第1章 6『過酷な初任務』

もう一度後ろを向いて確認するもののやはりローザは、降りる気配すらも見せない。


(本当に一人で討伐かよ)


目の前にいるサソリはすでにこちらを睨んで巨大な三日月状の尾の先をブンブン左右に振り回している。対して茂は殴り方などは何故か体にインプットされているものの闘い方など微塵も知らない。しかも能力は最初想像していた、遠距離型攻撃の魔法などではなく殴るしかできない天拳のみ。セルメント達がいかに評価していてもやはり近距離限定は不利なのでは、といざ実践になったら思う。


サソリは威嚇してくるものの向こうから攻撃はしてこないとなんだとなく分かった。つまり茂が仕掛けるのを待っているらしい。


茂は前の巨大なサソリを睨みつけ覚悟を決めた。右手を固く握る。そしてなんの小細工もなしにサソリに向かって突撃してみた。


サソリはすぐに体を反転させて茂が間合いに入ってきたと同時に尻尾の先っぽを茂に横から叩き付けてきた。茂は、反射的に天拳を発動させ尾の先を思いっきり殴る。衝突した途端二つの間に爆風が発生する。そしてなんと茂の天拳が尾の先っぽを跳ね返した。


(よし、やった)


しかしそう思った途端なんと反対方向からまた尾が茂に向かってきた。なんとサソリは跳ね返した反動も使って反対方向に回転したのだった。油断していたしていた茂はさらなる遠心力で威力が増したその尾に何とか天拳を伸ばしてみるも、さっきみたいに殴ることも出来ず呆気なく吹き飛ばされてしまった。


そしてゴロゴロと十メートル程も転がり続けやっと止まった。立ち上がり自分の体を見てみると露出している所はほぼ傷付いていた。


「チッ」


小さく舌打ちしてもう一度前を見据える。サソリは相変わらずこちらに向かって尾をブンブン振って威嚇してくる。


茂はもう一回思いっきり足を踏み込んでサソリの方へ直進する。さっきくらいの間合いになった所でまたサソリは反転し尾の先を叩きつけてこようとする。


(同じ手は喰らわない!)


茂はその尾を避けるべく斜め前に跳躍し尾を回避する。


「よし」


しかしここで茂は、とんでもないミスをしてしまった。それは跳躍しすぎてしまいサソリの胴体も飛び越えてしまったのだ。第一茂の運動神経は、人間と比べものにならなくなっている程高い。そのため今までより加減しなければならなかったのだ。


サソリは宙に浮いた茂を逃すはずもなく体をもう一度反転して元の向きになおり尾の先を茂の位置に叩きつけてきた。その威力に踏み込む場所もない茂は為す術もなく、さっきより勢いよく吹っ飛ばされてしまった。


軽く十メートルは、超える距離のあたりでやっと地面に着いたものの、そこからさらに何度も転がりようやく止まった頃には全身磨り減っているようだった。

天使の服は何故か汚れているだけでどこも破れてなどいなかったが。


しかし茂は前を見た瞬間死を覚悟するほど驚いた。なんとサソリはさっきの位置から茂の方に向かって斜め前にジャンプしてきたのだった。避ける時間もない。いくら天拳でもこのサソリのプレスに敵わないだろう。


怖くて目をつむろうとした瞬間、サソリの左側の胴体を黄色い光が襲った。サソリは空中で茂から見て右に少しズレた。おかげで茂はサソリのプレスをギリギリ食らうことなかった。その隙に急いでサソリと距離をとると同時にローザの近くに行く。


「今のはローザさんが?」


「はいあのままだとあなたは間違いなくお陀仏だったので。あなたが死ぬと私の責任が問われるので死なない程度には援護します」


「ありがとうございます」


死なない程度に援護してくれるなら多少安心した。そしてサソリにもう一度向き直る。サソリは、さっきの攻撃で更に火がついてしまったようで、尻尾を高速で左右に振っている。しかしさっき攻撃を受けた場所は、なんともなってないように見える。覆われている殻は相当固いらしい。


(どうする?)


多分見た限りサソリの殻は天拳では砕けないだろう。しかしこのままでは防戦一方になってしまう。なら自分から仕掛けるしかない。


(まてよ、あのサソリなんで···。そういうことなのか?)


茂はあることに気づいた。そしてそこに勝機を見出し、そこに賭けてみることにした。そして三度目の突貫を開始する。




************************




サソリはやはり反転してその遠心力を使って巨大尾で攻撃してくる。茂はそれをさっきより軽い跳躍で躱しサソリの胴体をギリギリ飛び越すこすようにして、サソリの頭と五メートルくらい離れているところに着地した。サソリと近距離で目が合う。サソリはいきなり後ろに後退しようとし始める。しかし体が巨大な分やはり速度も遅い。


茂はサソリの思った通りの行動に少し微笑んで四度目の突撃をする。そう、サソリは全身を硬い殻で覆われているものの頭だけそれがなかった。そのため茂が突撃を仕掛ける度に後ろに向いて、それを尾で攻撃するためだと思わせていたわけだ。


サソリとの距離はあと三メートル


(もらった)


そう思った瞬間斜めから無数針が雨のように降り注いできた。茂はそれを本能で毒針だと理解し、右足で思いっきり地面を蹴りつけ右に跳躍することで避ける。


そして改めてサソリを見ると、サソリは尾を立てて三日月状の先っぽを茂に向けていた。おそらくそこからどくばりが出たのだろう。またサソリとの距離が開いてしまった。


(そう簡単には行かないか)


そう思って茂は五回目の突撃を仕掛ける。




************************





ノックして部屋に入るとそこには、一人の女性がいた。


「待った?」


「ううん、私も今来たところ」


セルメントは女性とそう言葉を交わすと女性の反対側の椅子に腰を下ろす。今セルメントがいるのはリーク塔にある小さな会議室である。白くて丸い机を囲むようにして四つの椅子があるだけのとても簡素な部屋だ。


「報告って俺とティアナだけか?」


「そうじゃないかしら」


今セルメントと会話している長いくて艶のある金髪を長く伸ばし、グリーンの美しい瞳を持つ女性の名はティアナ·ウリエル。四大天使の一人にして天界軍第三将を務めている。そしてセルメントと幼馴染でもある。今はもうそれ以上の関係だが。


そうして二人で話しているとドアがノックされ白髪交じる髪と、シワがところどころ見える年老いた六十代くらいの男が入ってきた。


「急に呼び出してどうしたんですか?セキさん」


セキと呼ばれた老人は二人を見ると「ごほん」と咳払いをしてから、


「魔獣について、重要な情報がいくつか入ったため伝えに来た」


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