不遇召喚師と異世界の少女達～呼び出したのは、各世界の重要キャラ！？～

21話【月上間の戦い】

◇月上間（げつじょうま）の戦い◇

　夕焼けに照らされる森の中を三人で走る事、早半時（はんとき）(３０分)。

「その【月上間（げつじょうま）】って、森のどこにあるのかしら……？」

　この世界の人間ではなく地理（ちり）に詳（くわ）しくないローザが、目的地と思われる【月上間（げつじょうま）】の場所を問う。

「【月上間（げつじょうま）】は、森の北西にある広い敷地の事でね。まるで月が真上にあるように見える事から、そう呼ばれるの……騎士学校の模擬（もぎ）戦とかもよく行われるんだけど……今の季節は特に行事はないはずだから……それに、連結門から距離はそんなに遠くないよ」

　エミリアがローザに並走しながら答える。

　そもそも【月光の森】は森林公園だ。隠れる場所も沢山ある上に、行事が無ければ夜に人が集まる事もそうそうない。

　だからイグナリオ達はココを選んだ。そうエミリアは睨（にら）んでいる。

「北西ね……」

　ローザは立ち止まり、指で風向きを探ると言う。

「森に火をかけるって言うのはどうかしら？」

「ダメですよ絶対……」

「ダメに決まってるじゃない……」

　ローザの突然の放火発言に、後ろにいたエドガーも隣りのエミリアも口を揃（そろ）えて制する。

「炙（あぶ）り出せると思うのだけれど……」

「ダメですよローザさん……夜はともかく、昼間は子供達も大勢遊びに来るので……可哀想（かわいそう）です」

「ローザって凄いこと考えるのね……」

「分かったわ、“契約者”のキミがそう言うなら、炎は使わない（・・・・・・）ようにする……」

　元の世界で、敵という敵を燃やし尽くして来たローザの発想。

「――そろそろ日が沈（しず）みますね。急がないと」

「だね……」

　ローザの危険な発想は置いておいて、森を進み目的地を目指す。

◇

「もうすぐよ。【月上間（げつじょうま）】……」

　エミリアは【月上間（げつじょうま）】への看板を確認して、エドガーとローザに声を｜

掛（か）ける。

「ここまで罠とかはなかったけど……不自然なくらいに」

「そうだね。月も……うん、まだ大丈夫だ」

　既（すで）に辺（あた）りは暗くなっている。

　周りを確認しながら、エドガーは月を見る。

「相当自信があるのかな……」

　罠も待ち伏せもない。

　逆に不安になる位（くらい）だ。

「エミリアのお兄さんを連れて行った奴らが。キミやエミリアを倒すのが目的なら、罠とかはあったかもしれないけれど」

「【月上間（げつじょうま）】まで誘いこむ為（ため）……とか？」

「何の為（ため）に……？」

　エドガーもエミリアも、イグナリオ・オズエス、コランディル・ミッシェイラやマルス・ディプルとは関係性は無いに等（ひと）しい。強いて言えば、エミリアがマルスに数回負けている。位（くらい）だ。

「さあ、私にはないよ……」

「当然僕もないよ」

◇

　速度を落とし。先程からは慎重（しんちょう）に少しずつ距離を歩いて。

　【月上間（げつじょうま）】と思われる場所に、灯（あか）りを確認する三人。

「……いた」

　エドガーの言葉に、エミリアは安堵（あんど）する。

「無事みたいね。兄さん……まずはよかった」

「――巫山戯（ふざけて）るわね……」

「えっ？」

「はい？」

　エドガーとエミリアは、何故（なぜ）かとても不機嫌に憤（いきどお）るローザに驚かされる。

「ロ、ローザ……？どうしたのよ」

　あくまでも小声で、だが明らかに怒っているローザ。赤いオーラが見えている気がするのは気のせいだろうか。

「ありえないのよっ……見張りも立てないで馬鹿みたいにあんなに灯（あか）りを焚（た）いて……襲ってくれって言ってるようなものよ……アイツ等、やっぱり私が燃やして――」

　ローザの中では、そもそも完全に「骨のない相手」との予測だったらしい。

　しかし、それ以上の戦い甲斐（がい）のない相手に腹が立っている。

「ダ、ダメだってぇ！」

　必死にローザを押さえるエミリア、「この馬鹿力ぁぁ」と嘆（なげ）く。

「――と、冗談はここまでにして……」

　オーラをシュンッ！と鎮（しず）めて、エドガーに向き直るローザ。

　エミリアはローザにしがみついたまま「んあっ！」とビックリしていた。

　そんなエミリアを尻目に、ローザは続ける。

「相手は三人だし、一対一でいいわね」

「――えっ！？」

　驚いたのはエドガーのみだ。

「えっ！じゃないでしょ、エド……相手は三人、私とローザが相手をしても、残った人が兄さんに手を出したらどうするの？」

「あ。そ……そうだね」

「この子の言う通りよ。私が全部倒してあげてもいいけれど、それじゃあ納得いかないんでしょ？――あと、いい加減降（お）りなさい」

　ローザは背中にいるエミリアを見る。

　エミリアも、初めからそうするつもりだったのか、ローザの背から降（お）りながら、決意に満ちた宣言をする。

「あはは。ごめん……よっと。――うん。マルス・ディプルは私が相手をするから」

　二度も敗れた相手だ。

　それでも結局三人倒さねばならないのなら、マルスにリベンジする事を選ぶ。

「それは……そうだけど、僕なんかじゃ」

　エドガーは地面を俯（うつむ）き、暗い表情を作る。

「エドガー……」

「えっ――は、はいっ」

　ローザに、初めて名前を呼ばれた。

「初めからダメとか、無理とか無駄とか、そう言う考えはやめなさい。大丈夫……私も、エミリアもいるわ……全部懸（か）けて、駄目だったら、その時駄目だって言いなさい」

「懸（か）ける……僕の全てを？」

　“召喚”をして、多少は変わったのかも知れない。

　しかし、染み付いた負け犬根性は中々抜けない。

「そうだよエド。私も頑張る――だから、一緒に助けようね。兄さんをっ！」

　エドガーの手を取るエミリア。その手は震えていて、緊張と不安が入り混じった感情が押し寄せていることが伝（つた）わる。

「エミリア……分かった。僕が、あのコランディルって人と戦うよ」

　エドガーは目配（めくば）せして、イグナリオの近くにいる銀髪の青年を見る。

「よし……それじゃあ、パパッと作戦を決めるわよ」

「はいっ！」

「うんっ！」

◇

「――アルベールっ！！」

「――兄さんっ！」

　イグナリオは、何本目か分からない瓶に入った【葡萄酒（ワース）】を、気に飲み干す。

　それをぶん投げて喜々（きき）とする。

「来たか！……よかったなぁロヴァルト」

　密造酒（みつぞうしゅ）が入った木箱に縛られ、アルベールは身動きをとれないままに叫ぶ。

「エドっ！エミリアっ！何で来たんだ！！しかもた（・）っ（・）た（・）二（・）人（・）で（・）なんてっ！！」

　俺はどうでもいい！みたいに叫ぶアルベールに、エミリアが嚙（か）みつく。

「やっぱり言った！絶対言うと思ったっ！ね、エドっ！」

　エミリアの断言に、エドガーも援護し続く。

「……うん、思った。――でも」

「――なっ……お前等なぁっ！」

　アルベールは、エドガーにまで言われるとは思わなかったようで憤（いきどお）りを見せるが、続くエドガーの言葉に息を吞（の）む。

「アルベール。僕は――君を助けるっ！！」

　見たことのないエドガーの表情。決意に満（み）ちた、男の顔。

「エ、エド……お前――」

　何か、自分の知らない幼馴染がいる気がして怖くなる。

「はっはっはっ。いい幼馴染じゃねぇか、でもな……ざぁんねん、助ける前に死ぬよ」

　待ってましたと言わんばかり、顔がにやけるイグナリオ。

　イグナリオにとっては、この場所に二人の証人が来れば、後はどうでもよかったのだ。

　計画は９９％完了している。あとは証人となる二人が、アルベールを殺害される瞬間を見ればいいだけだ。

「やれぇぇっ！コランディルぅぅっ！！」

　イグナリオの命令に合わせて、木箱の傍（そば）に待機していたコランディルが剣を振り上げる。

　最後の１％を、まさに実行しようとして。

「――くっ！！」

「アルベールっ！」

「兄さん！！」

　しかし。コランディルが剣を振り下ろす瞬間、エドガー達が来た方向とは逆の方向から、赤い閃光が走った。

「何なのッ！？」

　反応したのはマルスだけ。

　エドガー達二人は、ま（・）る（・）で（・）知（・）っ（・）て（・）い（・）た（・）かの様に頷（うなず）き合い、それぞれに走り出す。

　赤い矢のような閃光はコランディルの剣を弾き、刀身の一部を溶かすと、上空に舞い上がりバァンっ！と爆（は）ぜた。

「――はぁぁっ！！」

　唯一反応したマルスに、エミリアが槍を振（ふ）るう。

「くっ！このっ！」

　マルスは閃光に気を取られ、エミリアに反応が遅れた。

　そのせいで、防ぐことが精一杯だった。

　得物（えもの）のハルバードで防ぐも、エミリアの勢いに押されてイグナリオから距離を置く。

　そしてエドガーは、持っていた赤（・）い（・）剣（・）で、コランディルに迫った。

「うわぁぁ！！」

　まるで攻撃側の叫び声とは思えない掛声で、コランディルに斬りかかるエドガー。

　先程の赤い閃光で剣の刀身を半分失ったコランディルは、避（よ）けることしか出来ずに、木箱の範囲（はんい）から飛びのく。

「――っ！」

　思いのままに行かないこの状況に歯噛（はが）みするイグナリオは、閃光が走った方向に吠（ほ）え立てる。

「――クソがぁぁっ！！誰だっ！今の攻撃はっ！出て来やがれぇっ！！」

　既（すで）にアルベールの傍（そば）には、エドガーとエミリアが駆け付けていた。

　計算は、大幅に崩れていた。

「考えが甘すぎなのよ。――誰が二人で来るなんて言った？」

　木箱の後方から現れた赤髮の女に、イグナリオはキレる。

「だ、誰だっ！？てめぇは……」

「さぁ、別にいいでしょう？貴様（きさま）には関係の無い事だわ……」

　冷たく言い放つ女性――ローザにイグナリオは迫る。

「このアマぁぁっ！――っっ！！」

　しかし、イグナリオの前に立ちはだかるエミリアとエドガー。

　エドガーはエミリアと目で合図すると、アルベールに駆（か）け寄って、木箱に縛られるアルベールのロープを切った。

「お、おい……エドお前っ」

　なにが起きたのか分からずに混乱するアルベールは、突如（とつじょ）現れた女性と、エドガーとエミリアを交互に見る。

「アルベールはジッとしててね……」

　中央にローザ、エミリア、そしてエドガーとアルベール、四人が固まる。

　アルベールは解放した。イグナリオ達三人も綺麗に分断させる事が出来た。

　全て、ローザの言（・）っ（・）た（・）通りに事は運ばれている。

◇

『いい？まずはコレを……』

　そう言って、ローザは【消えない種火】から炎を生み出して、一瞬で赤い剣を創（つく）り出す。

　そしてそれを、エドガーに渡した。

『これって……？』

『武器がないとどうしようもないでしょう。素手で戦うつもり？』

『い、いや……ありがとうございます』

　素手で戦う想像を一瞬で取り払（はら）うエドガー。

『じゃあ次……私は一旦隠れて回り込むから。合図をしたら各々（おのおの）の相手に攻撃しなさい……合図は【炎の矢】よ、一目でわかると思うけれど、間違えないで』

『攻撃って……いいの？』

　エミリアは少し不安なのか、槍を持つ手に力を込めて握（にぎ）りしめる。

『問題ないわ。【炎の矢】を上空で爆発させるから、相手の気も逸（そ）れる』

　断言するローザ。

『状況的に敵を分断させて優位に立つ。一対一の状況を作って、何かあっても私が援護できるようにするから……いい？奇襲は卑怯（ひきょう）じゃない、立派な作戦よ』

　チラリと【月上間（げつじょうま）】を確認し。

　イグナリオが、一番アルベールに遠いことを判断する。

『いいわね、二人共……』

『はい！』

『分かった、信じるよ……』

◇

　ローザがエドガー達に合流すると、それを確認してエミリアはマルスに、エドガーはコランディルに向き直る。

　アルベールは、安全を考慮（こうりょ）して待機させている。

「さてと……誰、だったかしら。どうする……？多分だけれど、エミリアのお兄さんを殺させる所をこの二人に見せつける為（ため）に呼んだのでしょう？正確には、見せつけなければならない理由がある……かしら？」

　ローザの言葉にイグナリオは。

「このクソアマァ！俺の、俺の計画をぉぉっ！！」

「――計画？知らないわよそんなもの」

　イグナリオの言葉をローザは斬って捨てた。そして髪を掻（か）き上げて、イグナリオの正面に立つ。

　まるでイグナリオを相手にせず、ローザはエドガーとエミリアに視線を移（うつ）す。

「――マルス・ディプル！今度こそ負けないっ！！」

　エミリアは槍を構え、マルスに向かって戦闘態勢を取る。

　今、エミリアには一切の心配事が無くなった。兄も助けた。

　エドガーにはローザがついている。後は、自分自身の騎士道に向かい合って、敵を倒すだけだ。

「生意気ねぇ、妹ちゃん……昨日も私に負けたこと、もう忘れちゃったのかしらぁ」

　忘れるわけはない。

　だからこそ、自分でマルスと戦う事を選んだのだ。

「同じ相手に何度も負けてたら……【聖騎士】になんて成れないっ！」

　エミリアは髪を振り乱して言い放つ。

「ウフフ。じゃあ駄目ね、成れないわ！【聖騎士】っ！！」

　言葉と同時に、マルスが攻撃を仕掛ける。

　走り込み打突。強烈な一撃だ。

　だがエミリアは槍で弾きながら、上体を反（そ）らしてそれをいなす。

「――くっ！……はぁあっ！！」

　常体を反（そ）らした反動で、エミリアは右足を思い切り振りぬいた。

　弾かれたハルバードの重さと打突の反動でまともに反応出来なかったマルスは、顔面にエミリアのサマーソルトキックを貰った。

「――グぅっ！！」

　エミリアの右足で顔面を蹴（け）られ、マルスは地面に肩から叩きつけられる。

「はあぁっ！！」

「――くっ！？」

　続くエミリアの下段横薙（な）ぎをすれすれで避（よ）けると。

　すぐさま立ち上がり、距離を取ろうとする。が、エミリアはしっかりと対応して付いて来た。

「くっ！この子……」

　エミリアは、続けざまに斬撃を見舞（みま）う。

　ギィィィン！と槍が響き、エミリアとマルスは肉薄（にくはく）する。

「貴女（あなた）っ！中々足癖（あしくせ）悪いわねっ！それでも騎士なのっ！？」

「う、うるさいっ！しょうがないでしょっ！」

　マルスはエミリアの槍を弾くと、今度は近距離で横にハルバードを切り込む。

「んぅっ！」

　エミリアはエビ反（ぞ）りになってそれを回避する。

　そのまま一回転すると、マルスの顎（あご）につま先を叩き込んだ。

「――がぁっ！？」

　一瞬脳が揺れて、意識が飛ぶマルス。

　気づいた時には、エミリアの前蹴りがまたも顔面にヒットして、マルスは回転しながら吹き飛んだ。

「はぁ、はぁ――ど、どうよ。これで」

　息を切らしながら、エミリアはマルスの様子を伺（うかが）う。

　そのマルスは、ハルバードを杖代わりにしてズルズルと立ち上がる。

「騎士じゃなくて、まるで格闘家ね……」

　起き上がって早々に皮肉を言う辺り、相当タフなのだろう。

　ちんっ！と鼻血を出して、エミリアを睨（にら）む。

　だが三度も顔に蹴（け）りを貰い、ダメージが下半身に来ているのが見て取れた。

「足に来てるみたいですね……先輩！」

「黙（だま）りなさい……小娘っ」

　エミリアは槍を構え直して、これを最後にするつもりで足に力を込める。

　走り込み打突。先程マルスも使った、騎学の槍術で習う、基本の技の一つだ。

「甘く……見るなよっ――小娘（クソガキ）！」

　マルスは、最初期に習う技で自分を倒そうとするエミリアに腹を立てる。

　生意気な後輩よりも先に飛び出し、走り込み打突が来ると分かった瞬間に地面を掃（はら）って、土埃（つちぼこり）をエミリアに見舞（みま）った。

「――うぁっ！？」

　目に砂が入り、構えが解かれてしまうエミリア。

「くっ！このぉ！！」

(まずいっ――どうする、避（よ）ける？防ぐ？――ダメっ、きっと間に合わないっ！)

　エミリアは槍を地面に突き立て、突きが来ても薙（な）ぎ払（はら）いが来てもいいように、防御の姿勢を取ろうとした、が。

　――その考えを捨てる。防御姿勢を取る事をやめたエミリアは、気持ちを完全に切り替える。

(――攻めるっ！攻め切るっ！！)

　エミリアは槍をポールの様に固定し、そのまま跳躍（ちょうやく）する。

　ジャンプの余力（よりょく）と遠心力で回転して、絶妙なタイミングで手を離した。

「おおおおっ！！――っ！？」

　――ぐしゃり、と。マルスの鼻が潰（つぶ）れる。

　マルスはハルバードを横に薙（な）ぎエミリアを斬り伏せようとしたが、そこにターゲットのエミリアはおらず、ハルバードはエミリアの槍を吹き飛ばしただけだった。

　自分がエミリアを斬れなかった事に気付いた瞬間、マルスの目の前にエミリアの膝（ひざ）が現れ、マルスの顔面を拉（ひしゃ）げて潰（つぶ）した。

「！！がっ……――ファっ！！」

　ドサッ！と倒れるマルス。そして。

「――痛だっ！？」

　エミリアは尻から落下し「いったぁ……」と尻を擦（さす）る。

「！！――っ！」

　そんな暇はないと気付き。無理やりにでも目をこじ開けた、が。

「……」

　エミリアの目に映（うつ）ったのは、鼻血を流し白目をむくマルスの、気絶した姿だった。

「……か、勝った！？」

　エミリアは落ち着く暇（ひま）もなく行動する。戦いが全て終わった訳ではないからだ。

　マルスをアルベールのもとに引きずり連れて行き、協力してロープで縛り上げる。

「すげーな……エミリア。なんだよあの戦い方……あと槍、エドの方に飛んでったぞ」

　一部始終（いちぶしじゅう）を見ていたアルベールは、単純（たんじゅん）に感心していた。

「し、しょうがないじゃん……ローザがそうしろって」

　そう。エミリアの蹴（け）りを含（ふく）めた戦い方は、ローザが指示（しじ）したものだ。

　先程の作戦会議の時。

『エミリア。貴女（あなた）は身体が小さいから、もっと大胆に動きなさい……そうね、蹴（け）りがいいわ。使えるものは何でも使って攻撃をしなさい……大丈夫よ。「槍には槍」って考えの奴に、複合攻撃は読めないわ』

　その結果が、顔面に蹴（け）りを四発喰（く）らわせての、完全なノックアウトだ。

「ローザって、あの人か」

　アルベールが視線を送るそのローザは。

　イグナリオを、右手に持つ赤い長剣のみであしらっていた。

「ローザは大丈夫だよ……エドはっ！？」

　エミリアはエドガーを見る。

　あしらわれているイグナリオも、自分を相手にしないローザに叫ぶ。

「このクソ女がっ！！俺をなめやがって……そんなにあの無能が気になるかよ！！」

「……」

　ローザはイグナリオをあしらい続けながら、ずっとエドガーを見ていた。

◇

　一方で、そのエドガーは。

「わぁぁあぁぁあっ！」

　――これは攻撃で。

「わああぁああぁっ！」

　――これは防御だ。

「貴様（きさま）は……ふざけているのかっ！！」

「ふ、ふざけて戦えるわけないでしょうっ！？」

　エドガーは至（いた）って真剣だ。

　何度もコランディルに斬りかかり。何とか攻撃を弾いて、生き延びている。

　途中、槍が飛んできて死ぬかと思ったが、【炎の矢】が飛んできて弾いてくれた。

「ちっ！この俺がこんな奴で、なんでイグナリオの奴が女相手なんだ……――っ！？」

　自分の発言に違和感を感じ、コランディルは動きを止めた。

「――ん？な、なんだ。俺はなんでこんな場所にいる！……くっ、頭痛が」

　コランディルは周りをキョロキョロと見回して、頭を押さえる。

「……？」

(なんか知らないけど……様子がおかしい。これって、もしかしてチャンスなんじゃ)

　コランディルの様子に、エドガーは絶好の機会を与えられる。

　しかし、エドガーはあることに気づいてしまう。――それは。

(す、寸止めの仕方がっ――分からないんだけどっ！！)

　戦いの素人であるエドガーは、剣の扱いは当然のこと、敵を殺さないための寸止めなど、知る由（よし）もなかった。

　しかしこの戦いを終えて、アルベールを連れて帰らなければならない。エドガーは気合を入れる。

「よ、よしっ！やってやる！！」

　気合を入れて、コランディルに立ち向かう。

「うわあぁあぁ！！」

　悲鳴のような声にコランディルは気付き、半身が溶けた剣で迎撃（げいげき）する。

「――っ！！な、なんだお前はっ！？」

　エドガーの気合の一撃は、残念ながらコランディルの剣に防がれる。

「あっ――！？」

「あっ、じゃないっ！」

「あ、じゃないよエドっ！」

　まるで、離れているアルベールとエミリアの声が聞こえた気がした。

「貴様（きさま）ァ！！不意打ちとは――卑怯（ひきょう）なっ！！」

「えぇっ！？ふ、不意打ち！？いやいや、ずっと戦ってたじゃないかっ！」

「何を言っているっ！！この卑怯者（ひきょうもの）がぁっ！！」

「――っ！そ、それをあなたが言うのかっ！」

　いきなりキレたコランディルに、温厚なエドガーも怒りを隠せない。

　エドガーとコランディルは。完全にすれ違っていた。

◇

「フフッ。もうっ……しょうがないわね」

　ローザは戦闘中にも関（かか）わらず、エドガーを笑っていた。

「随分（ずいぶん）と余裕があるじゃねぇかっ！！クソ女がぁぁっ！！」

　イグナリオの上段斬りを軽く弾き飛ばして、一瞬だけ右手を掲（かか）げると。

　ボンっ！とコランディルの足元、その地面が小さく爆発し、ガクンとコランディルの左足が沈（しず）む。

「――なっ！……なにっ！？」

　左足を地面の中に沈（しず）め、体勢を崩したコランディル。

　エドガーは、作戦会議の時にローザに言われたことを思い出す。

『いい？キミは戦闘経験もない。力の使い方もまだまだ……じゃあ残ったのは？そうね、頭よ。頭を使いなさい（・・・・・・・）……キミなら出来る。終わったらまた、頭を撫（な）でてあげる』

「こ……――ここだぁぁぁっ！！」

　エドガーは体勢を崩したコランディルに、渾身の頭をぶつける。

　文字通り、頭（・）を。つまりは――ヘッドバットである。

　体勢を崩しながらも、立て直そうとして前傾（ぜんけい）姿勢になったコランディルに、エドガーの頭突きが炸裂し。コランディルは鼻の骨と、前歯を数本砕かれた。

「――グガッ！？」

　何が起きたかわからないままに、コランディルは気を失った。

「や、ややや。やった！やったっ！！」

　ガッツポーズをして、子供の様にはしゃぐエドガー。

　ほかの三人は、「その頭じゃない……」とは言えなかった。