第1章 9『状況確認』
「これで終わりだ!」
横から迫る長い舌を跳躍することで避けたあと、下降する勢いに乗り天拳を蛙の頭に叫びながら叩きつける。でかい蛙のような魔獣は呻き声を微かにあげて倒れた。そして塵へと変わっていく。
今日だけでもう三体も討伐した。初日にしては、充分闘えた気がする。ローザから聞いた話だと魔獣はあと三百匹くらいだという。何チームもこの森で討伐してるため、このままの単純計算だと十日くらいで終わってしまうらしいが、現実はそんなあまくない。
まず魔獣は森のひっそりとした所で隠れていることが多いため見つけるのに時間がかかる。そして天使でも不意打ちや強い魔獣の群れに会い、返り討ちにあうこともある。そのため茂たちが三体も討伐したのは普通の中天使などだったら無理に等しいらしい。最もセルメントなどの四大天使達や大天使の上位は高速で徘徊できる上、感覚も普通より何倍も鋭いためできるらしいが。
ローザの加護も常に発動はしているものの集中しなければ、あまり範囲は広く無いらしいため、この蛙のような魔獣を探すのにも時間がかかってしまい、日は暮れようとしている頃だった。
「もう帰りましょう」
そう言って茂とローザは飛んで森から抜け出して、王都リークへ向かっていった。
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「お疲れ。初任務どうだった」
「すごいワクワクして、スリルがありました」
「そうか、明日もよろしくな」
あのあとローザと茂はリーク塔ではなく、セルメントの家に帰ってきた。セルメントから伝えたいことがあるから家に来てとローザに連絡が来たらしい。
今三人はリビングの机を囲むソファに座っていて、セルメントと茂が向かい合い、ローザは茂から見て右に座って、紅茶を飲んでいる。まず茂がセルメントに尋ねた。
「それで、伝えたいことって何ですか?」
「色々あるがまず能力のことだ。天拳の調子はどうだ」
「今日行った三回の戦闘で天拳の出し入れには多少慣れました。でもとても集中力を使わないと出ないし、とっさには出せなそうです」
その答えにセルメントは、少し笑って
「最初は当たり前さ。でもそのうちもっと慣れてくると少しの集中で出したり、解放術も使えるようになれる」
「解放術?」
「あれ言ってなかったっけ」
「はい。初めて聞きました」
「そうか。解放術って言うのは自分が使ってる天術に慣れたり、一定以上の感覚を掴むと発動できる能力だ。それは自分の天術に合わせた能力だったり、なんの関係もない能力だったりと人それぞれだけどな。そのうち使えるようになるさ」
セルメントはそう言うと目の前のテーブルの上のマグカップを取り啜る。
「魔獣について新しい情報はありましたか?」
そうセルメントに聞いたのは、ローザだった。
「まず今朝の事なんだが、六角魔獣のうち五体と今回の主犯と思われる人物が、森の北に張ってた天使の包囲網を突破下て逃げ出した。そのあとの消息は掴めていない」
「なるほど。それは他国と連携していると考えて良さそうですね」
「ああ。だから今日からスナプスと側近には南西の前線都市ダーランで他国が侵攻してきた時のために構えてもらうことにした」
「何故一体だけ残したのでしょう?」
「連絡係だと思う。研究所の生き残りの職員の話だと、研究所は魔獣から出てる小さい信号を使って、魔獣同士テレパシーで意思疎通できるようにしようと思ってたらしい。でも結局それを可能としたのは六角魔獣だったと。 そしてそのテレパシーは六角魔獣同士だと遠くからでも意思疎通できるけど、普通の魔獣と意思疎通するために必要な範囲は結構狭い。だから一匹だけ森に残したと俺は考えている」
「分かりました。では明日からはその残った六角魔獣の一匹を見つけて倒せばいいのですね」
「さすがローザ。話が早い」
(······六角魔獣、他国?)
茂は今の会話の三分の一も理解できなかった。特に最初の方が全く分からなかった。そのため一回会話が途切れたここで質問を開始することにした。
「すみません。質問が二つほどあるのですがいいですか?」
「おう、いいぜ」
「まず他国ってさっき言ってましたけど天界っていくつかの国から構成されているのですか?」
「その辺はとても複雑だから手短に一から話す。あとちょっと待ってくれ」
セルメントは立ち上がり隣の部屋に行って、すぐに何かポスターみたいなものを手に持って戻ってきた。
そして、椅子に座ったあと机にその地図を広げる。
茂がその地図を覗き込むとそれはどうやら天界の地図らしかった。
正方形の形をしていて、大きい島が一つと小さい島が三つ、あと粒みたいに小さい漂流島のようなものが書いてあった。《《》》
セルメントは地図を指さしながら丁寧に茂に説明してくれる。
「この一番大きい島がここ、リークを王都とするテネス王国だ。ちなみに今スナプスが待機しているのがここ」
そう言ってセルメントが指したのは、茂たちが今いるテネス王国の中でも南西にあたる部分だ。そして、さらに南西にはテネス王国の面積の十分の一くらいしかない島が浮かんでいる。さらにその北と東に同じくらいの面積の島が浮かんでいる。
次にセルメントは、これらの島を指して
「これらが今テネス王国と敵対している三国、ダグラス帝国、ルーラン帝国、アクメス帝国だ。元々は全部てねす王国の一部だったんだが、本土との差別などの問題で独立してしまい、もうかれこれ三千年程になるんだが、未だ統一出来ずに敵対している」
「つまり他国と連携しているってことは、今回の魔獣騒動の黒幕はこの三国のうちのどれかってことか?」
「多分そうだと思う。だからスナプスには三国どこが攻めてきてもすぐ対応できるようダーランに行かせた」
「それじゃもうすぐどこかの国がこのテネス王国に攻め入るってことですか?」
「ああ、多分もうすぐでかい大戦が始まるだろう」
(戦争···)
地上の現代っ子にはもう縁のない話だと思う。まさか自分がこんな境遇に置かれるなんて、生まれてから一度も思ったことなかった。
(一ヶ月もせずに死んでしまうのでは?)
そんな心配も一瞬よぎったが今日の成果を自信にして、無理やり頭の中から振り払った。
そしてセルメントへの質問を再開する。
「さっき言っていた六角魔獣ってなんですか?」
「魔獣の中でも特に開発された奴らだ。六匹いるからそう呼ばれている。一匹一匹大天使の上位とやり合うくらいの強さを持っている」
「明日からは森でそのうちの一匹を倒すことを目的として、捜索するんですか」
「その通りだ」
セルメントはそう言った後立ち上がった。そして茂の方を見て
「じゃ、そろそろ案内してやるよ」
「どこへですか」
「お前のこれから住む家にだよ」
そう言ってセルメントは玄関に向かって歩き出した。
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