第9話 ヤバい相手が姿を現したよ。
対立する二人の女子。
大剣を上段に構える真由とサーベルをフェンシングの構えを取るフェリス。
緊張感が漂う。
俊哉は不安そうに真由に尋ねる。
「おいおい、まさか、本当に斬り合うのか?」
それに真由は答える。
「まさか・・・叩きのめすだけです」
殺す気は無くても・・・殴り合う気は満々だった。
間合いを取りながら、二人はゆっくりと動く。僅かな隙を伺う為に。
フェリスのただならぬ雰囲気に俊哉は殺されると思った。
だが、睨み合う二人は互いに剣を下ろす。
「何か・・・鬼の気配を感じます」
「強いわね。こいつは・・・半端じゃない」
二人は示し合わせたように駆け出した。
空間が変わる。結界だ。
きゃあああああ!
悲鳴が聞こえた。
「ルリ!」
フェリスが飛び掛かる。だが、一瞬で彼女の身体があらぬ方向に弾かれた。
「フェリスさん!」
真由は身構える。その先には人が居た。
真由達と同じぐらいの年頃の少女。
ただし、真っ黒な甲冑を身に纏っている。
姫騎士?俊哉は一瞬、そう思った。だが、彼女の額には二本の角が生えている。
「ほお・・・そいつは立派な聖剣だな。なかなか、楽しませてくれそうじゃないか?そいつを寄越せ・・・こんな小さな物じゃ、満足が出来ないと思っていたところだ」
少女は左手で胸元を掴み上げていた少年を放り捨てた。下半身を剥き出しのまま、気絶していたそいつはルリの聖剣だった者だ。
「鬼・・・相当に強い・・・」
真由は大剣を振り上げた。
「ほお・・・姫騎士・・・そんな大剣をよく、振り上げた。褒めてやろう。死ぬ前にな」
鬼と呼ばれた少女は腰に携えていた金棒を手にする。
鋲が埋め込まれた金棒はいかにも痛そうだ。
「悪魔っ!私はまだ、負けてないわ」
フェリスが立ち上がり、サーベルを構える。
「あぁ、お前か。まだやる気があるのか?」
鬼はつまらなそうに言い放つ。
「ふん・・・舐めるな。ルリの仇は討たせて貰う」
「ルリ?さっきの小娘か。素早いだけで蝿のようだったわ」
大笑いをする鬼。フェリスは怒りを込めて突進する。
「笑うな悪魔!」
素早いサーベルの切っ先が鬼の首を捉える。
「お前も素早いな」
鬼はそう言い放ち、金棒でサーベルの切っ先を叩く。だが、それでも素早く連撃を繰り出す。鬼は金棒でそれらを防ぐのが手一杯のようだ。
「俊哉様!いきます」
真由が一気に飛び込む。フェリスの攻撃を防ぐのに手いっぱいの鬼の頭に大剣が振り下ろされる。仕留めた。そう思った時、大剣の刃を鬼は右手一本で捕まえた。
「ははは。まだまだ、大剣を振るうには力不足のようだな。巫女よ。それと蝿のように五月蠅い姫騎士。殺す前に我が名を教えてやろう。我が名は鬼武者・・・鈴丸。さぁ・・・死ね。そして、お前らの聖剣を堪能させるがよい」
鈴丸は金棒を一閃して、二人を吹き飛ばした。
「がはぁ」「ぐぅ」
二人とも激しい一撃を身体に受けて、数メートルを吹き飛ばされて、地面に伏した。
「ははは。刀を離さなかったのはなかなか。だが、残念だが、その頭、かち割ってやろうじゃないか」
フェリスの前に立った鈴丸は金棒を振り上げた。
「やらせません!」
横から飛び込んできたのはルリだった。手にしたナイフは鈴丸を刺すことは出来なかったが、鈴丸が振り上げた金棒を逸らすには十分だった。ルリは鈴丸が軽々と払っただけで吹き飛ばされる。
「強いですね」
真由は立ち上がった。それに鈴丸が驚く。
「腹を殴られて、立ち上がるか。甲冑も無しに頑丈だな」
「鍛え方が違いますから。鬼には負けません」
真由は大剣を正眼に構える。
「振り上げぬか・・・身の丈にあった事だ」
鈴丸は金棒を構える。
「そいつだけじゃない・・・ぞ」
フェリスも立ち上がった。
「ふむ・・・しぶとい奴らばかりだな」
鈴丸はニヤけながら、周囲を見渡す。
「こんだけの聖剣・・・一度に味わえたら・・・どれだけ楽しいか」
彼女は胸を左手で胸を揉みながら恍惚の表情に変わる。
「へ、変態」
その雰囲気に真由は背筋が凍る思いをする。それを聞いて、鈴丸は笑う。
「変態?バカね。あんた・・・まさか、処女なの?」
鈴丸は一足飛びで真由の直前に迫った。
「はっ」
そのあまりの速度に追いつけず、真由は固まった。
「ははは。処女なんだ。鬼斬りの巫女の癖に処女とか笑わせる」
「わ、笑うな!」
真由は大剣を薙ぐ。だが、鈴丸は跳躍で刃を軽々と躱す。
「遅い。遅い。あんたの剣技じゃ、私は斬れない」
鈴丸は甲冑姿とは思えぬ身のこなしで再び距離を置いた。
「処女、処女・・・処女の癖にそんなぶっといの・・・痛みに耐えられるかい?」
鈴丸は金棒を舐めながら言う。それを聞いたフェリスがクスクスと笑う。
「悪魔の戯言に共感するのは癪だけど・・・確かに」
「あ、あなたね!」
真由はフェリスに怒りを向ける。
「ははは。今日はなかなか楽しかった。獲物は見させて貰った。また、順次、頂きに上がるとしよう。さらばだ」
鈴丸は闇に紛れるように消えた。
「き、消えた?」
一同が驚く。
「あれが・・・高位の鬼の姿・・・」
真由は少し怯えたように呟く。
翌日、真由と俊哉は学校で昨日のことを話し合った。
真由は高位の鬼と遭遇したのは初めてだった。伝承で高位の鬼は姿を持つ。ただし、その姿についてはまさに鬼という感じだと誰がも思っていた。
だが、昨日、出会った鬼は限りなく人の姿に近い。否、美女だった。
確かに強さは人外とも言えた。1対1なら確実に真由は殺されていた。比較にならないぐらいの実力差があった。
「昨日は遊ばれたという感じです」
「遊ばれた・・・下手したら、あの場でみんな殺されていた?」
俊哉は驚きながら尋ねる。それに真由は深く頷く。
「誰もが勝てなかったでしょう・・・今まで、我々が封じてきた魑魅魍魎とはまったく違う。異質の強さでした。あれが本当の鬼。我々が戦わねばならない本当の敵だったわけです」
「はぁ・・・戦うって言っても・・・刃が立たないんじゃ・・・」
「大丈夫です。一人で無理なら多数で・・・古から鬼退治は一人で行うものではありません。それこそ討伐隊として数十、数百の兵を連れて、やるものです」
「戦ですね」
「戦です。それほどに鬼は恐ろしい相手なのです。都を滅ぼすとも国が亡ぶとも言われる相手ですからね」
「はぁ・・・でも、見た目はそんな感じはしなかったけど」
俊哉のボロッと零した言葉に真由が睨む。
「ご、ゴメン・・・」
俊哉が謝るのを真由は無視して、話を進める。
「とにかく高位の鬼が出現したことは問題です。もう、時間の猶予はありません。対策を立てねば・・・」
そうしている間にも朝のホームルームが始まる。俊哉は自分の教室に戻るとすでに担任教師が来ていた。その横には見慣れない女子生徒が立っていた。
「みんな、転入生だ」
そう担任教師が紹介したのはとても綺麗な顔立ちをした女子生徒だった。そして、俊哉は彼女に見覚えがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます