第10話 転校生が積極的に僕の股間を狙ってくるんですけど

 「鈴丸千鶴でーす!ちーちゃんって、気軽に呼んでくれると嬉しいな!」

 黒髪をツインテールにしたコケテッシュな感じの美少女。

 昨日の鬼だった。

 「あっ」

 それに気付いた俊哉はうっかり、声が出た。それに気付く鈴丸。

 「あっ!あんたが昨日の!」

 それに担任教師やクラスメイト達が俊哉を見る。

 「お前・・・鈴丸と顔見知りか?」

 担任教師に尋ねられ、俊哉は強張りながら顔をゆっくりと左右に振る。鈴丸はそれを無視して教室中に響くような可愛らしい声で言う。

 「ううん!顔は知らないけど、チン〇は見たよ!」

 瞬間、凍り付いた。

 「あ、あの・・・鈴丸・・・い、いや、いい・・・おい、望月。あとで職員室に来い」

 凍り付いた空気のまま、朝のホームルームが終わった。

 その後の休憩時間では見た目が凄く可愛らしいから男女問わず、クラスメイト達が彼女に集まる。その間に俊哉は慌てて、真由の元へと向かった。

 「昨日の鬼が・・・転校生?」

 真由は唖然とした。

 「そうなんだ。向こうは何故か僕の事を覚えていて」

 「お、鬼なら・・・聖剣の匂いであなたが解ったのかもしれません。だ、だけど・・・どうやって転校なんて・・・幾ら人間みたいな容姿をしていると言っても、転校する為には住民票など、必要な公的書類は多いはず。どうやって・・・」

 「それよりも・・・どうするの?学校に入り込んだって事は何か考えているのかも?」

 「本当ならば・・・調伏したいところですが・・・私だけの実力では・・・」

 真由は苦渋の表情を見せる。

 「じゃあ・・・」

 「暫くは様子を見ます。同じクラスの俊哉様は鬼から目を離さないでください。万が一には戦う準備を私もしておきますから」

 「解った」

 

 俊哉がクラスに戻ると一時限目が始まる直前だった。

 午前中の授業が終わるまで俊哉はずっと鈴丸を見ていた。だが、どこまで見ても普通の女子高生と変わらない感じであった。ただ、時々、視線が俊哉と合うので、慌てて、躱すのが大変だったが。

 昼休憩に入り、皆が弁当を用意したり、購買に行ったりする中、俊哉は報告も含めて、真由の元へと向かった。

 最近は真由が弁当を作って来てくれるので、昼の食事には困らないってのもある。

 「俊哉様・・・鬼はどんな感じですか?」

 真由は重箱みたいな弁当箱を開けながら、俊哉に尋ねる。

 「うーん・・・普通?」

 「普通・・・人間に馴染もうとしているのでしょうか・・・何を考えているのかわかりません」

 真由は悩みながら、お茶をコップに注ぐ。それを俊哉が受け取る。

 「あっ!こんな所に居たんだ!」

 突然、姿を現した鈴丸の姿に俊哉は口に含んだお茶を噴き出した。

 「きったないなー!」

 鈴丸はそんな俊哉の姿を見てケラケラと笑うが、その間にも真由は立ち上がり、札をポケットから取り出していた。

 「あら?お札かぁ・・・そんなん、魑魅魍魎じゃあるまいし、私には効かないよ?」

 鈴丸はニヤリと笑う。それに真由は悔しそうに睨むだけだった。

 「それにしても旨そうな弁当だな?」

 鈴丸は玉子焼きをポイと掴み、口に放り込む。

 「あっ!」

 真由が驚く。

 「んんっ!旨い!旨いぞ!砂糖の加減が秀逸だ!お前が作ったのか?巫女なぞ辞めて、私の料理番にならんか?」

 「なりません!人をおちょくるのもいい加減にしなさい!」

 真由は札を投げつけるが、鈴丸はそれを何事も無いように右手で払い落す。

 「札なぞ。効かん効かん。まぁ・・・お前らが鬼を目の敵にするのもわからんでも無いが・・・鬼が皆、人間の敵って言う発想は危険だぞ?」

 鈴丸は笑いながら言う。

 「ど、どういう事ですか?」

 その言葉に俊哉が気にして尋ねる。

 「ふむ。昔話でも鬼が必ずしも悪い奴とは出て来ないだろう?中には良い鬼だっている。そういう事だ。まぁ・・・他の・・・世界ではどうか悩ましいところだが・・・日本において、我々は必ずしも人からすれば敵とは限らない存在になり得るという事だ」

 「意味が解らない」

 真由は鈴丸を睨みながら俊哉の股間を掴む。いきなり掴まれて驚く俊哉。

 「ははは。御刀を抜くか。話は最後まで聞け。我々も困っているのだよ。お前らで言うところの悪魔・・・西洋の奴らがこの地に入り込んできて・・・我々を脅かしている」

 鈴丸の話に真由は少し驚く。

 「悪魔・・・鬼と悪魔は違うのですか?」

 「愚かだな。そんな区別も無いのか?お前らが姫騎士と巫女と別々の歴史から違うように我々だって奴らとは出自が違う。根本的に似た存在でも歩んだ歴史が違うならば・・・それは違うのだ。人だって同じだろ?」

 「そ、それは・・・だが、今の話だと・・・あなたと悪魔は反目しているようですが?」

 「そうだ。ヨーロッパからやって来たあおの性悪女共は・・・我々の領域にズカズカと踏み込んできた挙句・・・仲間を殺しおった」

 「鬼と悪魔が殺し合っている?」

 真由と俊哉はゴクリと息を飲んだ。

 「まぁ、そうなるな。お互い・・・欲しい物は同じだからな。それが限られているなら・・・奪い合うしかない。奴らは強欲だからな。全てを欲しがる。我々みたいな奥深さが無い。だから、姫騎士って奴があれだけ必死なのもそれが理由。奴らは悪魔と数百年、戦い続けた。そうしなければ、世界は悪魔によって滅ぼされていたからな。我々はむしろ、人と共存を望んでいる。欲望に任せて、食い尽くしてしまっては意味がないからな」

 鈴丸は笑いながら今度はタコさんウィンナーを食べた。

 「食い尽くすとは・・・料理じゃないわね?」

 「そうじゃ。鬼も悪魔も望むのは人の魂・・・生命力って奴じゃ」

 「人の命・・・」

 俊哉は自分の胸を抑える。

 「ははは。私はそんあ濫りに欲しがらない。確かに美味しそうだがね」

 「渡しませんよ・・・。俊哉様・・・ぼ・・・ぼ・・・」

 「な、なんでしょう?」

 顔を赤らめる真由に俊哉は尋ねる。

 「勃起してください」

 小声で真由は俊哉にお願いする。だが、この状況で俊哉の股間は正常時のままだった。

 「はっはは。お前、やっぱり処女だな?こんな状況で堅く出来る男が居ったら世話は無いわ。そこは女のお前が頑張るところだよ」

 鈴丸は高笑いしながら、オニギリを手にした。

 

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