42話【停動眼と呼ばれる眼】



停動眼ていどうがんと呼ばれる


 ~宿屋【福音のマリス】・食堂~


 ようやく全員が席に着き、エドガーが一番はしに着いた。

 その右隣にローザ。正面にサクラ。サクラの隣はサクヤが座っている。

 エミリアは、食堂の入口(ロビーに近い場所)でメイリンがまだ来ていないかを確認している。


「うん、まだ大丈夫みたい……メイリンさんが来る気配けはいはないよ」


 確認を終えて、エドガーとサクラのあいだ、俗に言う誕生日席の場所に座るエミリア。

 そのエミリアの言葉にうなずき。エドガーが話を始める。


「まずは、サクラのひたいの《石》だけど……これは多分、ローザの【消えない種火】と同じ、“魔道具”だよ」


 エドガーは、テーブルに置かれるローザの右手を取り、そのかがやく《石》と同義存在であることをしめす。


「ちょ、ちょっとエド……」


 自然にローザの手を取るエドガーに「それはダメ」だと注意するエミリア。


「あ。ごめんローザ……つい」


 “魔道具”がからむと、恥ずかしさもうすれて女の子の手を取れるらしい。


(――使える)


「ローザも変な事たくらまないで」


 ローザの内心を読んだのか、エミリアはローザにも釘を刺す事を忘れなかった。


「……ちっ」


 そっぽを向くローザ。

 そんなやり取りをしつつ、今回の話の中心の一人であるサクラが。


「“魔道具”ねぇ……これがぁ?」

(傷があった位置に……《石》とか……まぁ、隠れてラッキーかな)


 サクラはひたいの《石》を爪の先でツンツンと叩く。


「――うん。【朝日のしずく】って言う“魔道具”で……二人を“召喚”する時に、触媒しょくばいに使った“魔道具”なんだけど……」


「わたしには無いのだが……」


 サクヤは残念そうに言うが、サクラは。


「はぁ……おでこに《石》とか……意外とハズいんだけど」


 物凄く面倒臭そうに、物を投げる仕草をし、サクヤに返事を返す。


「ハズ……なに?」


 短略語たんりゃくご理解りかいできずに、首をかしげるサクヤ。

 それを見つつも、エドガーは話を続ける。


「で、契約の力……って言うのは、“召喚”された時も話しましたけど、ローザのこの《石》は、炎を操る力があるんです。その力が、少しだけど僕も使える・・・・・ようになってる」


 【異世界召喚】の“契約者”。

 その効果は、はっきり言ってしまうと。

 異世界人と同じ能力、その劣化版を使える様になる事だ。


「え!じゃあ、あたしはここから火でも出すの……?」


「――ぷふっ!」


 ローザが吹き出した。

 髪を上げてひたいから炎を放つサクラの姿を想像したようだ。


「な、なにも笑わなくてもっ!」


「……ご、ごめんなさい」


 エミリアも同じ想像をしていたらしく、顔をせてプルプルしている。

 気付いたのはエドガーだけだが。


「……まぁ、これから話すよ……」


「――う、うん」


 サクラは少し不安げにエドガーの言葉にうなずき、返事をする。

 しかしサクラの能力、いては【朝日のしずく】の能力だが、エドガーとローザは、大方の見当けんとうは付いていた。


 エドガーがサクラとローザの心の声を聞いた事。

 そしてサクヤもそれを聞いていたことを考えれば、答えは一つだろう。


「多分。サクラの能力は異世界人同士の【心の会話】だと思う……そしてその契約の効果で、僕にも聞こえてしまったんだと思う……すみません」


 勝手に聞こえてしまった事をサクラに謝罪するエドガーに「そうね」と、ローザも同じ考えで同意する。


「――エミリアには聞こえない点をふくめても、それで確定でしょう」


 大浴場での会話は、エドガーとサクヤが聞いていた。

 そして先程、エドガーとローザが、心で会話をしていた。


「会話だけじゃなくて他にも何かあるかもしれないけれど……そうね【心通話】……とでもしておきましょうか」


 ローザはいち早くこの能力に気付いて、エドガーに会話をして来た。


「効果対象たいしょうはエドガーが言った通りでしょう。私達、異世界人の三人と“契約者”のエドガーだけ……《石》を通じて繋がっている、と思うけれど……」


 そう言いながら、ローザはサクヤを見る。


「……ん?」


 腕を組み、ピンと背筋を伸ばして話を聞いていたサクヤ。

 皆の視線しせんを集めて何を思うのか。


「――すまぬ、皆目かいもく見当がつかない」


「「「……」」」

「……――貴女あなたねぇ」


 言葉をなくしたエドガー達だったが。

 ローザだけは反応を見せて、ゴウッ!!と右手から炎を燃やす。


「――!!す、すまぬっ、大体は聞いていたのだが、能力やら契約やら意味不明で……」


 炎にビクッとして、ローザに頭を下げるサクヤ。

 エドガーはローザに「まぁまぁ」となだめる。


「……ちょっとやってみようっと」


 ローザににらまれているサクヤを尻目に、サクラは能力を使おうとエドガーを見つめる。


「いや、見られてもっ――」


「しっ、黙ってエドガー」


 恥ずかしいから「見ないで」と思ったが、何故なぜかローザに口をふさがれた。


「「……」」

「……あ、あれ?」


 全くエドガーにつたわらなかった模様もよう


「おかしいな~、なんでだろ」


 サクラはひたいさわる。

 【朝日のしずく】をツンツンとつつき。


<エド君につたわんなかったかぁ、どうやって使うのよコレ>


「え、何を……?」

「今使ってるわね」


 エドガーとローザが反応する。


「えっ?出来てた?ちょっともう一回」


 もう一度エドガーを見つめるサクラ。


<エド君、お風呂ありがとうっ!>


<……ど、どういたしまして?>


<あ、聞こえた。聞こえたよエド君!すごっ!>


 声を出さずに、椅子いすから立ち上がって喜ぶサクラ。


<そうだね……>


<私も聞こえているし、サクヤも聞こえてるわよね?>


 サクヤを見るローザだが、何故なぜ威圧いあつ的だ。


「――!き、聞こえているっ」


<【忍者】声出てんじゃん>


「……う。すまぬ」


<エミリア?聞こえる?……エミリア!>


 エドガーは、静観せいかんしているエミリアに【心通話】をこころみるが。

 当然、キョトンとしてエドガーに言う。


「――ん?なにエド、そんなに見られたら恥ずかしいんだけど」


 「てへへ」と照れるエミリア。

 やはりエミリアには出来ないようだ。


「だ、大丈夫だよエミリアちゃん!こんな能力、滅多めったに使わないって……」


 サクラは、エミリアだけが蚊帳かやの外だという空気を読んで、エミリアの背後に回って、肩を揉み始める。


「……へ?うん。そう?」


「そうだよ!気にしない気にしないっ」


 サクラのフォローで、エミリアはへこむことはなかった。多分サクラの行動の意味は分かっていない。

 そんな二人を見ながらもローザは。


<……エドガー>


<あ、なんです――なに?>


 中々れない話し方で、何度も敬語けいごになりかけるエドガー。

 心の会話でも同様で、度々たびたび言い直す。


<これからサクヤを調べるから。目を閉じていなさい>


「<え?>」


<――な、わたしの意思はっ!?>


 突然白羽しらはの矢が立ったサクヤは驚く。


<何で【心通話】で言ったの?>


 別段べつだん口に出してもよさそうだが、何故なぜか心の会話を進めるローザ。

 【心通話】の練習なのだろうかと思ったエドガーだが、次にローザが放った言葉でさとる。


<サクラも手伝いなさい。聞いていたでしょう?返事は口で)


「え?は、は~い」


「――え!」


 固まるエミリア。いきなりサクラが返事をしたことでピンと来たのだろう。

 残念なことに、ローザはエミリアの反応を面白がる為に、わざとサクラに返事をさせたのだ。


「ロ、ローザ……流石さすがに意地が悪いよ」

「ローザさん、ちょっと引きます」

「……くわばらくわばら」


 無表情のまま涙目になるエミリア。そんなにも悲しかったらしい。


「あっ、エミリアちゃん!大丈夫!大丈夫だよ~」


 必死にエミリアをフォローするサクラ。


「ふふっ。サクラは苦労くろうしそうね」


「笑い事じゃないんですけどっ!!」


 無表情で泣くエミリアを見て笑うローザと、そのエミリアをなぐさめるサクラ。

 そして、この次に被害にう可能性があるサクヤは。

 文字通り忍び足で、ローザから逃げようとしていた。





 前日。【下町第三区画コラル】の小屋。


「――やあ。遅かったじゃないかレディル」


 少年とも少女とも取れる声音こわねで、青いフードを被った人物が我が物顔で椅子いすに座っていた。


「……ちっ!――来てんじゃねぇよ」


 レディルと呼ばれた青年は、テーブルにある【林檎酒クォル】をガッとつかむと、それを一気にあおり。空になったびんを投げ飛ばす。

 ガシャァァァン!!と割れた酒瓶さかびんは。


「――ぅっ!」


 ぞばにいた少女、リューグネルト・ジャルバン。

 リューネに当たりそうになっていた。

 リューネは顔を真っ赤にらしており、レディルに殴られたほほおさえる。しかしその視線しせんはベッドの上。

 大切な弟が眠る、ボロボロの簡易かんいベッドだ。


「あ~あ。ダメだなぁレディル、女の子には優しくしないと……」


 青いフードの人物は立ち上がり。

 リューネに近寄ると、右袖を腕まくりして腕輪を露出ろしゅつさせる。


「――わ、私」


 不安げにおびえるリューネに、フードの人物はひざまずいて、リューネの赤くれたほほれる。


 顔にれられて、ビクッとするリューネ。

 そのおびえる姿には、騎士学校学年一位の面影おもかげはなく、恐怖にしばられた年相応としそうおうの少女にしか見えない。


「――大丈夫。傷を治してあげるよ」


 フードの人物はリューネの服を脱がす。


「……レディル――君はいつもやりすぎなんだよ」


 リューネの身体にはいくつものあざや傷があり、エドガー達と戦って出来たものではない傷が無数にあった。

 フードの人物はぐにそれに気づいたのか、レディルを問いただしたのだ。


「ああ――そいつがうるせーからな。分からせてやっただけだ」


 チーズを口に運びながら、邪悪じゃあくな笑みを浮かべるレディル。

 本心から悪いと思っていないのだろう。


「――そうかい」

(まったく……だから言ったのよカルスト……あの人の命令だからと言って、レディルに女の手綱たづなにぎらせるのは無理よ。それに、個人的にもこのやり方は気に食わない……)


 フードの人物は、リューネを安心させるためにフードを脱ぐ。

 ――青い髪。フードの下から現れた綺麗な青髪に、リューネは驚く。


「……綺麗」


「……」


「――あ、すみませんっ!」


 咄嗟とっさに出てしまった言葉だが、怒らせてしまったかもしれないと謝罪しゃざいするリューネ。


「いいのよ……わたくしは、この馬鹿おとこの上司のようなもの……女の子に傷を負わせて……ごめんなさいね」


「お、おいっ!」


 口調くちょうを変え、笑顔を見せる。

 レディルは途端とたんあせり出すが。


「黙っていなさいレディル。命令よ」


「……ちっ!!知らねーからな」


 腕輪がきらめき、もう一度リューネのほほれる。

 すると、みるみるうちに治癒されていくリューネの傷。


「……これは……どうして」


 リューネは単純に驚くが、青髪の少女は。


「凄いでしょう?……これはね、の“魔道具”。その加工品なのよ」


「――っ!?……おいっエリウス!!」


 エリウスと呼ばれた少女に、レディルは大きな声で怒鳴どなる。


「お前なぁ。ざけんなよ!?何のために俺やカルストが――」


五月蠅うるさいわね……黙りなさいレディル。このやり方はかないわ」


 そこには、グレムリンを操っていた時と同じ人物とは思えない高貴こうきあふれた少女がいた。


「――いいのかよ……エリウス殿下」


 レディルが殿下と呼ぶその少女は。


「構わないわ……気に入ってしまったのよ、この子リューネを」


「……?」


 リューネには、何が何だか理解できていなかった。

 傷を回復してくれたその青髪の少女が、リューネの人生を変えるなどと、この時は思いもしていなかったのだ。





 場所は戻り、宿屋【福音のマリス】・食堂。


「逃げようとしても無駄よ……サクヤ」


 身の危険を感じたサクヤが逃走を試みたことを、当然ローザが気付かぬわけはなく。

 全ての出入り口は赤い障壁しょうへきはばまれて、完全に封鎖ふうさされていた。


「――な、何をする気なのだぁ!!」


 壁際かべぎわに追いやられ、背中を壁にあずけてローザにおびえるサクヤ。

 助けてくれると思っていたあるじエドガーは、ローザに言われた通りに目を閉じている。

 サクヤは、不服ふふくだが仕方がないと、希望を持ってサクラを見るが。

 ただただ、涙を流すエミリアを必死になぐめる姿を目にし。

 残念ながらサクヤの目から光が失われた。




「……なるほどね」


 素っ裸にされたサクヤは、ローザに成すがままになっていた。


「――うう、わたしは【くノ一】……わたしは【くノ一】、こんなはずかしめは宿命しゅくめいなのだぁ」


「な、何言ってんのあんた……マンガの読みすぎ――は、あるわけないか」


 ローザを手伝い始めたサクラがサクヤにツッコむが、そもそも《戦国時代》にマンガらしいマンガがあっただろうかと思い、途中とちゅうで止める。


「サクラよ……裏切うらぎりのばつは大きいぞ」


 光の無い目で、サクラをにらむサクヤ。

 そもそも、サクヤを裏切うらぎるどうこうの前に、サクラはサクヤの味方になったつもりはない。

 ただ単に、協力する相手がエドガーと言う少年で一致いっちしているだけだ。


「あーはいはい。――で、ローザさん。何かわかりました?」


 サクヤのうらめしい視線しせんを無視して、サクラはローザに近付く。

 食堂のテーブルの上で、まな板の上の魚のようなサクヤの身体をあちこち調べ上げたローザは言う。


「身体的には何もないわね――反応はあるのだけれど」


 ローザは【消えない種火】の共鳴きょうめい反応を認識にんしきしているからこそ、サクヤを調べている。


「……もういいのだろうか?」


「ええ、いいわ。服を着なさい」


 自分から脱がせておいてそんなことを言うのか、と心で思うも押しとどめたサクヤ。


<あ、あんな所やそんなところまで見られてしまった……これではお嫁に――あ、そう言えばわたしは、嫁に出されたのだったな>


「――えっ!?……あ!」


 サクヤの心の声を聞いてしまった人物、エドガーが思わず声を上げる。


「ちょっと【忍者】!なに【心通話】でエド君に話してんのよっ……てか嫁!?」


 サクラも聞いていたらしい。


「むっ!?思った以上に使い方が分からないぞっ、勝手に聞こえてしまったようだが……この不完全能力め!」


 テーブルに胡坐あぐらをかきながら、サクヤはサクラに愚痴ぐちを言う。

 自分の能力を悪く言われて頭に来たのか、サクラも突っかかる。


「――はぁっ!?好きでこんな能力になったわけじゃないし……つーか早く服着なさいよっ!!エド君はどさくさで見ないのっ!!」


「――ご、ごめんなさいっ!」


 エドガーは、声に驚いて顔を上げてしまっていた。サクラに怒られぐに顔をせる。


「わたしは……主殿あるじどのにならば、見られても許容きょようするが……」


 ほほを赤らめて、クネクネと動くサクヤ。その動きにイラッとしたサクラが。


「この――ドスケベ忍者ぁ!!」


 サクラは壁にかかっていたほうきを手に取り、大きく振りかぶってサクヤの脳天のうてんをめがけて振り下ろした。

 ガッ!!と、むなしくテーブルを叩く。


「――いっったぁ~……あ、あれ?――【忍者】?」


 サクラが叩いた先は、完全にサクヤが座っていた場所だ。

 寸分すんぶんくるいもなく、的確に狙われていたはずだが。

 そこにサクヤの姿はなく、服だけが残っていた。


 一瞬、静寂せいじゃくに包まれる面々めんめん

 そして言葉を放ったのはローザだ。


「――そこっ」


 右手から極小の熱針ねっしを作り出して、先程から放心状態だったエミリアの背後に飛ばす。


「――はうあっ!!」


「「「「……」」」」


 エミリアの背後で、裸のまま四つんいになり、お尻に赤い針を刺したサクヤが、悶絶もんぜつしていた。


「うぬぅぅ!ぬ、抜いてくださいお願いしますっ」


 左眼をあやしくかがやかせて、涙目になるサクヤ。


「――もう何からツッコんだらいいか分かんないから、とりあえずエミリアちゃん。エド君の目をふさいでくれる?」


「えっ、あ。うん」


「えぇっ!?」


 また見ていてしまったエドガー。

 と、ようやく放心状態から解放かいほうされたエミリアが、エドガーの背後に回り込み目隠しする。


「……エドのえっち」


「ふ、不可抗力ふかこうりょくじゃないかぁ……」


 驚いたりしたら条件反射じょうけんはんしゃで見てしまうだろう。なんて言い訳は、おそらく通用しないのだろう。





「【停動眼ていどうがん】?」


「う、うむ……そうなのだ」


 お尻をさすりながら、テーブルから消えた絡繰からくりを説明するサクヤ。

 エドガーも目隠しから解放かいほうされ。エミリア、サクラと共に聞いている。

 唯一ローザだけがテーブルに座り、綺麗に足を組んで、赤い長剣を手でポンポンとしている。


(……うわぁ、バリバリの女教師じょきょうしみたい)


 メガネがあったら完璧。と思ったサクラ。


「……で、その眼はいつからなの?もしかして“召喚”の時の?」


 サクラはさっきの力が“召喚”の特典とくてんではないかと考え問う。

 サクヤの眼は、今もまだ黒くかがやく。


「違うぞサクラ……わたしのコレは生まれつきだ。【魔眼】と呼ばれるもので、み嫌われているのだが……この力は、わたしの視野にうつるものの動きをにぶらせたり、止めたりする事が出来るのだ」


 「一時的ではあるが」と真面目に答えるサクヤ。


「へぇ……それでさっきも、私から逃げようとした――と」


「――ぅひぃっ!!」


 実は、初めサクヤが逃げ出そうとした時、既にローザは違和感いわかんを感じていた。

 だから違和感いわかんを感じた瞬間に、部屋を封鎖ふうさしたのだ。

 そのせいで、余計よけいに怒っている。


「ちち、ちが、違うぞローザ殿……」


 ローザの背後で燃える様に見える炎が、サクヤには恐怖らしい。

 実際じっさいは炎など出していないが。


「何が違うのかしらね……教えてほしいものだわ……」


 テーブルに座ったまま、足を組み直すローザ。


「ローザ。その辺で……」

「そうだよ……サクヤ、本気でおびえてそう」


 エドガーとエミリアにたしなめられて、ようやくローザはテーブルから降りた。


「た――助かったのですっ!主殿あるじどの、エミリア殿!」


 エドガーとエミリアにすがって喜ぶサクヤに、エドガーも笑みをこぼす。


「あれ……?よく見たらサクヤのその眼……とっても綺麗だ。まるでみたいだね」


 突然、サクヤのあごをクイッと上げて、エドガーは顔を近付ける。

 その距離は、今にもくちびる同士がくっつきそうなほどだ。


「――なっ!?」

「エドっ!?」

「あ、あごくいぃっ?」


「なななななっなぁぁぁぁぁ!!」


 三人の少女は各々おのおの反応を見せるが、一番異常な反応を示したのはサクヤだった。

 顔は真っ赤になり、目は視点が合わなく、頭からプスプスと煙を出して。

 言われた左眼の黒いかがやきも、サクヤの意志に反して元に戻った。

 そして――きゅ~~~~~!と倒れてしまった。


「――えっ?」


 エドガーはただ、宝石のようにかがやくサクヤの眼を見たかっただけなのだが。

 無自覚に女の子を気絶させてしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る