第1章 10「地上と天界」
そこは予想以上でも予想以下でもないセルメントの屋敷から十分程度で着く、平凡な二階建ての2LDK一軒家だった。唯一驚いたのは家具一式既に揃えられていたことぐらいだ。
どうやらそこは天使が持っている家、地上で言うところの社宅といったところだろう。シゲルはいきなり始まる天界の一人暮らしに不安の気持ちは大きかったが、別に地上でも一人暮らしのため慣れていこうと思った。
「どうだ、気に入ったか?」
「はい」
セルメントの質問に答えながら茂はリビングに置いてあるソファーの座り心地の良さにとても驚いていた。他の家具も全て高級品にしか見えない。ちなみにローザは先に帰ってしまったため今はセルメントしかいない。
「じゃあ明日のことを言うぞ」
シゲルはソファーから立ち上がり真剣にセルメントの話を聞く態度をとる。
「明日は九時頃に俺ん家に来てくれ」
「明日は一緒に討伐に行けますか?」
「いや、明日も一日中やることがあるから行けない」
「そう、ですか」
「それじゃもう俺は帰るから。あとは自由でいいぞ」
そう言ってセルメントは帰って言った。
「さて、何をするのやら」
すると腹の虫が鳴った。
「まず飯食おう」
シゲルは決して料理ができない訳では無い。しかし作れるレパートリーも少ないし、そこまで美味しくないし、何より
「そりゃあー冷蔵庫はからだよな」
空の冷蔵庫を見てそうつぶやく。食材を買いに行って調理や外食というのも面倒だ。ちなみにお金はさっきセルメントから給料三十万もらった。月給はこの家の賃料を引いても三十万も出るらしい。
(うーん)
悩んだ末シゲルはバッジの赤いボタンを押して地上に戻ることにした。
バッジ裏の赤いボタンを押すとどんどん体が透け始め、淡い光に包まれながらゆっくり消えていった。
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意識が一旦無くなりすぐに戻って来るような感じがした。そして徐々に覚醒していき目を開けると、そこは見慣れたリビング。紛れもなく自分の家だった。
「地上に戻っても一人か···」
現在の時刻は六時を少しまわったくらいだ。スペアロボットの一日の行動が勝手に脳に入っていく。細かい癖なども完璧に再現していて、友達との接し方も完璧だ。これでこれからも任せることが出来る。
それにしても地上に来るのってそんなに一瞬ではないことを知った。これでは天界で闘っている時とかに逃げる手段としては使うことが出来ない、と思った。
冷蔵庫を開けてみると、昨日の食べ残しやスーパーの惣菜などがあった。それらをレンジで温めてテレビを見ながら食べる。
食べ終わって皿を洗おうとしたが、面倒なためスペアロボットにやらせることうにした。
(今日は疲れたし寝ようかな····)
シゲルは地上ではなくとても高級でフワフワのベッドが置いてある天界へ戻り、軽くシャワーを浴びてから寝た。
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翌朝。シゲルは昨日相当疲れていたのか八時まで寝てしまった。学校だったら遅刻確定の時間だが、セルメントとの約束時間は九時。朝飯とか食べても十分前にはつくことが出来そうだ。
しかし朝飯を作るとなるとやはり買い出しに行かなければ行けないため、そこから作るとなると時間ギリギリになってしまうかもしれない。そこでシゲルは二万円を財布にしまい朝は外食で済ますことにした。
商店はまだ閉まっているところが多かったが、飲食店は結構朝から開店していた。茂はとある喫茶店に入りフレンチトーストとコーヒーと目玉焼きを食べることにした。
食べてみると味は何ら地上と変わらず安心した。値段も六百円と地上と変わらない物価だと感じた。そして食べ終わり店を出てからすぐにセルメントの家に飛んで向かった。そして十分前の八時五十分に着いた。
屋敷の周りには一応塀があるが飛んでいる身としては関係ない。屋敷の前におりてインターホンを鳴らすと扉はすぐ開いた。
「お邪魔します」
靴を脱ぎリビングに行くとそこにはセルメントともう一人紅蓮の髪に紅蓮の目、つり上がった目付き、身長はセルメントと同じくらいだが少し怖い感じがした。
その人物はシゲルがリビングに入って来るとズカズカとよってきた。シゲルは恐怖から本能的に手に力を込めて、いつでも天拳を発動できる状態にしてしていた。
するとその人物はシゲルの手前で止まり「ガハハ」と笑ってから
「いきなり天術の発動させようなんてそりゃねーぜ。警戒心丸出しかよ」
「お前は初対面の人から見たら少し怖い顔つきだから仕方ない」
「そんな事言わないで下さいよセルさん」
返答したセルメントをセルさんと呼ぶ獰猛そうな男は茂の方に向くと右手を差し出して
「俺の名前はラック·アルカディア。大天使のトップでセルさんの両翼の一人。以後よろしく」
「えっと、コウノシゲルです。よろしくお願いします」
そうしてシゲルもアルカディアの右手を握り返して握手をした。その手は見た目よりずっと硬くしっかりしていた。天拳を出していない時のシゲルの細い手とはまるで違った。きっと幼少期から積んできたトレーニングだろう。セルメントがシゲルに話しかける。
「今日はラックと討伐に行ってかれ。こいつこう見えても大天使の中でも一位だ。いっぱい学んでこい」
「はい、今日一日よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
互いにもう一度手に力を入れたあと離した。ラックが続ける。
「シゲルの能力って、天拳だけなのか」
「は、はい。そうらしいです」
「じゃあ俺と同じだな。俺は天刀しか使えねぇんだ」
「だから今日一日こいつから立ち回りとか、色々教えてもらえよ」
「分かりました」
「よし、先に俺は行くからあとは二人で。じゃ」
そう言うとセルメントは玄関に向かい、外へ出てしまった。
部屋にいるのは二人だけだ。シゲルがラックに話しかけようとしたその時、風を切る音がした。状況から考えてラックから発した音。そして、シゲルは強い危機感を覚えた。ラックの方から何かがくる。手に力を入れるが天拳は咄嗟に発動しない。
ラックの方を見ると、いつの間にかラックに握られていた刀がシゲルの首筋へと迫っていた。
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