第1章 14『天使会議』
(本当にこんなとこにいていいんだろうか·····)
周りにいる天使はほぼ銀色のバッチをつけている。つまるところ大天使だらけだ。円形の直径十メートルに迫る大きい机とそのまわりに設置された椅子、それだけが置かれた広い空間の中に天使たちが集まっている。
「どうした。少し顔色悪いぞ」
「いえ、なんでもないです」
「そうか、なんかあったらすぐ言えよ」
そうシゲルに話しかけてくるのは隣で椅子にもたれかかってリラックスしているセルメントだ。
「セルさん、そりゃこんな状況なら緊張くらいしますよ」
「まぁそうだわな」
シゲルから見てセルメントの逆側に座っているラックがシゲルの方を見ながら言う。さらにその隣には分厚い本を黙々と読んでいるローザの姿もある。
それはそうと何故こんなにシゲルが緊張しているのかというと、大天使に囲まれているだけが理由ではない。大天使たちの視線がシゲルの方に明らかに集中していたからだ。確かに大天使から見たらいきなり来た新参者が四大天使の隣に座っているのが許せないのだろう。
(どうしてこうなった···)
昨日、ミミズの魔獣を死闘の末なんとか討伐したあと、またしてもラックと森中を駆け回るも魔獣は一匹も見つからなかった。そしてセルメントの家には寄らずリーク塔へ行き三階の治療室みたいなところで傷を大方治してもらったあと帰宅した。地上に戻らる気力もなくすぐ床についた。
そして今日。いつものようにセルメントの家に行くと、セルメントが門前にいた。そして
「行くぞ」
と言うとすぐに飛びはじめた。シゲルも急いであとを追う。セルメントは森には向かわずリーク塔へ向かって行き、リーク塔五階に降り立たった。セルメントについて行くとこの五階の大半を占めているだろうこの広い部屋について現在に至る。
(もう何がなにやら)
そもそもなぜ自分がこの場所にいるのかさえ分からないし、その上セルメントの隣だからとても目立つ。穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった。セルメントの隣に座っていてセルメントと仲良く話している美しい金髪の美女のことも気にする余裕もなくて、周りの大天使の小言一つ一つがまるで自分のことを言っているようにも感じられた。
「静粛に」
セルメントが急に立ってそう一声かける。それだけでこの広い部屋は一気に静寂に包まれた。そしてセルメントの横に座っている美女が
「これから天使会議を開始します。これからの動きと現状報告をするため全員よく聞いてくださいね」
と全員に呼びかける。どうやらこれから会議が始まるらしい。ますますなぜ自分がここにいるのか分からなくなってきた中、会議は始まった。
************************
「まず今の魔獣についての現状から伝えたい。我らが最も恐れる六角魔獣が夢幻の祠にいることが昨日発覚した。これはティアナの気配の加護で確かめたため間違いない」
セルメントはそう言って隣の美女を手で指し示す。どうやらあの美女の名前はティアナというらしい。
「報告の情報と合わせると今回の主犯と六角魔獣のうち、五匹は夢幻の祠へ。あと一匹はまだ森にひっそりと隠れて、森の魔獣をまとめていると思われます。私たち天使はまずこの森にいる一匹と大量の魔獣に的を絞ります」
ティアナがここまで言うと、次はセルメントが話始める。
「今まで通り森の魔獣の戦力を削っていく。そして恐らくもう時期大きい戦いが始まる。その時に備えて全員しっかり心身整えてくるように。あと今回の主犯は王国について詳しい他国のものだと思われる。恐らく決戦ではどこかの国が攻めてくる。しっかり気を引き締めて取り掛かるように。以上、質問は?」
セルメントが全員を見渡して聞く。するとシゲルのちょうど向かい側にいる気弱そうな大天使が恐る恐る手を挙げた。セルメントが「どうぞ」と言ってその天使を指す。その天使は中途半端に立ち上がり質問する。
「こちらが先手を打って夢幻の祠に行って六角魔獣を討つのはダメなんですか」
「お前バカか」
「え?」
セルメントは即却下した。質問した天使はその放たれた一言に戸惑いを隠しきれずあたふたした。しかしシゲルも確かにこれは考えた。先に仕掛けるのはどうかと。だがこんなことはセルメントも当然考えていた事だし、それを実行しないのは絶対なんらかの理由があると、そう踏んでいたからだった。
「さっき言ったようにこちらは相手の状況を把握して無さすぎる。もし夢幻の祠へ軍を送ったら森の魔獣とどこかの国が一気に王都目指して攻め込んでくるかもしれない。また、奴らがこちらの動きを観察していないとも限らない。軍を送った瞬間無限の祠から逃げてこちらへ来るかもしれない。こんな状況でも君は攻め込むって言うのか?」
「い、いえ。すみませんでした···」
その天使は青白い顔をしながらゆっくり座った。セルメントはもう一度全体に
「他に質問あるやつはいるか」
と聞く。五秒経っても誰も挙手しなかったためセルメントは
「じゃあ会議を終了する前に一つだけ注意事項を。六角魔獣のうちの一匹と森で遭遇してしまった場合は、直ぐにその事をほかの天使に伝え、逃げることだ。以上で会議を終了とする」
言い終えると周りの天使たちは次々と立って出口の扉へ向かう。シゲルはさっきセルメントに残ってくれと言われていたのでずっと椅子に座って待っていた。
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「私は天使軍第三将ティアナ·ウリエル。よろしくね、シゲル君」
「よ、よろしくお願いします」
いつもの緊張癖でまたしても噛んでしまった。今部屋にはセルメント達しか残っていない。どうやらシゲルが残っている理由は、ティアナ達に自己紹介するためだという。『達』というのはもちろんティアナの両翼も残っているからである。
「おい、そろそろ自己紹介くらいしたらどうだ。大天使二番手さん」
ラックはシゲルの肩に少し体重を預けながら、恐らくティアナの奥にいる茶髪で細い目付きで眼鏡をかけているいかにも真面目そうな男に向かってそう言い放った。
「その無駄口、ランク戦が再開されたら二度とたたけないようにしてやるからな」
そして二人が睨み合っていると、そのいかにも真面目そうな男の後ろからこちらも茶髪で目がつり上がっていて、見るからに厳しそうな女が前に出てきて
「二人とももっと両翼の責任をもっている責任を感じろ」
そう言い放つ。ラックは観念したのか「へーい」と言って下がった。そして厳しそうな女はこちらを見ると
「四大天使第三将ティアナ様の両翼が一人、カーネット·サキネルと申す」
「同じくカムシン·ヴァーク。以後よろしく」
二人は顔色ひとつ変えず自己紹介してきた。
(厳しい人達だなー)
などと思いながらシゲルは
「先日天使になりましたシゲルと申します。よろしくお願いします」
としっかり自己紹介した。
「よし、今日は俺が一緒に行ってやるよ」
そう言ってセルメントは扉の方へ向かっていく。シゲルは残りの人達に一礼してからセルメントを追う。
全てはまだ始まったばかりだった。
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