第30話 地獄の始まり

 鬼は決して居なくならない。

 この事実を前に俊哉は悩む。

 聖剣となり、童貞も捨てられた。

 しかしながら、その事で今後はある意味で自由が奪われた事になる。

 「俺・・・一生、あんな化け物と戦う為に聖剣になり続けないといけないのか?」

 不安で仕方が無かった。

 もし、度々、鬼との戦いとなれば、まともに就職だって出来ないのではないか?

 否・・・考えて見れば、真由の家は確かに金持ちだ。ひょっとして、聖剣であれば、公務員なのか?

 俊哉はそんな不安を抱えながら、50インチのテレビでアダルトビデオを鑑賞していた。

 傍らには多くのアダルトなタイトルが置かれ、それを朝から晩まで観賞する。

 無論、それが趣味というわけじゃない。

 これは修行なのだそうだ。

 聖剣である以上、イチモツに不安があってはならない。常に大きく、堅くなる必要があるらしい。

 その為に古からこうして、エロい修行が求められるのだ。

 ただ、単にエロいと言っても、決して、本番やイチモツを擦ってはいけないそうだ。あまり経験を増やすと慣れてしまって、逆に性欲が減退するらしい。

 なので、こうして、アダルトビデオを見せられ、イチモツをカチカチにさせながら、イチモツに触れる事も許されないという苦行を与えられている。

 「ふむ・・・大きさも硬さも反りもよろしいですね」

 時折、音も無く忍び寄る佳奈美が俊哉の股間を確認する。

 正直、美魔女とも呼べる佳奈美は熟女らしい色香があり、襲ってしまいたくなる気持ちを抑えるのに悶える俊哉。そんな気持ちを知ってか知らずか佳奈美は俊哉を諭す。

 「御刀様もこの調子なら、長持ちしそうで良いですね。この間の戦いで多くの姫騎士を失ってしまい、この地域もかなり手薄になっています。再び、鬼が出没すれば、それこそ、地獄となるでしょう。それを防ぐためにはあなたが必要なのです。どうか、この修行に耐え、真由の力になってください」

 そう言われ、何となく、萎える俊哉。少し萎びたイチモツを見て、佳奈美があらあらと言いながら、触れるもんだから、一気に膨張して、我慢汁が噴き出し、一瞬にしてイッテしまった。

 

 先程の事件で街には不穏な空気が漂っていた。

 多くの死傷者が出た大事件で警察の捜査は続いているが、当然ながら、真実は隠され、警察は証拠隠滅に動いているだけだった。

 鬼の存在は隠さねばならぬ。

 遥か古よりの為政者によって、守られた事であった。

 警察組織にはその事に特化した部署がある。

 警察庁零係

 長官直轄の特殊部隊であり、構成員は全て、鬼退治に纏わる家の者であった。

 彼等は常に全国を飛び回り、姫騎士の支援をしている。

 時に、鬼を探索する任務をも負う。

 それは大事件が起きたこの街でも同じだった。

 「式神が鬼の気配を感じているようだ」

 型紙と呼ばれる人の形を模った紙の動きを見て、私服警察官の一人が呟く。

 彼等の多くは陰陽道を基礎としている。その為、陰陽道の技術が多く用いられる。

 世界中には姫騎士などに頼らぬ悪魔退治の技術はあった。だが、それらが廃れたのは姫騎士の力が圧倒的であったからに過ぎない。

 だが、それでも数で上回る陰陽師などは鬼退治において、大切な戦力であった。

 彼等は日夜、鬼を退治する為に動き続けている。

 

 私服刑事の一人が式神によって、あるアパートの一室に辿り着く。

 「ここか?」

 式神に尋ねると、紙が頷くように動く。

 「令状を要請する」 

 刑事の一人がスマホを手に取る。

 「いや・・・間に合いそうに無い」

 刑事の一人がそう呟いた瞬間、扉が吹き飛んだ。

 刑事達は慌てて、廊下を後退る。

 そこに姿を現したのは1人の女だった。

 パンツ一枚の彼女は大きな胸を晒したまま、刑事達を見る。

 「ふふふ・・・陰陽師達か・・・糞の役にも立たない連中だな」

 女は彼等を見て、鼻で笑った。それに刑事達は怒りの形相になる。

 「鬼だな・・・小馬鹿にしやがって」

 刑事達は懐から拳銃を抜いた。通常、私服刑事は拳銃を携帯しない。しかし、彼等は凶悪な鬼を退治する為に常に拳銃の携帯が許可されている。

 「そんな道具に頼るとは・・・陰陽師も腕が落ちたな」

 女は笑いながら廊下を歩く。刑事達は拳銃の狙いを定めて、容赦なく撃った。

 38口径の銃弾が次々と放たれた。

 僅か数メートル先の女を撃つのは難しくない。確実に当たった。彼等はそう思った。

 だが、銃声が鳴り終えた次の瞬間、刑事の首が宙を舞う。

 「ははは。お前等も私の力にしてやろうと思ったのだがな」

 一瞬で3人の刑事の首を切り落とし、女は血塗れになりながら笑う。

 銃声に驚いて、扉を開けた住人の男がその光景を見て、驚いて、扉を閉める。

 彼はすぐにスマホで通報をしようとした。

 その瞬間、吹き飛ばされた扉に押し倒される。

 「おいおい!お楽しみはこれからだぞ?」

 扉の上に女が立ち、倒れた男を見下ろす。

 「た、助けて」

 男は女を見上げながら懇願する。それが彼が見た最期の光景だった。


 警察が到着した時には3人の刑事と住人2人が死んでいた。

 住人の1人はまるでミイラのように体中の何かを吸い取られたように衰弱して、死んでいた。

 当然ながら、警察はこれが鬼の仕業であると判断し、付近の姫騎士の出動要請がなされた。

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