第19話 あなたのそれって・・・そういう事なんですね?

 その日、ニュース速報にはバス事故にて、多数の高校生が死亡したと流れた。

 無論、それは精確な情報では無い。殺された高校生は皆、真知子に殺されたのだから。だが、悪魔について、極秘を貫くのが世の流れの為、慣例的にこのように秘匿される。

 だが、当然ながら、姫騎士ではすぐに情報が共有される。

 「まさか・・・姫騎士を数十人も含む討伐隊が壊滅されるなんて」

 驚きを隠せない真由。それを聞いた鈴丸は涼しい顔をしている。

 「まぁ、あのアバズレ。見た目よりも強そうだったからな。だが、無傷では無かろう。だとすれば、今なら、攻め入る隙はあるかもな」

 鈴丸の言葉に真由は息を飲む。

 「なるほど・・・解りました。俊哉様・・・我等で弔い合戦といきましょう」

 真由は俊哉の手を引いて、歩き出そうとした。

 「おいおい。幾ら何でも備えも無しって・・・そいつらだって、完全装備の上、数も集めて、やった結果、返り討ちにあったのだぞ?幾ら弱体化していると言っても、お前らだけじゃ、無理だ」

 「あなたも居るでしょ?」

 真由は鈴丸を見た。

 「私もか・・・だが、それでも確実ではないな。それでに出来れば、装備を整えたい。こんな制服姿じゃ、防御力がな。お前だって、そうだろ。もっと俊哉が喜ぶような露出の多いあの姫騎士の鎧を着ないとな」

 「な、何を言っているんですか?私は巫女です。巫女装束で十分です」

 真由は恥ずかしそうに怒鳴る。

 「ふん。巫女装束か。それとて、男を喜ばせるように良い感じに開けるではないか」

 鈴丸は面白くなさそうに呟く。

 その時だった。

 「ここに居たか」

 姿を現したのは傷付き、ボロボロのフェリスだった。彼女は聖剣である弟の肩を借りて、何とか歩いて来たようだ。

 「あなた、ボロボロじゃない。それにその姿」

 「あぁ、悪魔退治に失敗した。騎士団は壊滅したわ」

 彼女は力尽きたようにその場にへたり込む。

 「何があったの?」

 真由はフェリスを抱きかかえながら尋ねる。

 「真知子を討伐する為に騎士団の全てを投じた。勝てると思った。だが、奴は想像以上の強さだった。多分、事前に力を見極める為に姫騎士3人を当てたが、そこで聖剣を奪われ、力を漲らせたのだろう。失敗したわ」

 「ふん。聖剣の生命力を吸ったぐらいで強くはならん。元々、あいつは強い悪魔じゃ。それに素体にした身体が良かったのじゃろうなぁ」

 「素体?」

 俊哉は不思議そうに尋ねる。

 「あぁ、素体じゃ。我等、鬼は元々実体の無い存在。何もしなければ、霧散してしまうようなものだが・・・身体を得ることで、この世界でこうして居れるのだよ」

 鈴丸の説明に俊哉は少し頭を捻る。

 「と・・・言う事は・・・鈴丸の身体も・・・元は誰かの身体って事か?」

 「その通りだ。定期的に乗り換えないと、身体が維持が出来んからな」

 真由が嫌そうに鈴丸を見る。

 「鬼は人間を食い物にしないと自らの存在も維持が出来ない存在なのよ」

 真由に言われて、鈴丸は笑う。

 「まぁ、そう言うな。お前らに協力してやろうと言うのだ」

 「それよりも素体にした身体が良かったって?」

 「うむ。我らの力は確かに強いが、実体としての力は素体にもよる。病気や何かで弱っている身体や運動神経の悪い体はやはり、それを引き摺るのだよ。だから、素体に選ぶ時はある程度、優秀な身体を選ぶのだ」

 「そ、そうなのね」

 さすがにそれは知らなかったのか真由が納得した。

 「ふむ。鬼の秘密を漏らしてしまったな。まぁよい。それよりもあの悪魔、多分、今頃、素体を変えているだろう。顔も姫騎士共に露わにされたしな。多少、面倒でも、新しい素体を探しておる頃だろうな」

 「素体になる女の子は誰でも良いの?」

 「女じゃなくても良い。ただ、男だと生命力を吸うには効率が悪いのだがな」

 「効率?」

 俊哉が考える。

 「解るだろ?男は突っ込むだけだが、女は受け入れる事が出来るからな。圧倒的に力を注ぎ込んで貰えるのだよ。男ではああはいかん。肉体的に強くても、それではな」

 鈴丸は大笑いをする。それを聞いていた真由は顔を真っ赤にした。

 「それで・・・素体を乗り換えるには何か儀式が居るの?」

 俊哉に尋ねられて、鈴丸は考える。

 「うむ。儀式と言うか・・・前提条件が整う事が大事だな。まずは出来たてほやほやの素体・・・つまり死体だ」

 「死体・・・」

 「それも死んですぐのだ。だから、大抵の場合は殺す。ただ、殺し方も大事で、致命傷を与えたり、病気などで死んだ奴はそれを自分も引き摺るからな。出来る限り、損傷を少なくして、殺す。これが結構、難しいのだよ」

 「嫌な技術ですね」

 真由が呆れたように呟く。

 「だから、慎重にやらないといけないのだが・・・因みにこの身体は自殺した娘の身体を頂いたのだ。私はあまり無理矢理、身体を奪うのは好まないからな」

 「そ、そうなんですか・・・」

 「練炭自殺だったから、体の損傷も無くて、良かった」

 「あまり聞きたくない話ですね」

 真由はジト目で鈴丸を見る。

 「容姿だとか、色々と気を遣うのだ。素体選びってのはな」

 鈴丸は笑いながら言うが、俊哉も真由も溜息をつくしか出来なかった。

 「それよりも・・・あの悪魔が素体を変えていたら、また、発見するのが難しくなるわね」

 真由は不安を口にする。

 「そうだな。・・・だが、素体を変えたばかりはチャンスとも言える。素体と魂が馴染まず、まだ、力が発揮が出来ないからな。出来れば、このチャンスを逃したくはないな」

 その時、フェリスが声を発した。

 「なるほど・・・チャンスか・・・ならば、いつまでも倒れているわけにはいかない」

 ボロボロのフェリスは何とか立ち上がろうとする。

 「姉さん。無理をしては・・・」

 「バカ・・・仲間を皆殺しにされて・・・悔しくないのか?」

 フェリスは弟を叱る。

 「いや、フェリスさん・・・無理をしたら・・・」

 俊哉もフェリスの身を案じる。

 「チャンスなんだろ?今こそ・・・やるしかない」

 「だが、姫騎士の部隊は壊滅したんだろ?ボロボロのお前が居てもダメだろ?大人しく、寝てろ」

 鈴丸がつまらなそうにフェリスに言う。

 「私は先祖代々、悪魔を狩ってきた貴族の末裔・・・部下を殺されて、おめおめと寝てられるか」

 フェリスは立ち上がった。

 「なるほど・・・お前だけは格別だと思ったが・・・真由と同じか。解った。お前も私の仲間にしてやる。これより、悪い悪魔を討伐へと向かうか」

 鈴丸は立ち上がった。

 「この新しい金棒であいつを叩きのめしてやるわ」

 鈴丸は重そうな金棒を片手で持ち上げ、肩に担いだ。

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