第1章 8『魔法と魔術』
「魔獣研究所が作られた理由をおぼえていますかな?」
セキの問いに答えたのはティアナだった。
「確かまだあまり解明されていない魔獣の生命体について調べるためですよね」
「その通り。そしてその生き残った職員の話だと最近研究で、魔獣からはとても微弱な信号を脳から発信させていることが判明した。研究者達はその信号を開発して、魔獣同士コミュニケーションさせるつもりだったが、このことを天使に話せば間違いなく中止になっていたということで報告しなかったらしい」
「マジかよ、それはやばいかもしれねぇな」
と渋い顔をしながらセルメントは呟く。
「そうね」
「でも開発した結果、広範囲に信号の発信が可能なのは我らが知っている最凶にして、高い知能も持つ六角魔獣だけだったらしい」
「なるほど、だから一匹だけ連絡用に森に残したってわけか」
「そうだ、そしてまず森の中にいる六角魔獣討伐が最初にしなければいけない。そして、森の魔獣と六角魔獣の通信を途絶えなければな」
「でもそのさらに前に私にして欲しいことがあるから呼んだんですね」
そうティアナが言ったのをセキは、頷いてから会話を続ける。
「さすがティアナ殿は話が早いな」
「こいつの気配感知の加護を使って居場所特定だろ。北に逃げたって時点でわかったぜ。つまりティアナの確認と、もし六角魔獣と遭遇した時のための護衛として俺も行けばいいんだろ、明日」
「その通りだ、セルメント殿」
「了解。明日出発すればいいだろ」
「うむ、くれぐれも気をつけてな」
そうセキが言うとティアナは、セルメントの隣に寄ってきたらセルメントの左手に優しく抱きついてきて
「大丈夫ですわ、せルメントがいるんですもの」
「ああ、任しとけ」
セルメントはまんざらもなくティアナの方に頭を少し傾けて言った。
「セルメント殿、ティアナ殿」
途端セキの表情が急に険しくなった。セルメントとティアナはこの真剣な気配にすぐに気づくと手を解き、セキの方へ向き直る。
セキは真剣な表情のまま問いかける。
「今回の騒動。主犯は誰だと思います?」
セルメントは「うーん」と少し考えてから
「俺は三つの国のうちのどれかがこの王都、リークを落とすための武器として魔獣を操ってる可能性が高いと思っている。ティアナは?」
「私もそう思うわ」
「うむ」
「俺の予想だともうすぐ大戦が起こる。対応が遅れないように今から気を引き締めていかないとな」
「そうね」
「そうだな。では明日、任せたぞ」
そうして三人は退室してそれぞれの場所へ向かっていった。
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「あー、疲れた」
茂は小川の前でぐったりと座り込む。
「お疲れ様です」
ローザはそう言うと茂に水筒を渡してきた。
「喉が乾いてるでしょう。その小川の水を汲んで下さい」
「ありがとうございます」
そうお礼をして水を汲もうとするが手を止めて聞く。
「この小川確かに透き通るほど綺麗そうですが、水質は大丈夫なんでしょうか」
確か昔テレビで見たことがある。山の水は綺麗そうだが、実は動物の糞などによって飲むのは危ないと言うのだ。この質問に対してローザは
「魔獣はそもそも糞をしませんし、普通の動物はこの森にはいません」
さすが天界。地上の常識をあっさり覆す。茂はこれからは地上の常識であまり考えないよう意識して生活をしようと思った。
そして水を汲んで戻る時に腹の虫が鳴った。結構な距離歩いたしサソリの後もう一体蜘蛛のような魔獣を討伐したため、いくら天使でも腹はへる。体力は全然残っているが。
蜘蛛の魔獣は最初のサソリに比べたらとても弱かったのか、二、三発天拳を入れるだけで討伐できた。
そんなことを考えているとローザは懐からパンを二つ出してそのうちの一つを茂の前に突き出してきた。
「これしかないので、我慢してください」
「ありがとうございます」
さっきの腹の音も多分耳が良いローザには丸聞こえだったことだろう。誤魔化す必要も無い。礼を言って遠慮なくいただく。
パンは中にバターが塗っているだけの簡素なコッペパンだった。味はあまり地上と変わらない。これで腹はいっぱいにならないが、足しにはなるし仕方ないと思った。
そして、茂はそんなことよりも大切なことをローザに聞かなければならないことを思い出した。最後の一口を食べ終わったあと、もう既に食べ終えているローザに向き直り質問をする。
「すみませんローザさん」
ローザはこっちに顔を向ける。話してもいいという合図だと認識して質問をする。
「サソリとの交戦の時僕を助けてくれたあのビームみたいなものはなんですか」
「あれは非具現化魔術です」
ローザは表情を全く変えずに答えた。
(いや、そんな当たり前みたいに言われても···)
初めて聞いた単語の羅列に茂は何一つ理解出来ず、戸惑う。
(そういえばセルメントは風魔法って言っていたような)
魔法と魔術の違いもよくわからない茂は頭が混乱してきた。
しかしこれから先、もし天使を続けるのならばこの知識は必須だと思うので一から教えてもらうことにした。
「魔術と魔法ってなんですか」
「一部の天人は属性魔力というのが体の中にあります。まずこの属性魔力というのがなければ魔法は使えません。魔術もです」
「じゃあ僕も使えないんですか?」
「はい。見た限りでは魔力は微塵も感じられません」
「魔法適性は生まれつきってことですか」
「そうです。あと遺伝とかもするので親で大体決まります」
「一回くらい使ってみたかったな」
「天人の中で二十人に一人くらいしか属性魔力はもっていません。しかもその中でまともに魔法を扱えるのは、さらに少ないでしょう」
「そんなに少ないのですか」
「でもあなたが使える天術の方がもっと少ないです。天術を使えれば天使になれるとも言われているほどです。で、魔法と魔術の違いでしたっけ」
「はい、そうです」
「魔法というのはさっき言った属性魔力を体の外に物体として具現化し操ることです。例えば氷魔法なら氷を自分の魔力分だけ作ることができます。魔術というのはその応用で主に魔法で作った物体に術式を刻んだり、魔力を直接使い術式を形成したりすることで、ありえないことも可能にしてしまうようなものです。使える術式は人によって全く違います。そして魔術を使える人はぼぼ魔法を使いこなしてる人です」
「なるほど。じゃさっきローザさんが言っていた非具現化魔術ってなんですか?」
「私はかなり特殊な例で、私は回復魔法以外の魔法の適性は全くないのに、風、炎などの十種類の魔術適性があるのです。すると術式を使おうとも、魔法適性がないため魔力を具現化できないので、結果魔力を直接放出することでしか攻撃が出来ないのです。それがさっき放ったものです。形はなくとも魔力の属性はあるので、一応属性効果は現れます。炎属性ならば熱いだとか」
半分くらいしか理解できなかったがとりあえず頷いておく。ローザは立ち上がり歩き始める。休憩は終わりということだろう。次の獲物を探しに茂も歩き始めた。
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