22話【月光の森で炎は踊る】
◇月光の森で炎は
エミリアがマルスを倒し。エドガーがコランディルを倒した?
「さてと……後は
まるで悪役のようなセリフのローザに、イグナリオは
「ぷっ!!――てめぇを
イグナリオの
ローザはそれをイラつくとも、
表情一つ変えないで、イグナリオを見下す。
「
ローザはイグナリオを鼻で笑う。
エドガーがコランディルをアルベールとエミリアのもとへ連れて行き、マルスと共に縛り上げたところだった。
「正直言って、私はもう終わってもいい。あの子たちの戦いも終わっている事だし」
つまらなそうにイグナリオを見下し、ため息を
しかし、それがイグナリオを
「――き、貴様ァァァ!!」
イグナリオはすぐさま立ち上がり、勢い任せでローザに斬りかかる。
ローザは剣で受けることもなくスッと
――バシャァァン!
「ぐ……ぐぞぉぉぉぉっ!!」
イグナリオの転んだ先は、水
少し前、イグナリオ自身がアルベールに水を掛けた場所だ。
思い切り突っ込み、顔から足までを
「ふぅ。もういいでしょう?これ以上やっても、
「――っ!!」
何度もあしらわれ。軽くいなされて。まるで子供扱いだ。
これでもイグナリオは、昨年の卒業騎士。その首席代表という実績がある。
こんな
しかし、それでも昨年度の主席。つまりは成績第一位、そのイグナリオが成す
圧倒的な強さ。おそらくこの状況を見ている今年度の卒業生、【聖騎士】に昇格したアルベールでさえ、万全な状態を
「す、すげぇ。なんだあの人……おいエドっ!エミリアも、一体なんなんだよあの人は!?」
「いやぁ……私もあそこまでとは」
「僕もだよ。僕なんか、最初は気絶してたから」
アルベールは当然ながらも、一緒に来たエドガーとエミリアもローザの強さに驚いていた。
「
ローザは、長剣をイグナリオの首元に突き付けて
「――くっそ!!」
イグナリオは精一杯強がりローザを
――滑稽。としか言えないものだった。
◇
『いやぁ……これは驚いたよ。全く、面白い展開だね』
「――!!誰っ!?」
(気配がないっ!?)
『はぁ。この男……ホントに使えない。
「――
急に叫び出したローザに驚くアルベールとエミリア。
「お、おい……あの人、なんか変だぞ」
「ローザどうしたんだろ、急に……」
「いこうっ!!」
以外にも、真っ先に動いたのはエドガーだった。
エミリアとアルベールも、エドガーを追った。
『お。【召喚師】君が気づいたね。流石、
少年とも少女とも取れる声で、エドガー達が近寄る事をローザに告げる。
「
ローザは
「うおっ――な、なんだ今の声」
「ローザ……大丈夫?」
「……」
『おやおや、皆様
「な、何!?ど、
「くそっ、なんだっ!?」
アルベールとエミリアはローザの近くに寄るも、状況が飲み込めずに
「……」
しかしエドガーは、何かに気づいたかの様に。
「ローザさん、エミリアにアルベールも……あそこだよ……」
ローザの隣に並ぶエドガーが、指差した場所。
それは、イグナリオだった。
「……エド?」
「あいつがどうしたんだよ?」
「違う。あの男じゃない」
ローザは気付いたのか、右手の【消えない種火】から火球を出して、イグナリオの右側へ放つ。
火球はイグナリオに当たらず、すれすれで通り過ぎる。
だがイグナリオの服を焼き切って、右上腕部をさらけ出した。
「――あ、あれっ?――昨日の《石》が無い!」
エミリアが言う《石》。昨日
「なんだ?……あいつの腕、さっきと違うぞ」
アルベールも、先程見せられた右腕と違う状況に気付き戸惑う。
二人が戸惑うのも当然で、イグナリオの腕は、先程まであった《石》が完全に無くなっている。
その代わりに。腕は真紫になり、所々から緑の体毛を生やしていた。
「――っ!?――っ!?……!?」
エミリアは悲鳴にならない声を出して、エドガーにしがみついた。
エドガーは一言も発さず、イグナリオを見続けている。
『
「――黙りなさいっ!!」
謎の声は、エドガーに
その
「なっ!?」
「ローザっ!?」
「……!」
三人それぞれに反応し驚く。火球は難なく直撃して――爆発した。
「ロ、ローザ……殺しちゃった、の?」
エミリアが、
「アレは異様よ……殺さなければ、死ぬのは
ローザにも、焦る気持ちがあった。それ程、あの《声》は異常だった。
エミリアやアルベールが知らない《魔法】》。
その気配が感じられ、ローザは即座に攻撃しイグナリオを――殺した。
しかし、爆発の
『あーあ、起こしちゃったねぇ……♪』
紫の皮膚に緑の体毛。巨大な身体に小さな翼。
まるで人間とは思えない、その姿。
『ご登場だよ……――グレムリンさっ!!』
「グッ、グレムリン……?」
「なんだよっ!?それっ!!」
「……――っ!?」
エドガーもアルベールも驚いて反応するが。エミリアだけは、首を横に振って
エミリアの異常な様子に気付いたローザは、直ぐにエドガーに指示を出す。
「キミっ!二人を下がらせなさいっ!早くっ!!離れたら動かないこと!いいわねっ!!」
エドガーもローザの指示に素早く反応して、行動に
「――は、はいっ!アルベール!エミリアを支えてっ!ほら、ローザさんの後ろに……早く!」
「あ、ああっ――悪いっ!」
エドガーとアルベールは、エミリアを支えて後方に下がる。
それを確認した直後、ローザは火球を素早く数発叩き込む。
ドンっ!ドンっ!と。
グレムリンの紫色の皮膚は、ローザの火球を食らうも全く動じず、ヨレヨレの羽を震わせるだけで動こうともしない。
「グオォォォォォ!!」
ローザは続けて火球を放つ。
それを全て
「――ちっ!
舌打ちをし、ローザは赤い長剣を肩に構えて走り出す。
エドガー達にターゲットが変わらぬように。
グレムリンの死角、その位置にエドガー達が来るよう移動する。
『はっはっはぁ。やれぇっ!グレムリンっ!!』
楽しそうな謎の声に、初めて
「――私の知っているグレムリンと大違いよっ!これじゃ“悪魔”か“魔人”だわっ!!」
ローザの言うグレムリンは、“妖精”の一種だと記憶している。
少なくともローザの世界では“妖精”だった。なのに、大きさも何十倍も違う。
『まあそうだねっ♪なにせ数百年物だからさっ!この《石》は!』
「――《石》がなんなのよっ!」
大股で
しかし紫色の硬い
「無駄に硬いわねっ……」
『潰してしまえっ、グレムリン!』
「グオォっ!」
謎の声の命令に、グレムリンは巨大な腕で真下にいるローザに殴りかかる。
「――ちっ!」
ローザはグレムリンの殴打を、大きく
すれ違いざまにグレムリンの背後に火球を撃つが、威力が弱い。
火球はドンっ!ドンっ!とグレムリンの背に当たり爆発するが、グレムリンは動じず。
空中にいるローザに拳を放った。
「――っ!」
空中で動きの取れないローザは、グレムリンの拳を長剣で受ける。
「くっ……――がっ!!」
ローザは、グレムリンの怪力の
物凄い速度で吹き飛ばされて、近くの大木に激突した。
「――ローザさんっ!!」
エドガーが叫ぶ。グレムリンは、
「――くっ!」
「マズいぞエド……こっちに来る、逃げるぞっ!」
アルベールは、逃げようとエドガーの腕を取るが、エドガーは動かない。
「……」
「お、おいっ。エド!!」
アルベールは、逃げようとしないエドガーに無理にでも逃がそうとするが、隣にいるエミリアも足を
「おいっ!エミリアも何やってんだよ!逃げねぇと殺されるぞっ!!」
エミリアの手を
エドガーに止められる。
「なっ!おいっ!エド、何して……」
「大丈夫……逆に動いたらダメだっ……!」
意外なほどに冷静なエドガーに、アルベールは息を飲む。
「!?……エド。お前何言って――」
「――それでいいわ」
アルベールが、逃げる気の無いエドガーの正気を
土煙が巻き上げる大木から、涼しい声と共に赤い閃光が
「グヴァァァァっ!?」
「……ふぅん。流石に
ローザが、炎を
「キミ達は動かないで!私の狙いが
「――マジ?」
「ローザさん……良かった、無事で」
アルベールは、死ぬと言われて驚き、エドガーはただローザの心配をしていた。
エミリアは未だ
ローザは、右手の《石》に魔力を込めて、空中に無数の矢を
先程よりも細く、とても長い。
矢と言うよりも針に近いそれは、ローザの手に合わせて動き。
そして放たれる。
「――はっ!!」
無数の炎の針は、上下左右からグレムリンを襲う。
硬い
まるで、
『うわぁっ!凄いねぇ!!これじゃあ【
謎の声の人物は、ローザとグレムリンの戦いを楽しんでいるようだ。
「――
ローザは
『あはははははははははっ。や~ら~れ~た~』
「ガァァ!!」
大きな
「ふぅ……全く、どこまでもふざけた奴ねっ。いい加減に姿を現したらどうっ!?」
一度小さく息を
実際、声の主はここに居ないであろうとローザも予測済みだ。
ローザは、会話を長引かせる為に時間を
『ああ。怖い怖い……まさかこんな【
「グォォォォン!!」
無数の炎の針を受けたグレムリンは、身体のあちこちを傷つけながらも立ち上がり、小さな翼を振動させて――飛び立った。
「――なっ!?」
ローザも、グレムリンの翼は確認していたが、まさかあの
「ね、ねえ……エド」
体を震わせるエミリアがエドガーに聞く。
「なに?エミリア、大丈夫なの?」
「う、うん。それより、どうしてローザは――ひっ!……炎、使わないのかなっ?……ぁぅ……」
エミリアは、兄のアルベールの背中にしがみつき
飛び立つグレムリンの
だが、それでもローザの戦い方に疑問を持ち、エドガーに問いかけたのだ。
「炎……?でも、さっきから何度も……」
エドガーは、ローザの打ち出す火球や【炎の矢】を見ながら答える。
「ちがっ……そうじゃなく、てぇっ!!……純粋な。その、も、燃えるやつっ」
「燃える?」
エドガーは周りを見渡す。
確認できたのは、ローザが放った火球や【炎の矢】が当たった木箱、森の木々どれもが一切燃えておらず、被害は全くと言っていいほどに無いということ。
「あれだけ炎をぶちかましてるのに、一切炎上してねぇ!?」
「――ローザさん、まさか力を
アルベールもエドガーもエミリアの疑問に気付き、ローザを見る。
ローザは、グレムリンの上空からの攻撃を
防戦一方のようだった。辛うじて火球で反撃しているが、大きなダメージには
「おいエド。大丈夫なのかよ、あの人」
アルベールも、エドガーに言われた通りにココを動かずにジッとしているが。
正直言って逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
それでも、エドガーとエミリアを置いて逃げる訳にはいかない。
何があったかは知らないが、今ここに居るエドガーは、自分の知る気弱で
それをローザが変えてくれたのだろうと、少なからず感じている。
まだまだ危ういところもあるが、コランディルとの戦いを見てれば分かる。
「大丈夫……だと思うけど。何か、手助けが出来れば」
エドガーがそう答える。
「応援なんてのは、駄目だよな」
そう、またグレムリンの標的がこちらに
「じゃ、じゃあ、どうすっ!――んのぉっ!?」
エミリアは、今度はエドガーにくっつき震えている。
「どうするって……くそっ!」
(――俺も、なんとかしねえと)
あのエドガーが、自分から進んで危険な事を考えている。
アルベールもエドガーも、何とかこの状況を打破しようと必死で
(あの時……ローザさんは火をかけるって言ってた。燃やすことはできるはずなんだ……じゃあ何でやらない?いや。違うんだきっと、理由があるはずだ……なにか。ローザさんの言葉を……思い出すんだ、エドガー!!)
エドガーは、【
◇
『森に火をかけるってのはどうかしら?』
『ダメですよ絶対……』
『ダメに決まってるじゃない……』
(ローザさんのあの時の言葉)
『
『ダメですよローザさん……夜はともかく、昼間は子供達も大勢遊びに来るので……
(――この後……ローザさんはなんて言った……!?)
『分かったわ、“契約者”のキミがそう言うなら、
◇
(炎は、使わない……?)
森が焼けたら、子供達が
エドガーはそう言った。もしかして、ローザはそれを守っている?
「ま、さか……そんな事っ!!」
奥歯をギリッと
「アルベール!お願いだっ!一瞬でいいからアイツを引き付けてっ!頼むっ!!」
走りながらアルベールに告げると、答えも聞かず
「――は?なっ!?おいエド!引き付けろったって……どうすりゃ」
エドガーは、必死にローザの所に向かっている。
「――ああもうっ、どうにでもなれっ!!」
アルベールも走る。エドガーが向かう場所ではなく、そことは違うマルスのハルバードが落ちている場所に。
「……え。う、うそでしょっ!ま、待ってよぉ。兄さぁぁんっ!!」
エドガーとアルベールが行動していることに遅れて気付いたエミリアは、迷った末に、“悪魔”と反対方向の、兄を追いかけた。
◇
「
(この世界に来てから、身体が重い……思うように炎も使えない、魔力の消費も異常だわ……それに何より、魔力の流れを感じない……)
思考しながらも、グレムリンの急降下キックを飛び出し前転で
『どうしたんだい?真っ赤なお姉さん!ほらほら、また上から行くよっ』
グレムリンは、また翼を振動させて飛び立つ。
「この!調子にっ!!」
ローザは長剣に魔力を注ぎ、刀身に熱を持たせる。
迫りくるグレムリンの攻撃を、すれ違い様に斬りつけた。
「グヴァッッ!?」
グレムリンはズッシャアァァァ!と、頭から地面に突っ込み、土煙を上げる。
斬られた右腕からは、紫色の
「ローザさんっ!!」
多少疲れを見せるローザの下に、エドガーが
「っ!?――キミっ!なんで。動くなって言ったでしょっ!」
グレムリンが倒れているのを見て、エドガーが声を上げる。
「それはすみませんっ!でも……」
何かを言いかけて、エドガーは言い
『【召喚師】ぃ!いいところなんだからさぁっ!邪魔するなよぉっ!』
出て来たエドガーに
それを合図にしたかのように、グレムリンが起き上がる。
そして倒れていた近くにあった巨大な岩を持ち上げて、エドガー達に投げようとする。
ローザは、走ってきたエドガーに気を取られて、ほんの一瞬グレムリンから視線を外してしまった。
「――しまっ!」
「―――おらぁぁぁぁっ!!こっちだっ!――
二人を救うように、反対側から大声を出しグレムリンの気を引く青年の姿。
エドガーの大切な親友。アルベール。
落ちていたハルバードに、手に持った石ころをぶつけ、カンカン!カンカン!と音を鳴らす。
「こっちだぞっ!この野郎!!」
「グォォォォン!!」
挑発されたことを理解したのか。
それともグレムリンの
『あ!おいっ……グレムリン!そっちじゃないだろぉ!?』
「アルベールっ!」
「こらっ!逃げなさいっ!!」
エドガー、そしてローザも叫んだ。
謎の声の指示を無視して、グレムリンは持ったその大きな岩をアルベールに投げつける。
「――げっ!」
「――兄さんっ!!」
エミリアが、寸での所でアルベールの腕を引っ張り、二人は倒れる。
ズドーーーン!!と地響きをたて、アルベールがいた場所に
エミリアに引っ張られて落としたハルバードが、
「あっ――ぶねぇ。助かった、エミリア」
「よ……よかったぁぁぁ」
「こ、腰がぁ」
下手をすれば、兄妹
それを思えば、腰を抜かすのも仕方が無い。助かった安心感が、腰を抜かしてしまったのだ。
「なにをしてるのっ!動くなって言ったでしょっ!」
エドガーの両肩を
つい、怒鳴ってしまう。しかし当のエドガーは。
「ローザさんっ!戦って下さい!大丈夫ですからっ!」
「な、なにを……」
エドガーは
少年の顔がすぐ目の前に来る程に迫り、ローザは思わず目を
「炎、使って下さい!僕が責任を取るからっ!!」
「――せ、責任っ!?」
人生で言われたことのない、歯の浮くようなセリフだった。
「はいっ!この公園!焼き払いましょうっ!!」
「――そっちね!その責任ねっ!」
一瞬でも恥ずかしくなった自分を燃やしてやりたくなった。
「ローザさん、僕がダメだって言ったから本気で戦わなかったんですよね……だから!」
それを言う
だが確かにエドガーが言った通り、本来のローザの戦闘スタイルは、圧倒的な
爆発や【炎の矢】などは、完全なオマケに近い能力なのだ。
「キミ……まさかそれを言うために」
ポカンとするローザ。
(まったく。本当に面白い少年ね)
元の世界で、ローザにこんな事を言う少年、もとい男はいなかった。
自分に近寄るのは、命を狙う敵国の人間だけだった。
自国の民や親兄弟ですら、ローザを恐れて
それがこの異世界で、自分よりも圧倒的に弱く、小さな存在の少年に。
ローザの身を心配して、必死になってくれている。
ローザにはこの少年の姿が、とても
『おいおいっ、いいのかいっ!そんなことしててさぁ!まだ、グレムリンは元気なんだぞぉっ!!』
謎の声に、エドガーが反応する。
「ローザさん!―――ローザっ!!」
「……は、はいっ!」
「敵が、来ますっ!!」
「え……う、うん」
正直もう、あの“悪魔”なんてどうでもよかった。
「グオォォォォォ、グオォォォォォ!!」
また
「ああ!また上にっ」
エドガーは悔しがる。
「好都合よ、キミは。ううん――エドガーは下がっていなさい」
「え……」
自分の意思で男の子の名前を呼ぶ時が来るとは。それも年下の。
あの【バカ天使】の言葉が、嫌でも思い出される。
◇
『いい?ロザリーム。男はねぇ、単純なのに複雑なのよっ!』
『……なにそれ、どっち?』
幼いローザは、自分に
『だからね!名前を呼ぶときは気を付けて呼ぶのよっ?むやみやたらに名前を呼んだらダメっ!男はすぐその気になるからねっ!』
『……なんで?』
自分を見上げる可愛いローザに“天使”はパアァァァと笑い、抱きつく。
『かわいいかわいいロザリームが男の名前を呼んだら……みぃんな!イチコロだからぁぁぁぁぁ!!』
◇
そう言って、抱きついてきたあの“天使”。
今はきっと、元の世界で他の
そういう“
エドガーを下がらせ、ローザはグレムリンが浮かぶ方向へゆっくりと歩き出す。
「ねぇ……
ボソッと
「【
右手の《石》が
炎は
どれもが刀身を燃やし、待ちわびたと言わんばかりに、
ローザが持っていた長剣にも炎が生まれ、六本の剣が
「【
掛け声とともに、ローザが走り出す。
炎を
『やれぇぇぇ!グレムリンっ!!』
「グオ!グオォォォォッ」
「
グレムリンの叫びに、ローザは右腕を振るう。
三本の燃え
真っ直ぐに飛ぶ剣、回転する剣、不自然な
どれもが自由意思を持つ踊り子のように、グレムリンを攻撃していく。
「グゥゥゥオオオオオ!!」
グレムリンも反撃しようと拳を繰り出すが、炎の剣達はことごとく
「行きなさいっ、
ローザは左腕も大きく振るうと、残りの三本の剣もグレムリンに襲いかかる。
「すげぇ……」
「ホントだね……」
遠くで見ていたロヴァルト兄妹は、ローザの
――そこに。
「二人共っ!」
「エド……」
「エドっ」
エドガーが合流し、ローザの戦いを見届ける。
『このっ――クルクルとっ!うぅ……き、気持ちわるいぃぃ』
六本の剣に
「グオォ!」
グレムリンは
『は、ははは。どうだ、これなら、うぷっ……届かないだろ……』
「いいの?そこにいて……」
ローザは、高く舞い上がったグレムリンの真下にいた。
ローザの少し上空には、六本の剣が円を描いている。
六本の剣はそれぞれから炎を
――その形は、
『――これはっ!グレムリン!!』
謎の声の人物は気づいたのか、グレムリンに命令する。
「もう遅いわよ……」
ローザは右腕を
「【
【消えない種火】から生み出された炎は、回転する
その中心部に到達し、強さを増す。
ローザの右手から生まれた火炎は、
「グ、グギャアアァアアアアアアアアアアアア!!」
天を
――グレムリンの命を――完全に
「はぁ……疲れた……」
(これやると……周りが死ぬほどドン引くのよね……あの子達はどうかしらね……)
六本の剣を消滅させ、ローザが息を
エドガーにドン引きされたら嫌だな、と考えていると。
「ローザぁぁぁぁぁ!!」
がばっと抱きついてきたのは、まさかのエミリアだった。
「ちょ、ちょっと。なんで
内心、エミリアとアルベールは怖がって近寄らないとも思ったが、実に意外だった。
「す、凄いねっ!ローザ!あんな怪物を倒しちゃうんだもんっ」
「いやホントにすげぇよ。ビックリだ」
「まさかエミリアが
エドガーもアルベールも、ローザを怖がる事無く勝利を
「ど、どうだったかな――エドガー……」
ローザはエミリアに抱きつかれたまま、エドガーに問う。
「凄かったです。――ロ、ローザ……」
照れながら名を呼ぶエドガーに、ローザは笑顔を向ける。
「そう……それなら、よかったわ」
こうして、【月光の森】での戦いは終わった。
月を真上に
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