42話【停動眼と呼ばれる眼】
◇
~宿屋【福音のマリス】・食堂~
ようやく全員が席に着き、エドガーが一番
その右隣にローザ。正面にサクラ。サクラの隣はサクヤが座っている。
エミリアは、食堂の入口(ロビーに近い場所)でメイリンがまだ来ていないかを確認している。
「うん、まだ大丈夫みたい……メイリンさんが来る
確認を終えて、エドガーとサクラの
そのエミリアの言葉に
「まずは、サクラの
エドガーは、テーブルに置かれるローザの右手を取り、その
「ちょ、ちょっとエド……」
自然にローザの手を取るエドガーに「それはダメ」だと注意するエミリア。
「あ。ごめんローザ……つい」
“魔道具”が
(――使える)
「ローザも変な事
ローザの内心を読んだのか、エミリアはローザにも釘を刺す事を忘れなかった。
「……ちっ」
そっぽを向くローザ。
そんなやり取りをしつつ、今回の話の中心の一人であるサクラが。
「“魔道具”ねぇ……これがぁ?」
(傷があった位置に……《石》とか……まぁ、隠れてラッキーかな)
サクラは
「――うん。【朝日の
「わたしには無いのだが……」
サクヤは残念そうに言うが、サクラは。
「はぁ……おでこに《石》とか……意外とハズいんだけど」
物凄く面倒臭そうに、物を投げる仕草をし、サクヤに返事を返す。
「ハズ……なに?」
それを見つつも、エドガーは話を続ける。
「で、契約の力……って言うのは、“召喚”された時も話しましたけど、ローザのこの《石》は、炎を操る力があるんです。その力が、少しだけど
【異世界召喚】の“契約者”。
その効果は、はっきり言ってしまうと。
異世界人と同じ能力、その劣化版を使える様になる事だ。
「え!じゃあ、あたしはここから火でも出すの……?」
「――ぷふっ!」
ローザが吹き出した。
髪を上げて
「な、なにも笑わなくてもっ!」
「……ご、ごめんなさい」
エミリアも同じ想像をしていたらしく、顔を
気付いたのはエドガーだけだが。
「……まぁ、これから話すよ……」
「――う、うん」
サクラは少し不安げにエドガーの言葉に
しかしサクラの能力、
エドガーがサクラとローザの心の声を聞いた事。
そしてサクヤもそれを聞いていたことを考えれば、答えは一つだろう。
「多分。サクラの能力は異世界人同士の【心の会話】だと思う……そしてその契約の効果で、僕にも聞こえてしまったんだと思う……すみません」
勝手に聞こえてしまった事をサクラに謝罪するエドガーに「そうね」と、ローザも同じ考えで同意する。
「――エミリアには聞こえない点を
大浴場での会話は、エドガーとサクヤが聞いていた。
そして先程、エドガーとローザが、心で会話をしていた。
「会話だけじゃなくて他にも何かあるかもしれないけれど……そうね【心通話】……とでもしておきましょうか」
ローザはいち早くこの能力に気付いて、エドガーに会話をして来た。
「効果
そう言いながら、ローザはサクヤを見る。
「……ん?」
腕を組み、ピンと背筋を伸ばして話を聞いていたサクヤ。
皆の
「――すまぬ、
「「「……」」」
「……――
言葉をなくしたエドガー達だったが。
ローザだけは反応を見せて、ゴウッ!!と右手から炎を燃やす。
「――!!す、すまぬっ、大体は聞いていたのだが、能力やら契約やら意味不明で……」
炎にビクッとして、ローザに頭を下げるサクヤ。
エドガーはローザに「まぁまぁ」と
「……ちょっとやってみようっと」
ローザに
「いや、見られてもっ――」
「しっ、黙ってエドガー」
恥ずかしいから「見ないで」と思ったが、
「「……」」
「……あ、あれ?」
全くエドガーに
「おかしいな~、なんでだろ」
サクラは
【朝日の
<エド君に
「え、何を……?」
「今使ってるわね」
エドガーとローザが反応する。
「えっ?出来てた?ちょっともう一回」
もう一度エドガーを見つめるサクラ。
<エド君、お風呂ありがとうっ!>
<……ど、どういたしまして?>
<あ、聞こえた。聞こえたよエド君!
声を出さずに、
<そうだね……>
<私も聞こえているし、サクヤも聞こえてるわよね?>
サクヤを見るローザだが、
「――!き、聞こえているっ」
<【忍者】声出てんじゃん>
「……う。すまぬ」
<エミリア?聞こえる?……エミリア!>
エドガーは、
当然、キョトンとしてエドガーに言う。
「――ん?なにエド、そんなに見られたら恥ずかしいんだけど」
「てへへ」と照れるエミリア。
やはりエミリアには出来ないようだ。
「だ、大丈夫だよエミリアちゃん!こんな能力、
サクラは、エミリアだけが
「……へ?うん。そう?」
「そうだよ!気にしない気にしないっ」
サクラのフォローで、エミリアはへこむことはなかった。多分サクラの行動の意味は分かっていない。
そんな二人を見ながらもローザは。
<……エドガー>
<あ、なんです――なに?>
中々
心の会話でも同様で、
<これからサクヤを調べるから。目を閉じていなさい>
「<え?>」
<――な、わたしの意思はっ!?>
突然
<何で【心通話】で言ったの?>
【心通話】の練習なのだろうかと思ったエドガーだが、次にローザが放った言葉で
<サクラも手伝いなさい。聞いていたでしょう?返事は口で)
「え?は、は~い」
「――え!」
固まるエミリア。いきなりサクラが返事をしたことでピンと来たのだろう。
残念なことに、ローザはエミリアの反応を面白がる為に、わざとサクラに返事をさせたのだ。
「ロ、ローザ……
「ローザさん、ちょっと引きます」
「……くわばらくわばら」
無表情のまま涙目になるエミリア。そんなにも悲しかったらしい。
「あっ、エミリアちゃん!大丈夫!大丈夫だよ~」
必死にエミリアをフォローするサクラ。
「ふふっ。サクラは
「笑い事じゃないんですけどっ!!」
無表情で泣くエミリアを見て笑うローザと、そのエミリアを
そして、この次に被害に
文字通り忍び足で、ローザから逃げようとしていた。
◇
前日。【
「――やあ。遅かったじゃないかレディル」
少年とも少女とも取れる
「……ちっ!――来てんじゃねぇよ」
レディルと呼ばれた青年は、テーブルにある【
ガシャァァァン!!と割れた
「――ぅっ!」
リューネに当たりそうになっていた。
リューネは顔を真っ赤に
大切な弟が眠る、ボロボロの
「あ~あ。ダメだなぁレディル、女の子には優しくしないと……」
青いフードの人物は立ち上がり。
リューネに近寄ると、右袖を腕まくりして腕輪を
「――わ、私」
不安げに
顔に
その
「――大丈夫。傷を治してあげるよ」
フードの人物はリューネの服を脱がす。
「……レディル――君はいつもやりすぎなんだよ」
リューネの身体にはいくつもの
フードの人物は
「ああ――そいつがうるせーからな。分からせてやっただけだ」
チーズを口に運びながら、
本心から悪いと思っていないのだろう。
「――そうかい」
(まったく……だから言ったのよカルスト……あの人の命令だからと言って、レディルに女の
フードの人物は、リューネを安心させるためにフードを脱ぐ。
――青い髪。フードの下から現れた綺麗な青髪に、リューネは驚く。
「……綺麗」
「……」
「――あ、すみませんっ!」
「いいのよ……
「お、おいっ!」
レディルは
「黙っていなさいレディル。命令よ」
「……ちっ!!知らねーからな」
腕輪が
すると、みるみるうちに治癒されていくリューネの傷。
「……これは……どうして」
リューネは単純に驚くが、青髪の少女は。
「凄いでしょう?……これはね、
「――っ!?……おいっエリウス!!」
エリウスと呼ばれた少女に、レディルは大きな声で
「お前なぁ。ざけんなよ!?何のために俺やカルストが――」
「
そこには、グレムリンを操っていた時と同じ人物とは思えない
「――いいのかよ……エリウス殿下」
レディルが殿下と呼ぶその少女は。
「構わないわ……気に入ってしまったのよ、
「……?」
リューネには、何が何だか理解できていなかった。
傷を回復してくれたその青髪の少女が、リューネの人生を変えるなどと、この時は思いもしていなかったのだ。
◇
場所は戻り、宿屋【福音のマリス】・食堂。
「逃げようとしても無駄よ……サクヤ」
身の危険を感じたサクヤが逃走を試みたことを、当然ローザが気付かぬわけはなく。
全ての出入り口は赤い
「――な、何をする気なのだぁ!!」
助けてくれると思っていた
サクヤは、
ただただ、涙を流すエミリアを必死に
残念ながらサクヤの目から光が失われた。
「……なるほどね」
素っ裸にされたサクヤは、ローザに成すがままになっていた。
「――うう、わたしは【くノ一】……わたしは【くノ一】、こんな
「な、何言ってんのあんた……マンガの読みすぎ――は、あるわけないか」
ローザを手伝い始めたサクラがサクヤにツッコむが、そもそも《戦国時代》にマンガらしいマンガがあっただろうかと思い、
「サクラよ……
光の無い目で、サクラを
そもそも、サクヤを
ただ単に、協力する相手がエドガーと言う少年で
「あーはいはい。――で、ローザさん。何かわかりました?」
サクヤの
食堂のテーブルの上で、まな板の上の魚のようなサクヤの身体をあちこち調べ上げたローザは言う。
「身体的には何もないわね――反応はあるのだけれど」
ローザは【消えない種火】の
「……もういいのだろうか?」
「ええ、いいわ。服を着なさい」
自分から脱がせておいてそんなことを言うのか、と心で思うも押しとどめたサクヤ。
<あ、あんな所やそんなところまで見られてしまった……これではお嫁に――あ、そう言えばわたしは、嫁に出されたのだったな>
「――えっ!?……あ!」
サクヤの心の声を聞いてしまった人物、エドガーが思わず声を上げる。
「ちょっと【忍者】!なに【心通話】でエド君に話してんのよっ……てか嫁!?」
サクラも聞いていたらしい。
「むっ!?思った以上に使い方が分からないぞっ、勝手に聞こえてしまったようだが……この不完全能力め!」
テーブルに
自分の能力を悪く言われて頭に来たのか、サクラも突っかかる。
「――はぁっ!?好きでこんな能力になったわけじゃないし……つーか早く服着なさいよっ!!エド君はどさくさで見ないのっ!!」
「――ご、ごめんなさいっ!」
エドガーは、声に驚いて顔を上げてしまっていた。サクラに怒られ
「わたしは……
「この――ドスケベ忍者ぁ!!」
サクラは壁にかかっていた
ガッ!!と、
「――いっったぁ~……あ、あれ?――【忍者】?」
サクラが叩いた先は、完全にサクヤが座っていた場所だ。
そこにサクヤの姿はなく、服だけが残っていた。
一瞬、
そして言葉を放ったのはローザだ。
「――そこっ」
右手から極小の
「――はうあっ!!」
「「「「……」」」」
エミリアの背後で、裸のまま四つん
「うぬぅぅ!ぬ、抜いてくださいお願いしますっ」
左眼を
「――もう何からツッコんだらいいか分かんないから、とりあえずエミリアちゃん。エド君の目を
「えっ、あ。うん」
「えぇっ!?」
また見ていてしまったエドガー。
と、ようやく放心状態から
「……エドのえっち」
「ふ、
驚いたりしたら
◇
「【
「う、うむ……そうなのだ」
お尻を
エドガーも目隠しから
唯一ローザだけがテーブルに座り、綺麗に足を組んで、赤い長剣を手でポンポンとしている。
(……うわぁ、バリバリの
メガネがあったら完璧。と思ったサクラ。
「……で、その眼はいつからなの?もしかして“召喚”の時の?」
サクラはさっきの力が“召喚”の
サクヤの眼は、今もまだ黒く
「違うぞサクラ……わたしのコレは生まれつきだ。【魔眼】と呼ばれるもので、
「一時的ではあるが」と真面目に答えるサクヤ。
「へぇ……それでさっきも、私から逃げようとした――と」
「――ぅひぃっ!!」
実は、初めサクヤが逃げ出そうとした時、既にローザは
だから
そのせいで、
「ちち、ちが、違うぞローザ殿……」
ローザの背後で燃える様に見える炎が、サクヤには恐怖らしい。
「何が違うのかしらね……教えてほしいものだわ……」
テーブルに座ったまま、足を組み直すローザ。
「ローザ。その辺で……」
「そうだよ……サクヤ、本気で
エドガーとエミリアに
「た――助かったのですっ!
エドガーとエミリアに
「あれ……?よく見たらサクヤのその眼……とっても綺麗だ。まるで
突然、サクヤの
その距離は、今にも
「――なっ!?」
「エドっ!?」
「あ、あごくいぃっ?」
「なななななっなぁぁぁぁぁ!!」
三人の少女は
顔は真っ赤になり、目は視点が合わなく、頭からプスプスと煙を出して。
言われた左眼の黒い
そして――きゅ~~~~~!と倒れてしまった。
「――えっ?」
エドガーはただ、宝石のように
無自覚に女の子を気絶させてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます