第25話 反撃の狼煙

 3人の姫騎士と3本の聖剣、一頭の鬼は街中を歩きながら、鬼の気配を感じ取っていた。

 「膨大な気配だな。どれだけ精気を食ったんだがか」

 鈴丸は呆れたように言う。それにフェリスは疑問を感じる。

 「悪魔は精気を得ないとダメなんじゃないの?」

 その問い掛けに鈴丸は笑って答える。

 「その通りじゃ。だが、別に生きて行くだけなら、命を奪うまで得る必要も無いじゃろ。せいぜい、数日に一度、普通にまぐわるぐらいで十分じゃ」

 「その程度で良いのですか?」

 「あぁ、だから、鬼でも普通の人と同様に生活している者など腐る程居る。まぁ、人と違って、寿命やら老いが無いからな。わざわざ、老けたように見せかけたりと面倒らしいがな」

 「人との子もなせるのですか?」

 驚いたイオナが尋ねる。

 「その辺はコツがある。事実としては鬼が人の子を産む事は無い」

 「コツって・・・何?」

 真由が冷静に尋ねる。

 「ははは・・・なかなか鋭いな真由。膜を破ってから、大人になったな?」

 鈴丸に揶揄われて、真由は顔を真っ赤にする。

 「ははは。まだまだ、お子様だな。もっと経験を積まないとな」

 鈴丸はそう言って、俊哉の股間をパンと叩く。

 「や、やめてください」

 俊哉も恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。

 「まぁ・・・よい。お前らがようやくまともに戦力になったわけだからな。いつまでもどーてー臭い御刀ってのも、見てられないもんな」

 鈴丸は周りを気にせずに言うから、俊哉たちは何も言えなくなっていた。

 「それで・・・この戦力で勝てるかどうか解らないが・・・他に戦力を補強が出来るアテは無いのか?」

 鈴丸は笑いながらも真剣に尋ねる。

 「ふん・・・同じ悪魔の癖に怯えているのか?」

 イオナはバカにしたように鈴丸に言う。

 「怯える?私がか?・・・まぁ・・・確かに」

 鈴丸は首を竦める。真由はその様子を見て、不思議に思う。

 「鈴丸は千年の時を生きているのよね?そんな鬼が怯えるの?」

 「ははは。私は隠れるように生きていた善良な鬼だからな。左程、精力も奪ってはいない。あのようにバカみたいに精力を奪いまくった奴とは力の差がある」

 「なるほど・・・まぁ、鬼に金棒ってわけじゃないわけね」

 「悪かったな。思ったよりも役に立たなくて」

 鈴丸は拗ねたように言う。

 「だけど・・・肝心の相手を探し出せないと・・・」

 真由はこの広い街の中で手掛かりも無く、探し出すのは難しいと思った。

 「そうだな。気配も大き過ぎて、絞り込めない。悪魔め」

 イオナも不満気に言う。

 「それでは・・・これからどうしますか?」

 フェリスは不安な様子でイオナに尋ねる。

 「多分、悪魔は人間を魅了して、手下にしているはず。狡猾な悪魔程、そうやって、人間を惑わして、手先にしている。そいつらを締め上げて、居場所を吐かせるしかないわね」

 イオナは自信満々に答える。真由はそれを鈴丸に尋ねる。

 「今の話、本当なの?」

 「あぁ、人の心を惑わして、都合よく、扱うって事はよくある。特に男だな。チョロい輩を適当に惑わして、金の工面をさせたりするじゃ」

 「男って・・・」 

 真由は呆れたように俊樹を見る。

 「ぼ、僕は違いますからね」

 俊樹は顔を赤らめて、抗議をする。

 「じゃあ、繁華街へ行って、早速、そいつらを探し出すとするか」

 鈴丸はそう言うと、繁華街に向けて歩き出した。

 

 繁華街はサイレンの音と怒号、悲鳴、喘ぎ声が飛び交っていた。

 事態の対応に当たっていた警察官ですら、暴力的になり、警棒を振るうどころか、発砲までしていた。

 人々は感情の抑制が出来なくなったように暴れ回っている。

 「地獄の沙汰か」

 鈴丸は涼しい顔でその光景を見ている。

 「あんたのお仲間が引き起こしている事よ」

 イオナは呆れた顔で言う。

 「だろうな。人間は弱いから。こうなると我等でも手に負えない」

 「魅了した輩が手に負えないって・・・」

 「そんなもんだ。別に我々は人の心を操っているわけじゃない。人間の心の底にある欲望を刺激してやっているに過ぎない」

 「コントロールを失った集団は怖いですね」

 真由は暴れ回る人々に怯える。

 「これが人間の本性でもある。理性がどれだけ人にとって大事か解るだろ?」

 鈴丸は解ったような事を言う。

 「それで・・・この中からどうやって悪魔を探し出すの?」 

フェリスは呆れた様子で見渡す。

 「そうだな・・・」

 鈴丸も見渡した。そして、何かを見付ける。

 「あいつだ。あのヤンキー集団のリーダーみたいな奴。あいつが一番、濃厚に鬼の匂いを出している」

 「なるほど・・・確かに。あいつを捕まえて・・・吐かせればいいんですね?」

 イオナはニヤリと笑う。

 「じゃあ、やりますか?」

 フェリスは弟の股間に手を伸ばす。軽やかに撫でられ、二人の少年が一瞬にして、剣へと変化した。

 「真由。お前も御刀を手にせんか。素手でやったら、さっきの二人みたいに犯されるぞ?」

 「犯されてません」

 二人の少女は恥ずかしそうに鈴丸に怒鳴る。

 真由は俊樹の背後に周り、手を股間へと伸ばした。まだ、ぎこちない動きの指が股間に触れ、それに興奮した俊樹の股間は一気に誇張した。

 そして、立派な刀へと変化したのだ。

 「さぁ、やるぞ」

 鈴丸は目の前に現れた若者を投げ飛ばし、一気に駆け出した。

 「てめぇ!なんだぁああああ!」

 突然、仲間を吹き飛ばしながら駆け寄ってきた鈴丸に標的になったヤンキーのリーダーは怒鳴る。だが、鈴丸はそれを無視して、彼を殴り飛ばす。

 「げへぇ」

 ヤンキーのリーダーは軽々と身体が宙に浮いて、数メートル、吹き飛んだ。

 「はははっ。弱いな。なんだお前ら?」

 鈴丸は勝ち誇ったように仁王立ちする。

 「なんだこいつぅ!」

 「やらせろやぁ!」

 ヤンキーたちがリーダーが殴り飛ばされたにも関わらず、怒りに狂いながら、鈴丸に襲い掛かる。だが、その程度の者達が鈴丸に勝てるはずも無く、次々に殴られ、投げられた。

 その間に勝てないと思ったリーダーは早々に逃げ出そうとしている。

 「お待ちなさい」

 だが、その首筋に剣先が当てられる。その剣の持ち主はイオナだった。

 イタリア語で呼び止められ、リーダーは何の事かと解らず、逃げ出そうとする。

 刹那、イオナは彼の首を切ろうとした。だが、その前に彼の頭がフェリスに踏まれる。

 「イオナ様。彼はイタリア語が解りません。と言うか。大抵の日本人はイタリア語が解りませんよ」

 「そうなのか?」

 「当然です。まともに英語すら喋れない輩が多いのに、イタリア語なんて・・・」

 フェリスは呆れた。

 「いつまでそうしているつもりだ?早く、そいつの口を割らせろ」

 ヤンキーを全て倒した鈴丸が笑いながら言う。

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