第29話 悪魔は倒したはずなのに・・・
多くの犠牲を払い、悪魔を討った。
街は未だに沈静化されていない。
一度、煩悩を暴走された者はその快楽に酔いしれ、まともではいられない。
警察が彼等を鎮める為、大規模に出動していた。
真由と俊哉は混乱に紛れて、逃げ出した。その途中で鈴丸は彼等の目の前から姿を消していた。
結局、この大混乱は三日ほど続き、死傷者は300人を超える数となっていた。その中には当然ながら、悪魔との戦いで犠牲になった者も含まれる。
警察は今回の事件を集団ヒステリーや薬物の影響だと説明したが、そんなのは嘘でしかなかった。だが、政府はあくまでも鬼、悪魔の存在を公表しない方針なので、この事件はそのまま、闇に葬られる事になる。
真由と俊哉には暫くの間、警察の護衛が付いた。護衛とは名ばかりの監視であるが。それを受け入れざるおえない状況なのも二人は解っていたので、素直に受け入れた。ただし、二人は常に一緒に行動するようにと言われた為、現在、公認の同棲生活を送っている。
同棲とは言え、監視されている中では何もする事など出来るはずも無く、ただひたすらに俊哉は悶々とした日々を過ごすだけだが。
同棲生活を送る真由の家の周りにはパトカーが並び、完全武装した機動隊が警備を固めている。家の中では背広姿のSPが目を光らせる。真由の家が豪邸で無かったら、とても窮屈な生活を強いられたであろうと俊哉は思った。
基本的には二人は真由の部屋でじっとしている事が求められた。出て良いのはトイレと風呂ぐらい。食事もわざわざSPが持って来てくれる。
真由の母親は稀に尋ねて来てくれるが、彼女は彼女で、偉い人との折衝などで忙しいようで、あまり家には居ないようだ。
俊哉はテレビを観ながら、隣に座る真由に尋ねる。
「あれで鬼は全て、倒したのかな?」
その問い掛けに真由は少し考える。
「それは無いわ」
「・・・そうなの?」
「えぇ・・・鬼は人の欲望や欲求から生まれると言われる。人が存在する限り、
生まれ続ける。だから、私達はこれからも狩り続けないといけない」
「そ、そんな・・・。あんな化け物がこれからも出て来るって事?」
「あれは・・・さすがに稀です。あんなに凶悪な鬼は私も初めて見ました。これまで見た鬼はせいぜい、そこら辺に居る犯罪者程度。あんな化け物みたいに強い鬼は・・・それこそ、平安時代などに出たとされる伝説の鬼ですよ。近年の資料でも戦前や戦後すぐに数十人の被害を出しつつ、退治した記録がありますが、それ以後は確認されていません。無論、姫騎士制度が導入され、我が家だけでは把握していない記録があるのかもしれませんが」
真由は不安そうにテレビ画面を見ている。多分、番組を見ているわけじゃなく、あの強力な鬼との戦いで恐怖心が根付いたのだろうと俊哉は思った。彼自身も刀として、戦いで体中が傷付いた。正直、死ぬと何度も思った。刀の状態だと、あまり痛みは感じないと言っても、刃こぼれをする度に痛みが走り、刀が曲がりそうな程に力が加われば、身体が軋むような思いをした。無論、真由に握られた部分は常に擦られ、気持ちが良いのだが。
「でも・・・だったら、あんなスゴイ鬼はもう出てこないんじゃないかな?まぁ・・・鈴丸が残って居るけど」
「鈴丸さんは・・・鬼ですが、邪気を持っていないみたいですし・・・要監視対象ですが、今すぐ、狩る必要性は無さそうですね。それに今回はかなり大きな貸しを作ってしまいましたし・・・相手が鬼とは言え・・・義理を欠くのは」
「そうだね。それにしても・・・どこに行ったんだろう?」
俊哉は姿を消した鈴丸を気にしていた。
「そうですね。うちの方も行方を追っているのですけど」
真由の家も含めて、警察も鈴丸の姿を追っているはずだ。幾ら鬼とは言え、人の姿をしている以上、完全に雲隠れをするのは難しいはずだが、捜索の網には掛からずに居る。
「はぁ・・・あいつも派手にやってくれたね」
一人の女子高生がコンビニのイートインコーナーで紙パックコーヒー牛乳を飲みながら警察官が行き交う街を眺めていた。
現在、街は県知事から戒厳令が敷かれ、濫りに外出する事が控えるように呼び掛けられている。だが、だからと言って、会社や学校が休みになるわけでもなく、多くの人が惨状を横目に行き交っている。
警察は目を光らせ、少しでも目につく者は片っ端から職質をしている有様だ。
当然ながら、白ギャル然とした彼女にも警察官は職質をしてくる。
派手なメイクに金髪。派手なネイルに腹の見える短い制服のシャツに太腿が露出したチェック柄の赤いミニスカート。
「君、名前と住所を教えて貰えるか。それと制服からして、隣の町にある県立高校の生徒だね?生徒手帳を見せて貰える?」
二人の警察官は厳しい表情で少女に尋ねる。
「ふふふ。なに?私とヤりたいの?」
少女は小ばかにしたような態度で答える。それに警察官は少し嫌な表情をする。
「馬鹿な事を言ってないで、生徒手帳を見せて」
「無いわ」
「忘れたのか?じゃあ、名前と学年。住所と・・・そうだな。両親の内で連絡がつく方の電話番号を教えなさい」
「嫌よ。私とエッチしたら教えてあげる」
少女は太腿を上げ、パンツが見えるぐらいにスカートの丈を右手で上げる。
「止めろ。お前、事件の関係者か?警察署まで来て貰うぞ?」
警察官はトランシーバーに手を伸ばそうとした瞬間、突然、股間に強い感触を受ける。
「ふふふ。ダメよ。おじさん。セッカチは嫌われるぞ」
少女は警察官の股間に手を当てた。そして、指先がしなやかに彼の股間をなぞる。刹那、彼は一瞬にして絶頂を迎え、気絶した。
「な、なにを?」
もう一人が慌てて、距離を置こうとするが、少女の動きは尋常ではなく、一瞬にして、彼も絶頂へと迎えさせた。
倒れた警察官を眺めて、少女は彼等の腰から拳銃を奪う。それを見ていたコンビニの店員と客は驚き、唖然としていた。
「あら・・・あんた達も最高の快感が欲しいの?一瞬で天国に送ってあげるわよ?」
拳銃の銃身を舐めながら、少女は彼等にそう問い掛けると、彼等は恐怖を本能的に感じ取ったのか一目散に逃げ出した。
「あら・・・淡泊な人達ね。まぁ良いわ。軍資金もいただいておきますか」
少女はコンビニのレジスターを器用に操作して、金を奪って店を出た。
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