第1章 12『意地』
両者一定の距離を置いて睨み合う。シゲルはミミズの出だしを待つことにした。そのうちジリジリとミミズはシゲルの方へ少しずつ近づいてくる。シゲルはとにかく反撃を決めることを狙い動かない。
両者の間が十メートルくらいになった時、ミミズがまた体を高速に拗らすことによって、突撃を仕掛けてくる。真正面からぶつかれば質量の大きい向こうの方が断然有利なので、シゲルはまたも横へ飛び退く。
その時、ミミズはシゲルの予想をはるかに上回る攻撃をしてきた。なんと全身をウェーブするように上下させてから、尾の当たりを思いっきり地面に叩きつけることによって、跳ねたのだった。宙で半回転してその巨体を、横っ飛びしているシゲルの進行方向に上から叩きつけようとしていた。
しかもその狙いも的確で、このままの勢いだと間違いなく、あの一撃の餌食となるだろう。勢いを殺すため、左足でブレーキをかけるがバランスを崩して転げる。
その瞬間シゲルのわずか五メートル先くらいで、大地が爆散したような地響きが起こった。巨大ミミズの一撃が振るわれたのであった。その威力は絶大で辺りが砂が舞い、シゲルは周りが見ずらくなった。
(砂埃が収まるまで待つっっ!?)
そんな呑気なことを考えてる余裕はなかった。渾身の一撃を外した巨大ミミズは、シゲルの所に緑の強酸性の液体をいくつも吐き出してきた。砂埃で視界がだいぶ遮られているため来る寸前で避けるしかなく、横っ跳びしたり、後ろに一回転するなどしてなんとか当たらずにすんだ。
しかし五発目を躱した時、足が躓いてしまい体制を崩した。ミミズは追い討ちするとばかりに特大の六発目を吐き出してくる。
しかし大分砂埃も落ち着いてきたので、シゲルは早く反応することが出来て、ギリギリで跳躍することで、当たらずに済む。なんとか避け切れたことに安心していると、ミミズは浮いて踏ん張りが効かないしげるに向かって思いっきり尾を叩きつけてこようとしてきた。
(どうする、どうする···)
天拳で対抗しても足場がなければ軽々吹っ飛ぶだろう。わずかな時間で必死に考えているとある躱し方が閃いた。
(そうだ、飛べばいいんだ)
そう考えたシゲルは飛行準備をする。しかしシゲルはある大事なことを忘れていた。それは飛ぶのにはとてつもないほどの集中力を必要とすることだ。天拳を発動させているシゲルの集中力の半分は、天拳の維持に使われているため、飛ぶことは出来なかった。
ものすごい勢いできた巨大ミミズの一撃は容赦なくシゲルの腹を抉ったのだった。
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あばら骨がミシミシと悲鳴をあげる。口からは唾液と一緒に血が吐き出された。そして思いっきり地面にたたきつけられる。その衝撃でさらに背骨も悲鳴をあげた上、臓器が麻痺したような感覚に襲われる。そして、それらはシゲルに今までに味わったこともないような、激痛を与える。そしてシゲルは気を少しでも抜けば間違いなく、意識が無くなる状態にあった。
ミミズはゆっくりとこちらへ向かってきている。最後のトドメを指すつもりだろう。シゲルは激痛の中地面に這いつくばりながら
(天使になればこういうこともあるって言われただろ)
(こんな痛みくらい我慢しなきゃ一人前になれない!)
そんなことを自分に言い聞かせる。そして、残りわずかの気力を振り絞って立ち上がった。
「ペッ」
口の中にあった残りの血を地面に吐き出す。そして前の巨大ミミズを見据えて、自分で自分を鼓舞するために
「行くぞっ!」
と叫ぶ。
(怖くなんかない。こんなやつも倒せないで何が天使だ!)
そしてシゲルは天拳を握りしめて、ミミズに向かって走り出した。
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「今の街なんだっけ」
「バーベルよ」
「じゃああと半分くらいか」
「あと四時間くらい頑張りましょ」
セルメントとティアナは現在王都リークから見て、北へ北へと全速力で飛び続けている。目指しているのは北の果てにある『夢幻の祠』と言われている場所だ。
『夢幻の祠』とはいつからあるのか、なぜ出来たのかなども分からないものでテネス王国の最北端とも言える場所にある。外から見ると普通の一階建ての一軒家くらいの大きさなのに、中に入るとそこは亜空間のような場所で、何百という部屋がある。そして、入るところが檻みたいのと木製でてきているため、『夢幻の祠』などと名付けられた。
今セルメント達が夢幻の祠に向かっているのは、六角魔獣と今回の主犯が北へ逃げたという情報から夢幻の祠へ行ったと推測したからだ。
その理由は簡単で北にはなんもない、といったら分かりやすいだろうか。西や南なら他の国へ亡命すると考えもするのだが北へ向かったならばまず有り得ない。
途中で進路を変更してダクラス帝国に向かう、というのも無くはないのだが、それならば最初から西へ向かえばいいし、少しだけ天使軍を欺こうとしていて北へ行ったと見せかけてからすぐ西に向かうというのも王都周辺の街を張っている天使に必ず見つかる。森の深くにあった魔獣研究所を特定して襲撃したことから間違いなく主犯はテネス王国について、詳しく調べ尽くしている。無限の祠も知っているに違いない。
そんなこんなで、最北端の夢幻の祠を目指しているのだが、やはり遠く四大天使の二人でも、全速力で飛んで片道八時間、往復十六時間はかかる。
「あと1時間くらいしたらどっかの街で休むか」
「そうね。お昼にしましょう」
そうやってセルメントに並列して飛ぶティアナは、両手を胸の前で組み笑いかけてきた。その可憐さにセルメントは照れくさくなり、目を前に逸らしてしまう。そんなやり取りをしながら二人は常人には見えないほどの速さで広大な草原の上を飛び続ける。
そんな二人でも草原の草の上にいたノミくらいしか大きさがない蜘蛛の魔獣が二人の姿をしっかり捉えていたことはさすがに気づけなかった。
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