第12話 鬼ってこんなライトなんですね。

 狭いカラオケ屋の個室。

 ソファで二人の少女に挟まれた俊哉。

 緊張で何も考えられないまま、時が過ぎる。

 その間に、鈴丸は物珍しいのか、次々と曲を選び、歌っている。真由も初めてなのか、勝手が解らない様子で、鈴丸に適当に入れられた曲を歌わされている感じだ。

 一通り、鈴丸が楽しんだ後、真由が意を決して、鈴丸に問い質す。

 「私達をここに呼んで、何の用ですか?」

 それに鈴丸は思い出した様子で、答える。

 「あぁ、そうじゃった。悪魔だ。悪魔。お前らが言う悪魔って奴を何とかしようって話だ」

 「悪魔・・・あなたはどこに居るかご存知なんですか?」

 「知らん」

 その一言で俊哉と真由はコケる。

 「お前らだって、他の人間がどこに居るかなんて、解らんだろ?私だって、他の鬼や悪魔がどこに居るかなんてわかるわけが無い」

 「そ、そうなんですか?」

 真由が不思議そうに尋ねる。

 「そうそう。稀にお前らが鬼が凄い存在みたいにしているけど、寿命が無い事と怪力だって言うだけで、然程、お前らと変わらんよ。まぁ、低俗な魑魅魍魎共が少々、特殊な感じはするが、あれらだって、私達からすれば、犬、猫みたいなもんよ」

 鈴丸は注文したポテトを食べながら答える。

 「怪力だけですか・・・この間、姫騎士の研修会に行って来ましたが、悪魔は様々な魔術を扱うとか」

 真由の言葉に鈴丸は笑う。

 「魔術ねぇ。そんなのは奇術の類よ。悪魔だって言っても、この世の理をねじ曲げる力なんてありはしない。日本でも古から占い師とか居ったが、大抵は奇術か詐欺の類よ。そんな事は我等だってやる」

 鈴丸の言葉に真由は目を丸くしていた。

 「ははは。生娘は脅されてまんまと騙されたんじゃな。よいよい。300年前でもそんな事を本気で信じていた奴など腐るほど居ったわ」

 俊哉はその言葉に驚く。

 「300年?鈴丸は一体、幾つなの?」

 「女に年齢を聞くもんじゃない。・・・まぁ、私もあまり覚えていないが、さっきも言ったように私達には寿命が無い。存在自体が曖昧だからな。求めるのは人間の生命力だけ・・・こうして、飯を食っているが、これとて、あまり意味のある行為じゃない。ただ、旨い事は解るから、食べるけどな。ただ、人の世の影で生きているだけの存在じゃ。だから、きっと、人がこの世に生まれた時に生まれたんじゃないかと思うし、そもそも、300年前の私と現在の私は一緒かと言われると・・・自分でも自信が無い」

 「はぁ」

 俊哉と真由は納得したようなしないような顔をする。

 「まぁ、それはそうとて、悪魔だ。私の情報網ではな。悪魔がこの街に来ているようだ」

 「あなたの情報網?」

 真由が訝し気に尋ねる。

 「勿論、鬼同士のネットワークじゃよ。昔馴染み同士、SNSのグループを作っている」

 鈴丸はそう言うと、スマホを見せる。それも最新型の高い奴だ。

 「い、意外と、現代的なんですね」

 「当たり前じゃ。鬼は常に流行を追うのじゃ。楽しい事は生命力を吸うのと同じぐらいに我らの力になるからな」

 「そ、そうなんですね」

 「まぁな。それより悪魔じゃ。あいつらは私達と違って、人を食い潰すからな。奴らは本当に人を餌だとしか思っていない。だから、姫騎士とか呼ばれる連中も滅する事に力を入れるのじゃ」

 「へぇ・・・それで悪魔はどんな感じなんですか?」

 俊哉が感心したように尋ねる。

 「知らん」

 あっさりと返事する鈴丸。

 「知らないって・・・ネットワークから話が来たんでしょ?」

 真由が少し怒り気味で聞き返す。

 「そうじゃ。だが、残念ながら、姿を見たと言われる奴はすでにこの世に居ない可能性が高い」

 「消された?」

 「ふむ。悪魔か・・・姫騎士か・・・我等も解らないが、危険だから、そこには近付かないようにしているからな」

 「そ、そうなんですね。仲間が心配にならないのですか?」

 俊哉に尋ねられて鈴丸は頭を捻る。

 「私達の存在はお前らとは違う。滅せられても・・・長い年月を眠れば、再び、こうして、戻って来るからなぁ」

 「えっ?」

 真由が驚いた。

 「驚くことじゃない。寿命が無いって事は生物じゃないからな。言い方を高尚にすれば、概念的な存在と言うか、エネルギー体と言うべきか。こうして、ここに実体化しているが、この肉体とて、仮初であり・・・まぁ、電脳世界で言うとこのアバターみたいな?感じだ」

 「アバター・・・って事は容姿が変えられるのですか?」

 「多少わな。自由度が低いし、初期設定は自分の意思は繁栄されない感じじゃ。この辺はどういう原理なのか。我等の間でも疑問として残っている」

 「という事は数千年を通して、我々が滅して来た事は同じことをただ繰り返しているだけ?」

 真由が茫然としながら尋ねる。

 「まぁ、そうなるな。ご苦労な事だ。まぁ、それでも役には立っているはずだぞ。鬼でも昔は人間界を支配しようなんて野望を持っていた時代もあったからな。今はむしろ、共存だがね」

 鈴丸は笑いながら炭酸飲料を飲み干す。

 「まぁ、とにかく・・・悪魔には気を付けろよ。あいつらは狡猾じゃ。私達も信長の時代から奴らと対峙しているが・・・あんな、性悪な輩を野放しにしていたら、この世から人は根絶やしにされるぞ」

 鈴丸の言葉に真由と俊哉はゴクリと息を飲む。

 「まぁ、真剣な話はここまでにして、まずは歌うぞ!まだ、歌っていない新譜があるからな」

 「えぇ」

 それから1時間、鈴丸に付き合って、二人は歌い続けることになる。

 

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