第17話 襲撃
真知子の前に立ちはだかったのは褐色の肌に黒髪の少女。
「あら?何か用かしら?」
真知子は解り切ったような笑顔で尋ねる。その問い掛けに少女はニヤリと笑みを浮かべただけだった。刹那、真知子の左右、背後から襲い掛かる三人の少女。その手には剣やサーベル、スピアがあった。彼女達は通行人を装い、真知子の僅か数メートルの場所に居た者達。だが、それが作戦だった。真知子の動きを止め、その瞬間に襲い掛かる。
それぞれが持つ聖剣であれば、悪魔であっても傷つける事が出来る。
だが、真知子は三方向からの一斉攻撃をクルクルと身を回し、踊るように軽々としたステップで刃先をスレスレで回避して、飛び込んできた三人の少女を張り倒し、投げ倒した。
一瞬の出来事だった。路上に倒れる三人の少女。場は騒然とした。その瞬間、最初に真知子を止めた褐色の肌の少女が結界を結んだ。それで一般人はこの事態を忘れたようにその場から出て行く。
「ははは。良い奇襲だった。危なかったよ。ブレザーの上着がズタボロにされてしまった」
真知子は切れた上着を脱ぎ、放り捨てる。
「ナイフは持たないの?」
三人が立ち上がる間を与える為か、褐色の肌の少女は短剣を抜き放った。
「ナイフ?あぁ・・・上着のポケットに入れたままだったわ」
その時、立ち上がった少女の1人が褐色の少女の前に出る。
「ペコラ。こいつは聖剣じゃないと無理よ。幾ら清められた神具である短剣でも、こつには通用しない」
彼女は覚悟を決めたように片手剣を構える。
「ほぉ・・・なかなか良い目をしているな。ただ、殺すには惜しい。お前みたいな姫騎士は捕まえて、凌辱の限りを尽くして、全てを奪い去るのが楽しいのだが・・・まぁ、ちょうど、聖剣が欲しかったところだ。三本も一度に貰えるのなら、女は殺しても構わないか」
真知子は右手をスカートの中に入れる。
「あぁ・・・あんっ」
僅かに吐息を漏らした。すると、股間から何かが抜かれる。
「あの鬼の為にと用意したのだが・・・試し切りには都合が良い」
それはピンク色の柄を持つ黒いスピアであった。
「あ、あんな物が・・・」
四人の少女達は驚く。
「み、みんな・・・ここは一度、撤退して、フェリス様に報告を」
ペコラと呼ばれた少女がそう告げる。
「ペコラ・・・それはあなたの役目よ。悪いけど・・・どうやら、あなたを逃すぐらいしか・・・出来そうにない」
片手剣を持った姫騎士が悔しさを滲ませながら背後のペコラに向かって言う。他の二人の姫騎士もペコラを一瞥して、コクリと頷く。
「ほぉ・・・その小娘を逃す為に・・・ここで死ぬつもりか?」
真知子は手にした黒い刃を舐めながら、三人に尋ねる。
「悪いけど・・・ただで死ぬつもりはない。我等の使命は・・・お前の暗殺。仮に失敗したとしても、お前の事は全て、調べさせて貰う」
「私の身体を隅々と調べたいのか?ははは。百合も構わぬが・・・私の愛し方はかなりハードだぞ?」
真知子は手にした剣を振るう。細みの刃は鞭のようにしなりながら振るわれる。
「行けっ!神の御加護をっ!」
姫騎士が一斉に真知子に飛び掛かる。その間にペコラは奥歯を噛み締めながら、彼女等に背を向け駆け出した。
聖ルナリアル女学院
郊外の閑静な住宅街の中にある高校。
元は明治時代に建てられた教会であった。
現在は幼稚園から短大まで揃った学園であり、孤児院まである。
中学から高校までは男女別学になっている。
その保健室でペコラは手当を受けていた。
「傷は思ったより深くなかったの幸いです」
医師免許を持つ養護教諭がそう言うので、周囲に居る生徒達は安堵する。
「残った田中さん達の安否は・・・」
誰かがそう口にした。真知子と戦った三人の事だ。すでに1時間以上が経つが、一切の連絡を絶ってしまっている。
「暗殺に失敗した以上・・・総攻撃を仕掛けるしかありませんね」
深刻な表情で呟いたのは高校の生徒会長を務めるフェリスである。
「総攻撃ですか・・・ここで大きく戦力を低下させると・・・間近であるとされるアルマゲドンへの備えが・・・」
生徒会役員の1人が不安そうに尋ねる。
「確かに・・・だが、どちらにしても、たった一匹の悪魔に勝てないのだとすれば・・・アルマゲドンを乗り越える事な出来ません。これは試練なのです」
フェリスの言葉に全員がコクリと頷く。
真知子は三人の姫騎士を惨殺した。
それは悪戯に嬲りながら。生きたまま、手足を一本づつ、切り刻み、悲鳴と嗚咽を最高のBGMとした。
ボロボロになった聖剣の少年達はその場に崩れ落ちるも生きたまま、彼女に捕まる。彼らは抵抗するも真知子に聖剣の形にされ、束ねられた。
「収穫、収穫と。良い解体ショーだったぞ。女の悲鳴やすすり泣きはいつ聞いても楽しい。出来れば、もっと時間を掛けたかったが・・・悪いな」
そう言うと彼女はその場から去って行った。
残された少女の惨殺死体は結界が解けたと同時に人々をパニックにした。
無論、この後、事件は揉み消されたが、しばらくは世間を騒がせた。
「昨日・・・繁華街で少女が三人、手足を切断されて、殺されていたそうです」
教室で真由は真剣な表情でその事を俊哉に伝える。
「少女って・・・姫騎士なの?」
「警察からの話だと・・・聖ルナリアル女学院の生徒だったそうです」
「聖・・・あのフェリスさんの・・・」
「多分、悪魔を始末する為に送り込まれたのだろう。少数で襲ったとすれば、かなりの手練れだったに違いありません」
「手練れ・・・それで聖剣の人も?」
「その場に死体が無かった事からすれば・・・連れ去られたと考えるべきでしょ」
「じゃあ、今頃は・・・」
「悪魔の餌食です。生きていると考えるのも難しいでしょう」
その一言に俊哉はゴクリと唾を飲み込む。
「ぼ、僕らは・・・」
「慌てないでください。姫騎士が3人も束になって敵わない相手です。十分に準備をしてから掛からないと返り討ちになります」
「その通りだな」
突然、話に割って入ってきたのは鈴丸だった。
「あなたに話をしていません」
真由は少しムッとして、鈴丸に言う。
「気にするな生娘。あの悪魔・・・かなりの強さだ。並の姫騎士やら巫女やらが束になっても簡単には倒せん。まぁ、私もそうだがな。昔の事を思えば、鬼討伐となれば、数百人の兵にて、行う事。それを姫騎士と言え、数人は難しかろう。出来れば、術者なども揃えて、可能な限り、相手を弱らせねば・・・」
「悪魔を弱らせる方法があるの?」
俊哉の問い掛けに鈴丸は笑う。
「鬼が言うのも変な話だが、陰陽道や修験者などの術は鬼の精神に響くのじゃ」
「へぇ」
「鬼から直接に聞くと・・・納得させるわね」
真由は呆れたように答える。
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