしかしなくても何かありましたね?」


「――えっ!?」


 ピタリと動きを止め、後ろにひかえる長身の【聖騎士】の視線しせんを受けるローマリア。


「勝手に城を抜け出して……いなくなったかと思えば……」


 「こんな時に」と頭をかかえるオーデイン。


「し、仕方がないでしょっ!あの黒煙こくえんがなんだか気になったんだもの!……結局、見に行けなかったけど……」


 収監所しゅうかんじょけむりが気になり、城を抜け出してまで見に行こうとしていたのだ。この聖王国の王女であるこの少女は。


私共わたしどもにおつたえ頂ければ、後でいくらでもご報告しますが……」


 オーデインは、この抜け出しくせのある王女、ローマリアの護衛騎士の一人だ。


「それじゃダメよ!姉上は、けっして教えてくれないもの!」


「しかしですね……」


 食い下がるローマリアにオーデインはまいる。

 いつものこととはいえ、このお転婆てんば王女の言い出すことは突飛とっぴ大胆だいたんだ。

 ついていけない時もある。


「なら教えて頂戴ちょうだい!?……【ゴウン】で何があったの!?脱走?暴徒ぼうと?」


「……現在調査中としか」


 ローマリアは羽織はおった外套がいとうをオーデインの顔に投げつけ。


「ほらねっ!いっつもそうだわ――何かあれば、いつも調査調査って……答えを聞いた事なんてないもの!」


「……」


 今回の騒動で、【聖騎士】に出撃命令は出ていない。

 王城も気付いてはいる筈だが、一向に騎士たちに命令は下されず、ただ「待機していろ」と言われるだけだった。


「――帰るっ!!」


 ぷんすかと怒り、王城の方へ歩き出すローマリア。


「いいことオーデイン!……槍使いのむすめを調べ上げなさい……物凄い使い手だったんだから!……もしかしたら、貴方あなたよりも強いかもしれないわよ?」


 そんなむすめがいれば、すでに【聖騎士】に成っていますよと、心の中で愚痴ぐちりながら、オーデインは返事をした。


「了解しました。ですが、調べてどうするおつもりなのですか?」


 ローマリアは笑う。


「決まっているでしょう……私の、【聖騎士・・・】にするのよ」


 と、本人の居ないところで。

 エミリアの運命は――《石》のように転がり始めたのだった。




 ~忍者VS女子高生~ 終。

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