第2章《忍者VS女子高生》

プロローグ【咲乱れる黒と白】



咲乱さきみだれる黒と白◇


 ここは、【召喚の間】

 【召喚師】エドガー・レオマリスの経営する宿屋【福音のマリス】。

 その地下にある“召喚”を行うための部屋だ。

 十日程前、この広い地下室で、エドガーはローザと運命とも言える出逢いを果たした。


 親友であり、幼馴染のアルベール・ロヴァルトが、彼にうらみを持つ男達に拉致らちされた。

 それを助けるために、アルベールの妹エミリアの協力のもと、エドガーは“精霊”を“召喚”しようとした。


 しかし、“精霊”イフリートを“召喚”しようと用意した触媒しょくばい、【消えない種火】に封印されていた“悪魔”が、“召喚”用の魔法陣と供物くもつの《魔道具》に反応して復活してしまう。

 復活した“悪魔”は、自らを“魔人”としょうし、エドガーに牙をむく。


 そんなピンチなエドガーを助けたのが、ロザリーム・シャル・ブラストリア。ローザだ。

 エドガーは、“精霊”を“召喚”しようとしていたが、実際に“召喚”されたのは、このローザだったのだ。

 《石》から目覚めた“悪魔”に襲われたエドガーは、彼女に助けられる。

 

 ローザはどうやら異世界、別の世界からこの世界にやってきたらしい。

 エドガーは、異世界から彼女を“召喚”したのだった。


 そんな大切な、思い出の場所になりそうなこの場所で。

 現在エドガーは、かなり戸惑っている。

 ――何故なぜならば。


『新たに異世界人を“召喚”しなさい』


 そんなローザの一言がきっかけで、エドガーはまた、この場で“召喚”を行ったのだ。

 エドガーを戸惑わせているのは、“召喚”したと思われる人物。

 黒い髪を馬の尾のようになびかせ、素早く移動する少女。

 そう、少女だ。

 エドガーが新たに異世界から“召喚”したのは、異国の装いをした可憐かれんな少女だった。


「おのれこの偽物・・めっ!!そこに直れ!」


「ちょ、ちょっと待って!落ち着こう!?」


主殿あるじどのは黙っていてくれっ!!」


 少女はエドガーの事をあるじと呼ぶも、袖口から刃物を取り出し、エドガーに向かって投擲とうてきした。

 正しくは、エドガーの後ろに隠れるもう一人・・・・の人物に。


「――きゃああっ!」


 可愛らしく悲鳴をあげたのは、勿論もちろんエドガーではなく。

 もう一人の、少女。


「な、なんなのよっ!いきなり!」


 もう一人の少女は、黒い髪を頭の上で二本むすびにし、見慣れない服とスカートをいている。

 影の少女の眼光がんこうに「ひっ!」おびえて、エドガーの後ろに隠れる。


「マジなんなのよっ!有り得ないでしょ!こんなの映画じゃんっ!!」


 聞きなれない言葉と、見慣れない恰好かっこう

 二人の少女は、どうやらお互いを敵とみているようで。


主殿あるじどの……その女を差し出すのだ!その偽物には聞きたいことがあるのでな……」


 影の少女は、エドガーの後ろに隠れる少女を偽物と呼ぶ。


「は、はぁ!!偽物はあんたでしょ!?変な恰好かっこうして……コスプレかっての……」


「な、なんだとっ!こすぷれが何だか知らぬが!馬鹿にしたな!?」


 ポニーテールの少女とツインテールの少女は、お互いにいがみ合い、ポニテの子はツインテの子を攻撃するのを忘れている。


「大体さぁ、何それ!今時【忍者】?古臭ふるくさすぎなんだけどっ!」


「なんだとぉ!私は【くノ一】だ!」


「同じでしょ!」


「違うわっ!!ボケっ!」


「はぁ?誰に向かって言ってんの!?あたしはこれでも学年一位なんだけど!」


「知るかっ!そんな足を出して、腹が冷えて子を産めなくなるぞ!!」


「ははっ、何それおばあちゃんじゃん!!ウケるっ」


「こ、こ、このボケぇぇっ!!」


「う、うっさい、馬鹿!!」


 口撃こうげき応酬おうしゅうに、エドガーは頭を抱えている。


「た、頼むから……でケンカするのはやめてくれぇぇぇぇぇ!!」


 同じ顔。しかし全く違う個性に、恰好かっこうもまるで違う。

 だが、双子の様なこの少女二人が、エドガーに呼び出される出来事まで、話は少しさかのぼる。

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